編集者:⭐️KAE0727⭐️
日プ新世界をモチーフにした青春小説です!
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目次
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#1加藤大樹
第1話は加藤大樹くんが主人公でももかときらはレギュラーとして毎回出演します!
そして第1話のゲストは土田央修くんです!
それでは本編スタート!
夕方の教室は、オレンジ色の西日に染まっていた。
期末テストを来週に控えた私立新世界高校の放課後。静まり返った教室内で、加藤大樹は一人、ノートにシャープペンの芯を走らせていた。
「大樹ー! まだやってんの? 息詰まっちゃうよ?」
教室のドアが勢いよく開き、高めのトーンで声をかけてきたのはクラスメイトのももかだった。そのすぐ後ろから、おっとりとした笑顔のきらが続く。
「ももか、声大きい。大樹くん集中してるから」
「だってさー、きら。大樹、昼休みからずーっとあの調子なんだもん。ちょっとは休憩しないと頭爆発しちゃうよ」
大樹はペンを止め、苦笑しながら二人を振り返った。
この二人は大樹の幼馴染みのような存在だ。お調子者で賑やかなももかと、それを一歩引いて優しく見守るきら。二人が来ると、重かった教室の空気が一気に華やぐ。
「あはは、ごめん。でも、今回の数学だけは本当に落とせないんだ。あ、二人はこれから帰り?」
「うん。駅前のカフェで新作のフラペチーノ飲むの! 大樹も行くでしょ?」
ももかが身を乗り出したその時。
ガラガラ、と教室のドアが乱暴に開いた。
「……あ、あの! すみません!」
飛び込んできたのは、隣のクラスの土田央修(おうすけ)だった。
肩を激しく上下させ、額には大粒の汗が光っている。いつもはクールな彼が、今は見たこともないほど焦った表情をしていた。
「土田くん? どうしたの、そんなに息切らして」
きらが心配そうに駆け寄る。
「これ……ここに落ちてなかった!?」
央修が差し出したのは、スマートフォンの画面だった。そこには、お気に入りのキャラクターの刺繍が入った、少し古びた青いパスケースの写真が写っている。
「それって、土田くんがいつも鞄に付けてるやつ?」
大樹が立ち上がると、央修は悲痛な顔でうなずいた。
「そうなんだ……。中に、今週末のオーディションの受験票と、亡くなったじいちゃんからもらったお守りが入ってる。さっきまでこの教室の近くの廊下を通ったから、もしかしてと思って……」
オーディション。
その言葉に、大樹の胸がドクンと跳ねた。
央修が密かに大きな夢を追いかけていることを、大樹は知っていた。普段はポーカーフェイスで感情を表に出さない央修が、ここまで必死になっている。それがどれだけ大切なものか、痛いほど分かった。
「探そう」
大樹は迷わずノートを閉じた。
「えっ、でも大樹、テスト勉強は……」
心配そうに呟くももかに、大樹はまっすぐな目で微笑みかけた。
「勉強は夜でもできる。でも、央修のこれは、今見つけなきゃ意味がないだろ?」
大樹の濁りのない言葉に、央修は目を見張った。
「よし! そうと決まれば、ももか探検隊、出動ね!」
「うん。私も1階のロビーから見てくる。ももかは階段のあたりをお願い」
「了解!」
ももかときらは顔を見合わせると、すぐに教室を飛び出していった。行動の早さとチームワークはさすがだった。
「加藤……悪いな、お前の時間を奪って」
すまなさそうに俯く央修の肩を、大樹はポンと叩いた。
「気にするなよ。俺たちは『新世界』を目指す仲間だろ? ほら、俺は教室の後ろと廊下を見るから、央修は自分の机の周りをもう一度確認してきて」
大樹の明るい声に、央修の目元が少しだけ潤んだように見えた。彼は小さく「ありがとう」と呟くと、自習室の方へと走っていった。
夕暮れが深まり、校内が徐々に影に包めていく。
大樹は教室の隅々、教卓の裏、果てはゴミ箱の隙間まで手を差し込んで探した。しかし、青いパスケースは見つからない。
「……あ。待てよ」
大樹は窓の外を見た。
教室のすぐ外にあるベランダ。昼休み、央修がそこで風に当たっていた姿が脳裏をよぎった。
窓の鍵を開け、ベランダに出る。
ひんやりとした夕方の風が、大樹の前髪を揺らした。手すりの下、排水溝の狭い隙間に目を凝らす。
「――あった!」
そこには、夕日に照らされてきらりと光る、青いプラスチックの縁が見えた。風で飛ばされ、隙間に挟まっていたのだ。
大樹は手を伸ばし、指先を泥で汚しながらも、しっかりとそれを掴み上げた。
「央修ーー!! あったーー!!」
ベランダから叫ぶ大樹の声に、廊下から央修、そして1階から戻ってきたももかときらが一斉に集まってきた。
教室に戻り、大樹がパスケースを差し出すと、央修はそれを両手で包み込むようにして受け取った。中を確認し、ホッとしたように長い息を吐き出す。
「よかった……! 本当に、本当によかった……!」
ももかが自分のことのように飛び跳ねて喜び、きらはパチパチと優しく拍手を送る。
「加藤、本当にありがとう。この恩は、絶対に忘れない。オーディション、絶対に合格してみせるから」
央修の瞳には、さっきまでの焦りは消え、強い決意の光が戻っていた。いつものクールで、どこか熱い芯を持った彼だった。
「応援してる。央修なら絶対に大丈夫だ」
大樹が手を差し出すと、央修はその手を力強く握り返した。二人の少年の間で、言葉以上の熱い約束が交わされた瞬間だった。
「さーて! 最高の結末になったところで、大樹のテスト勉強、私ときらでお手伝いしてあげましょっか!」
ももかが腕まくりをしながら言った。
「え、ももかに教わるの? ちょっと不安なんだけど……」
「失礼な! きら、言ってやって!」
「ふふ、私は英語なら教えられるよ?」
「助かる、きら!」
そんな3人のやり取りを、央修はパスケースを大切にポケットにしまいながら、愛おしそうに眺めていた。
学校の窓から見える空は、完全に夜の藍色へと移り変わろうとしていた。
まだ何者でもない彼らの、けれど無限の可能性を秘めた『新世界』への旅路は、この騒がしくも温かい放課後から、確かに始まっていた。
(第1話・了)
次回予告!
