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目次
プロローグ
──あの日、決めたんだ。
おはよう。一緒に帰ろうよ。また明日。
昨日のことなんてろくに覚えていない、明日のことなんて想像もしてもみない、ありきたりで、当たり前で、平凡で、幸せな毎日。
考えても見なかった。
それがたった一瞬で、ガラガラと崩れていくなんて。
何かが消えた、何かが壊れた、何かを忘れた世界。
でも、嘆いてるだけじゃ変わらないから。
あたしは、
おれは、
この世界の|記録《レコード》を、|書き直《リライト》してみせる。
初投稿です!稚拙な文章ですがよろしくお願いします。
このプロローグを覚えとくと後で役に立つかもです。
第1話 告白、とみせかけて
朝の昇降口は、登校してきた生徒たちの活気で騒がしい。
あたしは、この体を包み込むような喧騒が好きだ。
「ハル、速すぎよ……」
後ろから息を切らした親友の|瑠璃乃《るりの》が追いかけてきた。額に汗の筋が流れている。
「ええ? 今日はちょっと遅めに歩いたつもりだったんだけど」
「あんたの遅めはもう走ってるのよ。自覚ないの?」
呆れたようにため息をつく瑠璃乃。
うーん、なんだかあたしの感覚って人とズレてるらしくて……まあ、いっか。
気にしないことにして、上履きを取ろうと、下駄箱の中に手を突っ込む。
いつもの上履きの、ちょっとかたい布の感触……と思ったら、何かカサッとしたものが指に当たった。
「ん?」
これ、紙?
手を伸ばして取り出してみる。
やっぱり、紙だ。小さく四つに折り畳まれてる。
あたしは急に胸がドキドキし始めた。
だって、だってこのシチュエーションって。
まさかの、
**──告白っ!?**
あたしは今更震えてきた手で、紙をゆっくりと開く。
現れた、流れるような滑らかな文字を目に入れた瞬間、息を呑んだ。
*『この手紙を受け取ったら、今日の放課後、旧校舎の四階の左から四番目の教室に来てください』*
「こ……これって……ほんとに……」
告白のテンプレじゃんっ!
「あ……あたしにもとうとう春がっ!?」
あたしは思わず叫ぶ。周りの生徒たちが一斉にこっちを見て、あたしは慌てて首をすくめる。
「うるさいわね……何があったの?」
瑠璃乃が眉をひそめて覗き込んでくる。
「見てよ、これっ!」
しばらく文面を見つめていた瑠璃乃は、興味なさげに視線を上げた。
「大袈裟すぎじゃない?」
「お、大袈裟って! あたしたち|JC《女子中学生》だよ? 青春真っ只中にいるんだよ!? 青春楽しもうよ! 瑠璃乃だって青春小説とか恋愛小説読んでるじゃん!」
瑠璃乃はツンとあごをそらして上を向く。
「それはあくまで小説の中だからよ。現実に私がすることには興味ないわ。私と小説の登場人物は別」
「ええええ〜」
あたしはガックリと項垂れる。
冷めすぎだよ……。あたしたち中1なのに……。
「でも」
瑠璃乃は首をこっちに向けてくれる。他の人にはわかんないかもしれないけど、あたしは見つけられる。その目の奥の優しい光を。
「応援はしてるわよ。ハルは告白されることが嬉しいんでしょう? ハルが喜ぶなら、私は背中を押すわ」
彼女の口の端が、ちょこっと上がった。
あたしの胸の中にじわぁっとあったかいものが広がっていく。
「る〜り〜のぉ〜!」
あたしは瑠璃乃に飛びついた。
「ちょっ、やめっ、重いっ」
「重いって、あたしそんなに重くないと思うんだけど」
瑠璃乃は冷たそうに見えて、実はすっごく優しくて、友達思いなんだ。
あたし、瑠璃乃のことが心からほんっとに大好き。
──それにしても、告白かぁ。
青春しようよなんて言ったけど、実はあたし、人を恋愛の意味で好きになったことがない。ましてや告白なんて、ゼロ回だ。ゼロ。みんななんだかんだ言って一回くらいはされてるのに。あたしは男友達は多いのに、お前はチンパンジーだから恋愛対象じゃないって言われるんだ。女の子に失礼だよね?
だからほんと初めての経験で、余計にドッキドキだ。
その日、あたしの頭の中を、ずっとあの手紙が支配していた。
授業中ぼーっとしてて、先生に笑われるし。
サッカー部では、シュート外すし。
「なんか今日、|明里《あけり》調子悪くないか?」
サッカー部の爽やかな二年の|速水《はやみ》先輩に言われてしまった。
そうだよね、自分で言うのもどうかと思うけど、あたしがシュートを外すのなんて滅多にないもん。
「いや……なんか告白の呼び出しらしき手紙もらったんですよね」
速水先輩は凍りついた。
「へ? 告白? へ、あ?」
しかもなんか青ざめて挙動不審だ。
「これから行ってくるんです!」
「お、おい、ちょっと待て!」
すいません先輩、今はちょっと待てません!
