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第21話 初めましてじゃないから
カスミン先輩は電車で通う遠さの高校に行ってるから、あたしより先に寮を出る。先輩を見送ってから、あたしはベッドの下に声をかけた。
「キーンーグ、出てこーい」
すると、ベッドの下からのそのそと這い出てきた、警告色の毛玉。
「この物体の下は狭いな。我をこんな場所に入れるなど真の王への侮辱だぞ」
「真の王真の王うるさいな。毛布敷いたじゃん。それにキングが隠れたいって言うからでしょ。一番いい隠し場所はそこなの」
キングはどうしてか、あたしと久遠と撫子さん以外の人の前には出てきたくないらしい。
自由自在に消えられるのかと思ったら、できなくはないけど大量のエネルギーを使うからやりたくないって。
……いやさ、消えるぐらい楽勝そうじゃない?
もしかしたらこのキング……真の王とか言っといて結構……ザコいのでは?
思っても、流石に口には出さないけど。
あたしもそろそろ学校に行く準備をしなきゃ。
買ってもらった黒いかっこいいリュックに、事前にもらった教科書を詰める。
そして、キラキラしたかけらが入った小瓶のキーホルダーをつけた。
この小瓶、蓋を開けて中身を入れられるやつで、中のキラキラは、あの日、割れちゃった、あたしのペンダントの石の破片。
割れちゃったのはすごく悲しかったけど、こうすれば、また身につけられる。
あたし、これをお守りみたいに大事にしてて、持ってると何故か安心するんだ。
……誰にもらったのか、覚えてないんだけどね。前、お母さんがくれたんだと思って聞いたら、違うって言われた。
「まあ、それはいいか」
あたしは最後の準備に取りかかった。
あたしは中がクッションみたいな気持ちいい素材になってるポシェットのチャックを開け、キングをその中に入れた。
「……乱暴に扱うでないぞ。我はお主を守るためについて行ってやるんだからな。こんな狭いところに入ってまで」
キングはポシェットの中から恨めしげな顔で見上げてくる。
「わかったよっ、でもさ、多分このポシェットの中極上の居心地だよ?」
いろんな店を、このポシェットのために探し回ったんだ。でもこっそり人に見えないように連れて行ったキング様のお気に召すものはなかったらしい。
そしたら、梨本さんが作ってくれた。裁縫が趣味なんだって。久遠の怪異警察道具が色々入ってるボディバッグも梨本さん作だって言ってた。
梨本さんのいるスタッフルームに行くと、フリフリの魔法少女服が飾ってあった……。自作らしい。到底梨本さんが着れるサイズじゃないけど、見てるだけで楽しいのかな。ほんとにあの人元怪異警察って感じしないけど、久遠曰く現役時代は怪異警察の中でも結構すごい人だったらしい。
何に使うのってちょっと不思議そうに聞かれたけど、なんとなく誤魔化しといた。
そして、中が超絶気持ちいいこのポシェットが出来上がったと。
それにしても、このしょぼそうな虎、あたしを守る守護霊だって言うけど、ほんとに守れんのかなぁ?
あたしを守るために学校にも連れて行ったほうがいいって撫子さんと久遠は言うんだけど。
あたしとしては、どちらかというと犬猿の仲の友達みたいな雰囲気なんだけど。
「我はあの美しい|女人《にょにん》に会ってから行くぞ」
「あーはいはい、撫子さんね? 確かに超綺麗だけど、その言い方は気持ち悪い」
気持ち悪いとはなんだ!? ってキングが怒鳴ってるけど、気にしない気にしない。
あたしは救護室に向かう。
「撫子さーん、いますか?」
「ええ。キングさんもご一緒なんですね」
キングは無言だ。
見ると、黄色い顔を赤く染めてる。
こいつ、わかりやすい。
キングは撫子さんに初めて会った時、一目惚れしたらしい。
あの美しい女人は誰だって大騒ぎしてうるさかった。
誰だも何も、君の生みの親みたいなもんですよ……。あの|守護霊創造球《スピリット・オーブ》なんてすごい名前のアイテム作ったの撫子さんなんだから。
撫子さんだよって教えたら、まさに美しいナデシコの花のような女人とかキザなセリフ言い出してちょっとキモかった。
「ハルさん」
顔を上げると、撫子さんがあたしを見て微笑んでいた。
「頑張ってください。私は応援していますよ。ハルさんならきっと大丈夫です」
言われずとも、なんのことかすぐにわかった。
「はい!」
「ハル?」
玄関のところで、久遠に声をかけられた。
「……俺も一緒に行く」
「え、いいの? ってかあたしなんかと一緒に行ったら目立っちゃうよ?」
だって教室での久遠は気配を消してて、いかにも目立ちたくありませんって感じだったのに。
「別に。怪異も心配だしな」
ああ、そういうことかってあたしは頷く。でもなんか悲しい。
あたしたちは寮を出る。
自転車もあるけど、それじゃ喋れない。なんとなく久遠と喋りながら行ったほうが安心できる気がして、学校までは少し遠いけど、徒歩で行く。
徒歩って言っても、あたしは超スローで歩いてる気分だ。だけどこの速さじゃないと、どんどん久遠と距離が離れちゃうんだよね、何故か。久遠にお前の歩きは走ってるみたいな速さだって言われた。そんなこと瑠璃乃にも言われたことがある気がする。
「キングは連れてきたのか?」
「うん、ここに。ついて行ってってやるんだから乱暴にするなとか色々小言言ってきたけど」
あたしは肩からかけたポシェットをポンっと叩く。中からうげっとうめく声がした。
どうしてか、久遠の視線は上を向いている。上ってか、あたしの頭だ。
あ、髪型?