次回は矢田佳暉くんが主人公で第2話のゲストは大瀬凜和くんが出演します!お楽しみに!
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#2矢田佳暉
第2話は矢田佳暉くんが主人公でゲストは大瀬凜和くんです!それでは本編スタート!
「佳暉、またそれやってんの? 本当に飽きないねー」
放課後の教室。ももかが呆れたような、でもどこか楽しそうな声を上げた。
矢田佳暉は机の上の消しゴムを人差し指で弾き、ノートで作った小さなゴールへと滑り込ませた。
「飽きるわけないじゃん。イメージトレーニングだよ、イメトレ!」
佳暉はニカッと白い歯を見せて笑った。新世界高校のサッカー部に所属する佳暉は、ピッチの上だけでなく、日常のすべてをサッカーに結びつけてしまうほどの熱血漢だ。
その隣で、きらがノートを開きながらおっとりと微笑む。
「佳暉くん、次の公式戦、スタメン狙ってるんだよね?」
「そう! だから放課後の自主練も絶対に手を抜けないんだ」
そう言ってカバンを肩にかけた佳暉の視線が、教室の隅の席に止まった。
そこに座っていたのは、ゲストメンバーの大瀬凜和(りんと)だった。凜和はいつも静かで、自分の世界を持っているような不思議な雰囲気の少年だ。今はイヤホンを耳につけ、熱心にノートに何かを書き留めている。
「凜和くん、何してるんだろ?」
佳暉が呟くと、ももかが首をすくめた。
「さあ? いつも放課後は残って何か書いてるよね。話しかけてみたら?」
佳暉は「よし」と頷き、凜和の席へと歩み寄った。
「凜和くん! 何の勉強してんの?」
声をかけると、凜和はビクッと肩を揺らし、慌ててノートを閉じた。イヤホンを外す彼の耳が、ほんのり赤くなっている。
「あ……矢田くん。勉強じゃなくて、その……」
言いにくそうに俯く凜和のノートの隙間から、五線譜と音符がちらりと見えた。
「え、もしかして曲作ってんの!? すご!」
佳暉が目を輝かせると、凜和は照れくさそうに頭を掻いた。
「うん……。今度、自分の作った曲をネットにアップしたくて。でも、サビのメロディがどうしても上手く繋がらなくて、ずっと悩んでて……」
凜和の言葉には、シャイな彼からは想像できないほどの熱いこだわりが滲んでいた。
目標に向かって悩む姿は、スタメンを目指して必死に走る自分と重なる。佳暉の胸に、熱い火が灯った。
「悩んだ時は体。を動かすに限るよ! ちょっとグラウンド来て!」
「え、ええっ!? 僕、運動は苦手だよ!」
困惑する凜和の手を掴み、佳暉は強引に教室を連れ出した。
「ももか、きら! 先に行くわ!」
「あはは、佳暉の強引なのが始まっちゃった。私たちも応援に行こ!」
ももかときらも、笑いながら二人の後を追った。
夕暮れのグラウンド。
佳暉は凜和にサッカーボールをパスした。
「ほら、凜和くん! 難しく考えずに、思いっきり蹴ってみて!」
「え、えいっ……!」
凜和の蹴ったボールは、ゴールを大きく外れて転がっていった。凜和は息を切らし、ハァハァと肩を上下させる。
「全然ダメだ……やっぱり僕には向いてないよ」
「そんなことないって! ほら、もう一回!」
佳暉はボールを拾い、今度は自分の足元に置いた。
「いいか凜和くん。俺もシュートの形に悩んだ時は、何度も何度も体を動かして、一番気持ちいい瞬間を探すんだ。理屈じゃない、自分の『ここだ!』って感覚を信じるんだよ」
佳暉が助走をつけて右足を振り抜く。
鋭い音を立てて放たれたボールは、綺麗な放物線を描き、ゴールの隅へと突き刺さった。夕日を背に受けて笑う佳暉の姿は、圧倒的に眩しかった。
「自分の、気持ちいい瞬間……」
凜和はその軌跡を目で追いながら、佳暉の言葉を心の中で繰り返した。
理屈じゃなく、感覚。
自分が本当に「心地いい」と思える音の繋がり。
悩んでいたサビのメロディが、佳暉の豪快なシュートと、ゴールネットの揺れる爽快な音に重なった瞬間――凜和の脳内に、鮮烈な旋律が流れ込んできた。
