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花死に
春靄がたちこめる花園は、むうっとするようなあまい匂いに充ちている。
小さなローズピンクの革靴が一足、こつこつと歩いている。靴からのびた白い足は、ふっくらと丸みをおびてワンピースの黒い裾をひるがえしていた。
外は粘こい雨が降る。でも大丈夫。花園は硝子のドームに守られているから。
思うがままに咲いた花々のあいだを縫って、こどもが歩く。しっとりと滑らかな艶を秘めてかがやく金髪は、持ち主の動きにあわせてさらさらとゆれる。
硝子のドームに雨滴が垂れる。湿った別れ話みたいな雨。吐息のような熱いあつい酸素が充ちる。
淡く甘やかな瓶覗、潤い滴るような唐紅、高貴に耀く孔雀緑。憂いをふくんだ牡丹鼠、華やかにいろづく金糸雀。
さまざまな彩りをたたえた花弁は、天にむかって自らのうすい羽衣をのばす。可憐で高慢なうつくしさ。
たかく気ままに茎をのばし、葉脈のはしる葉をひろげ、どこまでも成長してこどもに覆いかぶさる。
密度を増したあまい春靄がこどもを包み、じわじわと圧していく。真綿で絞められるような、ゆるやかな終焉。花死に。
こどもはたちどまる。息が苦しい。
茎が足に絡みつく。雄蕊が肌をなでる。花弁が誘う。此岸の先へ、終わりへ、なにもないところへ。
こどもはゆっくりと倒れこむ。ちいさな体の上を植物たちが這い、やがて見えなくなる。
小さな亡骸を呑みこんだまま、花園はしずかに繁殖を続けてゆく。