あたしは制服に着替えるべく校舎へ駆け出した。
今の所平和ですが、サブタイトル見て分かる通り……
第2話 待ち受けていた災厄
これはシリーズ「レコード・リライト!」の第二話です。今までの話を読んでからお読みください。
薄暗い階段には窓がないから、光が差し込まない。そして長い間使われていなかったからか、埃っぽい匂いがする。
しんと静まった空間に、あたしが階段を登る音だけがやけに大きく響く。
「そういえば、旧校舎の四階ってきたことなかったな……」
あたしの通う朝比奈中の旧校舎は、ほとんど倉庫状態だ。昔は普通に使われてたらしいけど、なんせ築七十年。壁にはそこらじゅうに亀裂が走っていて、塗装はほとんど剥がれてるという見事なボロボロっぷり。もういっそある種の風格さえ醸し出している。今あたしたちが生活してるのは、築二十年くらいのまあまあ綺麗な新校舎だ。
物の出し入れとかで下の方の階は何回か入ったことあるけど、上の方はない。
なんか廃校舎のホラー映画とかに出てきそう。その辺からお化けがゆらゆらぁ……って。
あたしはぶるりと身震いをする。
まさか、いくらなんでもそんなはずはない……はず。
手紙をくれた人、なんでこんなとこを選んだんだろ。そりゃ、絶対誰も見てないとは思うけど、ロマンティック要素がゼロだよ。もうちょっとマシな場所、いっぱいあると思うんだけど……。
そんなことを考えつつも、あたしの足は前に進み続けていた。
階段の壁にかかれた、薄くて消えそうな「4」の文字。四階についたんだ。
一歩、足を踏み出した瞬間に、背中を悪寒が駆け上った。
なんだか、誰かにじっと、みられている気がして。
……ううん。そんなはずないよね。多分、ただの気のせいだ。
左から、四番目の教室。
引き戸の前で、大きく深呼吸をする。
そしたら、いまさらのように気づいた。
あたし、何て答えるか考えてなかったっ!
ま、まあ、誰なのかもわかんないしそそそれは告白されてからでいいよねっ!?
心の中で言い訳をして、あたしは引き戸に手をかける。
空いてる方の手で、無意識にネックレスを掴んでいた。
ガラガラガラガラ、と鈍い音を立てて、戸が開いていく。
──ハル!! ダメだ!!
頭の中で、誰かの絶叫が鳴り響いた。
心はギョッとするけれど、体は止まらない。
戸が完全に開け放たれた。
心臓がはち切れんばかりに鳴っているのを感じながら、あたしはそっと中に入る。
「……あれ?」
そこには、誰も、いなかった。
転がった段ボールに、黒ずんだ木の板。ただ見放された寂しい景色が広がっているだけ。
あたしは手のひらの紙に目を落として、
「……いたずら……だったのかな……」
そう呟いた途端、一気に肩の力が抜けた。
怒りっていうより、肩透かしを食らったっていうか。
まあ、そうかもね。あたしに興味ある人なんているはずないもん。
だけど、やっぱり悲しい。
「あーあ、変な勘違いしちゃった。早くかーえろ」
誰が聞いているわけでもないのにわざとらしくそう言って、あたしは教室を去ろうとした。
その瞬間。
**視界が、闇に包まれた。**
暗い。黒い。深い。
あたしが今までにみたどんな闇よりも。
逃げなきゃって思うのに、冷や汗が吹き出してるのに、あたしの意識は催眠術をかけられたみたいに朦朧としてくる。
知らない人の笑い声が聞こえる。
そのまま、あたしはゆっくりと、下に倒れ込んでいく。
脳裏に浮かぶ、泣きそうに顔を歪ませた誰か。その瞳に映るあたし。
キラキラ飛び散って舞う、光の破片だけが、最後に見えた。
第一話だとわかんなかったですよね。これは現代ファンタジーです。恋愛ものというジャンルではありません。恋愛も、入れるつもりではありますが。
第3話 虹の夢
これはシリーズ「レコード・リライト!」の第3話です。今までの話を読んでからお読みください。
これは夢だって、なぜすぐにわかった。
あたしは、二人の子どもを見ていた。
周りを木や蔦に囲まれた、まるで秘密基地みたいな空間。
座り込んだ、まだ小さな少女は、ひとりの少年と向かい合っていた。
少年の顔は、彼がこちらに背中を向けているせいで見えない。
少年は、手にした何かを、少女の首にそっとかけた。
その、やはり小さな手は、わずかに震えている。
「これ、なに?」
不思議そうに尋ねた少女に、彼は言う。
「……お守りだよ」
その声はカサカサに掠れている。
「きれいだね……虹があるみたい」
その「何か」は、丸くて透明な、石だった。
透き通った、水槽のような中に、虹のような光が浮かんでいる。
「うん。そうだね。……お願いだから、これを大事にして」
少女は不安げな顔で彼を見上げる。
「わかった。……でも、ねぇ、今日なんか変じゃない? どうしたの?」
少年が息を詰まらせたような音がした。やがて彼はゆっくりと首を振る。
「なんでもないよ。……じゃあね」
彼は去っていく。その背中がどんどん遠くなる。少女は必死で手を伸ばす。
「待って! 待ってよ!」
それはあたしもだった。
行かないで! ……あたしを、置いてかないでよ!
それなのに、声が出ない。どこに手があるのかすら、よくわからない。
もどかしさに、胸がカッと熱くなる。
少年は、少しだけ振り向いた。
あたしは胸が跳ねる。どこかで、そんな顔を見たことがあるような気がしたから。
さっきの、感情のない笑顔とは違う。それは今にも泣き出しそうに歪んでいた。
少女は叫ぶ。
「……またね!」
無意味な幼い約束。
その途端、少年の瞳から涙が一粒、ポロッと溢れた。
あたしの胸は苦しくなる。
「……またな」
そして、少年はもう、振り返ることはなかった。
オパールです。