「これね、カスミン先輩が朝やってくれたんだ。カスミン先輩ほんと器用だよね」
あたしがそう言うと、久遠は「……そうか」と呟いて、微妙に視線を逸らした。
何、その反応?
あたしが久遠の顔を覗き込もうとすると、手で阻止された。
「えー何、ひどい」
「うるせっ」
そんなふうにやりあってる間に、もう学校が見えてきた。
学校。懐かしい。
あたしはそれだけで胸がいっぱいになる。
すると、今度は久遠があたしの顔を覗き込んできた。
「えっ、何っ?」
「……や。ハルは大丈夫なのか?」
言わんとすることはすぐにわかった。
みんな、あたしのことを忘れてるからってことだよね。しかも学校に勝手に入ってきて久遠に引っ張られてった意味不明な乱入者扱いになってるっぽい。
久遠は開いたスマホの画面を見せてきた。(※朝比奈中ではスマホは禁止です! だけど久遠はないと怪異警察の仕事に困るからってバレないように持ってる。物静かな優等生に見えて、校則違反のよくない子の久遠さん)
メッセージアプリのトーク画面っぽい。
『噂なんだけど今日転校生来るらしいよー』『マジ?』『(熊が目を丸くするスタンプ)』『えーめっちゃ気になるんだけどー』『私はイケメンがいいー』『(イケメンのスタンプ)』『お前ほんとイケメン好きだよな笑』『俺は美少女がいい』『それ堂々と言うなよ笑』『まあとりあえず私は問題児じゃなければなんでもいいよ』『この前の乱入女子みたいなのだったら困るよなー』『つかあの女子ほんとなんだったん?』『知らね』『影宮知ってそうだけど話しかけづらいんだよね』『(共感する虎のスタンプ)』
画面を埋め尽くす、元クラスメイトでこれからクラスメイトたちになる人たちの勝手な会話。
あたしは苦笑する。
ザンネンナガラ、あたしはイケメンでも美少女でもアリマセンネ。それどころか特大の問題児です。
**この前の乱入女子、まさにその人でゴザイマス……。**
「……まあ、クラスだとこんな感じになってるんだよ。で、俺の質問に対する答えは?」
大丈夫か、ね。
正直大丈夫|だった《**・・・**》かと言われると微妙だ。
でもね、|もう《**・・**》平気。
「大丈夫!」
久遠は不安げな顔をした。
「……ほんとにか?」
「うん! あたし、自分に喝を入れてきたから」
久遠は「……喝?」と呟きながらも、納得してくれたみたいだ。
「……何かあったら、俺を頼っていいから。力になれるかは別として」
その言葉が、あたしはやけに嬉しかった。
あたしたちはとうとう、学校の敷地内に足を踏み入れる。
大丈夫ではあるにしても、流石に心臓がばっくばくだ。
あたしは職員室に向かい、そこで久遠と別れる。
「失礼します。明里ハルです。|紫村《しむら》先生はいらっしゃいますか?」
そう呼びかけると、若い男の先生がやってきた。
「明里さんですね。僕はこれから明里さんの担任になる紫村|宗介《そうすけ》です。これから教室まで案内しますね」
あたしの元担任であり、これから担任になる先生である紫村先生は、なんだかミステリアスな雰囲気を纏った人だ。
あたしは先生の後ろにひょこひょこついていく。
転校生って、最初に自己紹介するよね。
あたしは、もう言う言葉は決めた。
一年生の階へたどり着く。一番手前の教室が、一年一組だ。
ドクンと心臓が鳴る。
今になって、不安が押し寄せてきた。
すると、ポシェットがわずかに動いた。
キングが何か言ってる。
どうしてか、あたしには聞こえた。
──怖気つくでない! お主はめげるような弱っちい輩ではないのだろう!?
──それとも|所詮《しょせん》、逃げ回るだけの弱者か? なら我の|僕《しもべ》だな。
キングに喝を入れられた。煽り付きで。
くそっ、キングめ。
あたしは俄然元気が出てくる。
あんたなんかには絶対負けないからね!
先生がガラリと教室の引き戸を開けた。あたしは力強く、教室の中へ一歩踏み出す。
教室が一気にざわめきの渦に呑まれた。
「ちょっと待って、この前の乱入女子じゃね?」「間違いない」「どーゆーこと?」「あーめんどくさそうなやつが来たー」
棘を纏った囁きを聞いても、あたしは挫けない。
「では、自己紹介をお願いしましょう」
紫村先生にそう言われて、あたしは黒板にチョークで自分の名前を書く。
明里ハル。ふりがなは、あけりはる。
あたしはみんなの方に向き直る。
初めまして、なんて言わない。確かに一回乱入した時に会ったけど、それだけじゃない。だってみんなは、あたしの、クラスメイトだったんだから。あたし、全員の名前を知ってるよ。
みんなが忘れても、あたしは忘れてない。
久遠はまっすぐあたしを見てる。
それだけで応援された気分になった。
久遠。あたし、大丈夫だからね。
視線を彷徨わせて、瑠璃乃に目が止まった。
興味なさそうに、本を読んでいる瑠璃乃。
瑠璃乃。瑠璃乃があたしを忘れても、あたしは覚えてる。
**絶対また、親友になってやるから!**
あたしは口を開く。
「明里ハルです。得意なことは運動で、柔道とサッカーが特に好きで得意です。
**──これからも、よろしくお願いします!**」
──だって、初めましてじゃないから。
とうとう4000文字超えてしまったのだが……。
読者様。読みにくいと思います。どうかお許し下さい。できるだけポップな文体にし、改行を多くして読みやすくしたつもり、つもりです。(改行のせいでやけに縦に長い)