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プール
透きとおったなまぬるい水のかたまり。ヤシの木に似て、でもたぶん違う種類の木。キラキラ白く輝く太陽。
親友とふたり、プールに来ていた。
ぬめってざらついたプールサイドに水分補給のペットボトルを置いて、そろそろとプールに足をつける。
思っていたよりずっとぬるくて、学校のなんか比にならないくらい浅い。思わず親友とふたり顔を見合わせ、「浅いじゃん」「ぬっる」とげらげら笑う。
二人ともラッシュガードを着ている。私は紺の、親友は白地にくだもの柄の。
二人とも浮き輪を持ってきていなかった。親友はゴーグルをつけて泳ぐ気まんまん、私は泳げないから、けのびの要領で水中を滑って足をつき、また滑る、をくり返すことにした。
平泳ぎをはじめた親友の横で、手足をのばしてすーっと滑る。これが意外と、楽しかった。
ごく軽いてざわりの水たちが、するすると後ろに流れるのを全身で感じる。気持ちいい、と思った。
でもそれも三秒とつづかない。私のからだは浮力に勝って沈み、足がついてしまう。もう一度。間髪入れずにまた滑る。
滑って、足をついて、滑って。ひとときのあいだ、私の世界は「滑ってついて」で構成された。他の動作は何ひとつない。
束の間の快楽。なまぬるい水の奔流にうかぶ、ぷちぷちとした泡のような快楽。ほんの一瞬肌をなでて、すぐに消える。
この時間が永遠につづけばいいのに、と思った。
同時に、癖になるのは苦しいことだから、今すぐやめたいと思った。
空を見あげながら泳ぐ。泳ぐといっても、滑っているだけだけど。
空は青い。いつもどおりの、何も考えてないときみたいな青。いびつにちぎれた雲によごされた、中途半端な青空。
いつもの青空。私の青春の象徴。
私は歪んだ形の雲を目に焼きつける。ヤシの木似の木々を、プールサイドで動きまわる人々を、泳ぐ親友を、しっかりと覚える。忘れないように。思い出せるように。
大人になったとき思い出したいのは、きっとこういう日々だと思うから。
一度プールサイドにあがり、水分補給する。親友が持ってきた緑茶も、私が持ってきた天然水も、レンジで温めたみたいにぬるくなっている。
まずかった。それがおかしくてまた笑った。げらげら。もう、この場に存在しているだけで面白い。親友と私、ふたりでいれば最強。ぜんぶ笑いとばせる。
そういう気持ち。無敵感。
笑いながら、青春とか幸せってこういうことなんだろうな、と思った。
ささやかな幸せ。手のとどく幸せ。指で触れられる幸せ。
ちいさな幸せで日々が構成されてゆく。それは最後にふりかえって見たら、とても幸福なことなんじゃないだろうか。
帰りにコンビニでアイスを買って食べた。気だるいからだに甘さとつめたさがおさまって、まだまだ泳げる気がした。