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くだもの
高校卒業のときから連絡をとっていない友だちから、結婚したと報告するLINEがきた。
ゆめちゃん、元気してる?また3-Eのメンバーで会いたいねぇ——…
彼女らしいあかるい文面に、変わっていないなと笑みがこぼれる。そうだね、絶対また会お——四角いひらがなの群れをタップしているあいだ、否応なしに彼女のメッセージが目をひきつけてゆく。3-E。高校生活最後のクラス。
やわらかく落下するように、意識が記憶に引きずりこまれた。
学校、ときいて思い浮かぶのは、体育館だ。ひろいのに閉じていて、空気はうすいのに密度が高く、饐えた甘いにおいがする。
学校は、みんな優しかった。
没個性な同じ服を着ているからこそきわだつ個々の身体的特徴と、芽生えたばかりの青い性。だれとだれが喧嘩した、あいつとそいつが付き合った、または別れた——複雑に絡みあった人間関係のなかで、生徒は互いにゆるくふれあい、相手の反応をうかがって、ながれるように変化していく。等身大の思想を持ってひとと関わるから、とうぜん傷つき、傷つけられる。それでも、みんな、優しかった。
わたしは女だから、必然的に、整髪料や、腕に巻いたヘアゴムや、スマホケースに挟んだプリクラや、極端にみじかい靴下、日焼け止め、リップグロス、コーム、そんなものを多く目にしてきた。
まるいお団子髪をふわふわのシュシュで飾り、桜の花びらみたいな爪にクリアジェルネイルをひろげ、顔まわりの髪をととのえる。
縁なしのカラコンを入れ、トーンアップの日焼け止めを塗り、笑いさざめいてコームを貸しあう。教師の目をぬすんで——おそらくぬすめていなかっただろうけど、どちらでもよかった——女子生徒は均一化されたかわいさをめざした。みんなおなじ、という快感を、知っているから。
わたし含め、多くの女子生徒は、群れて生活することに安心と快感をおぼえていたのだと思う。じぶんがじぶん以上に強く、大きなものになったような全能感。なにもこわくない、なにをしたっていい——そんなわかりやすい快楽の底には、わたしは群れからはぐれていない、そこなっていない、認められている、という、途方もない安心感がある。わたしたちはそれを、青春と呼んだ。
すこしだけ嘘をついたきれいな顔をつきあわせ、共通の話題で笑うその、どうしようもないくらい甘やかな快感に身をゆだねる。それがわたしたちで、ほぼすべての幸せだった。
女子があつまるところはいつも、腐敗したくだもののようなにおいがつきまとう。とても甘くて、苦いくらいに甘くて、少しの悪意と、結局はみんな仲良く、自分がきもちいい状態でいたいだけ、という幼さがまじって、はじけるような若さに発散される。
くだもの。くだすもの——くだものの語源に、わたしは女子を見る。甘くとろけて、結局は自分も他人も傷つけることでしか関わり方を知らない存在に、私は愛しさと、とても大きなやさしさを感じる。
指がすいと押した送信ボタンと、付随するメッセージ音に、意識がひきもどされる。
3-E。高校生活最後のクラス。あのクラスは、女子がすこしだけ多かった。だからわたしたちは、いつも甘くどろけたくだものでありつづけた。みんな幸せで、ふかく傷ついていて、群れる快感によろこんでいて、とてもやさしかった。
幸せだった、まちがいなく幸せだった、と思う。甘く饐えた高校生活は、私にとって幸せなものだった。