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ドーナツと被虐
短い
ドーナツを、指でゆっくりと圧す。コーティングされた砂糖の脆い硬さが、かすかに抵抗を返す。
糖衣でできた薄い皮膚の下には、小麦粉由来のやわらかい肉。
皿の上で私の指に圧されているドーナツを見て、このドーナツの運命は私が握っているんだな、と思う。
指で割るもよし。つぶすもよし。ナイフとフォークで切るもよし。このままかぶりつくもよし。公園の鳩にやったり、食べずに捨てたりという選択肢だってある。半分だけ胃に収めて、残りは冷蔵庫に放置したっていい。
私がそんなふうにすべてを決められる存在って、どれくらいあるだろうと考える。たぶん、そんなに多くない。
いつも、他人を傷つけてなお、自分のことすらままならない。傷つけることと傷つけられることのくり返しで育っていく。成長とはすなわち、傷つくことに慣れること。傷つけることに慣れること。
圧す指先に、少しだけ力をこめた。さり、と小さな音をたてて、糖衣が壊れる。
こんなふうに傷つきたい、と思う。
鮮烈な悪意を浴びたい。ドーナツを指で押しつぶすように、やわらかく抉られたい。
傷ついて壊された先に何があるのか、見てみたいから。
やわらかい弱いものを、そっと押しつぶした。