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愛のやり方
「おれたちはさ、オープンマリッジにしよう」
ヒロと私、結婚するとき、ヒロは平然とそう言った。
「なにそれ。結婚式をみんなに見せるってこと?」
「ちがうよ。なに言ってんの」ヒロは笑って、とんでもないことを続けた。
「オープンマリッジっていうのは、お互いに浮気してもいいよっていう結婚のこと」
私はびっくりして、あんまりびっくりしたから、ヒロの顔をまじまじと見つめた。
ヒロの言葉は、まるでヒロではない別の誰かが言ったようにきこえたけれど、つまり私はこの瞬間、ヒロがヒロでないように思えたのだけど、目の前にいるのはまちがいなく彼で、まぎれもなく私が好きになったヒロなのだった。
「私が他の男のひととデートしたり、寝たりしていいってこと?」
「そうだよ。そのかわりおまえは、おれが他の女の子と浮気してもなにも言わない。どう?よくない?」
ヒロはうかがうように私を見た。その顔が仔犬みたいで可愛かったのと、どうしてもヒロと結婚したかったので、私は「うん」とうなずいていた。
結論から言うと、オープンマリッジはわるくなかった。
ヒロがあたらしく彼女をつくったときや、忙しくて家でゆっくりする時間がないときを見はからって、私は浮気した。ヒロが浮気して私はしないというのは、なんだか癪にさわったからだ。
男の人はみんな優しかった。遊び方をよく知っていて、決して本気にはならず、女の子の扱いをよく知っている人たち。夫に浮気されて、と言えば、それはつらかったね、かわいそうに、と甘い言葉をかけてくれる。触れられて拒まなければ、期待どおりに事はもつれこむ。
掴んでも振りほどかない女を、彼らは選り好みしない。ひとしく、やさしく、いいようにつかう。本当は彼らからもすこし憐れまれていることはわかっていた。でも、欲がみたされるなら、かまわない。
ヒロも同じようなものだっただろう。気ままに女を捕まえ、あそび、ときにはあそばれて、帰ってくると私のご飯を食べる。
都合のいい女だと思われているのかもしれない。でもいいのだ。結局のところ、ヒロのシャツをアイロンして、ヒロのシャンプーを買い足し、ヒロが食べるものをつくっているのは、この私なのだから。
私たちは、それでも夫婦なので、ときどきは正しく自分たちでした。ヒロは優しくて、痛いことなんか全然しなくて、だからそれ以上もなかった。毎度だいたいおなじ、いつも以上に昂ることも、乱暴にされることもない。つまらないと言ってしまえばそれまでだけど、そう思うのは悲しいことに思えたから、いつもよかったと思うようにしていた。
あるひ、ヒロは私を腕のなかにおさめて、ぽつんと言った。
「おまえさ、自分のことを、おれのものだと思ってる?」
言い方があまりにもひとり言っぽく、また、むずかしい問いだったので、私は少しおくれてこたえた。
「ええと、わからない。ヒロは自分が私のものだと思うの?」
「思わない」
ヒロは即答した。そのことに、私はまったく傷つかなかった。自分でもふしぎなくらい。
愛しているのに、心から好きなのに、ヒロが私のものであってほしいというきもちは、湧いてこない。
かといって、自分がヒロのものでありたくないかというと、それはやっぱりわからなかった。
「おまえはおまえ、おれはおれ。結婚してても、互いのこと好きでもさ。そういうのって、成り立つと思うんだよな」
ヒロは自分の意見を淡々と述べるように、もしくは言い訳するように、ぶつぶつとそう言った。私はおかしくて、少し笑った。
「なにがおかしいの」
「だって、なんか言い訳してるみたい。心配しないでも、私は今のやり方になんの文句もないのに」
私が言うと、ヒロは安心したように、からかうように、楽しげに囁いた。
「おまえと結婚して、ほんとによかったよ」
私も、と心から思う。ヒロと結婚してよかった。こうしてヒロの心地いい体温を感じて、都合よく遊んで、最後には夫婦という肩書きがのこる、この生活ができるのが幸せだった。