「……あ! 分かったかも!」
凜和の目が、かつてないほど生き生きと輝いた。
「もしかして、閃いた?」
佳暉が駆け寄ると、凜和は力強く頷いた。
「うん! 矢田くんのシュートを見てたら、バラバラだった音が一つに繋がった気がする! すぐに書き留めなきゃ!」
「やったじゃん、凜和くん!」
佳暉が凜和の背中をバシッと叩く。ちょうどグラウンドに到着したももかときらも、「よかったー!」と手を振って大喜びした。
教室に戻り、夕闇の迫る窓際で、凜和は猛烈な勢いでノートに音符を書き込んでいく。
その横顔を見つめながら、佳暉はドリンクを煽った。
「凜和くんの曲、完成したら一番に聴かせてくれよな」
「うん、もちろん。矢田くんのシュートのおかげだから」
凜和はペンを止め、いつもの穏やかな、でも少し自信に満ちた笑顔を佳暉に向けた。
一人はピッチの上で。一人は五線譜の上で。
表現する方法は違っても、二人の少年は確かに同じ熱い情熱を燃やしていた。彼らの『新世界』への足音は、静かな夜の校舎に、ト音記号の形をして響き渡っていた。
(第2話・了)
次回はシヨンくんが主人公でゲストはリッキーくんです!次回もお楽しみに!
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#3パク・シヨン
今回の主人公はシヨンくんでゲストはリッキーくんです!それでは本編スタート!
「시영!(シヨン!)」
放課後の渡り廊下。大好きな日本のk-popグループのダンス動画をスマホで見ていたシヨンの後ろから、元気よくももかが声をかけた。
そのすぐ隣では、きらが優しくノートを抱えて微笑んでいる。
「ももか、きら、お疲れ様」
シヨンは日本語でそう言って、柔らかく笑った。韓国出身のシヨンは、今では学校生活に必要な日本語をほとんどマスターしている。
「シヨンくん、これ。次の小テストの範囲、日本語の漢字が多いからノートにまとめておいたよ」
「本当? きら、ありがとう。정말 고마워(本当にありがとう)」
シヨンがノートを受け取ったその時、少し離れた自習室の前のベンチに、1人の少年が座っているのが見えた。
今学期、海外から転校してきたばかりのゲストメンバー、リッキーだった。
リッキーは綺麗な顔立ちを少し曇らせ、手元の教科書とスマホの翻訳アプリを何度も見比べながら、小さなため息をついている。
「あ、リッキーくんだ。まだ日本語があんまり話せないみたいで、クラスでもいつも1人でいるんだよね……」
ももかが少し心配そうに呟いた。
シヨンは少し考えた後、まっすぐリッキーの方へと歩き出した。
「ちょっと話してくるね」
ベンチに近づき、シヨンはリッキーの隣にそっと腰掛けた。
「こんにちは、リッキー」
リッキーは驚いたように顔を上げ、気まずそうに視線を落とした。
「あ……こんにちは……」
知っている限りの日本語で答えようとするが、そこから言葉が続かない。
シヨンはリッキーの教科書が日本の歴史であること、そしてリッキーが中国出身であることを思い出し、言語を切り替えた。韓国語のほかに、グローバルな活動を目指して勉強していた中国語を使ったのだ。
「你可以用中文说。很难懂吧?(中国語で話していいよ。難しいよね?)」
リッキーの目が、驚きでパッと丸くなった。自分の母国語が聞こえた安心感からか、張り詰めていた表情が少しだけ和らぐ。
「是的,汉字的意思和中国不一样,太难了。(うん、漢字の意味が中国と違って、すごく難しいんだ)」
「알지, 나도 처음에 그랬어.(分かるよ、僕も最初はそうだった)」
シヨンは思わず共感の韓国語を溢れさせながら、今度は日本語と中国語を交えて、優しく語りかけた。
「大丈夫。我来教你(僕が教えてあげるよ)」
シヨンはきらから借りたばかりのノートを開き、歴史のキーワードを簡単な中国語に翻訳しながら、丁寧にリッキーに教え始めた。
その様子を後ろで見守っていたももかときらも、ベンチに駆け寄る。
「シヨンくんすごい! トリリンガルじゃん!」
「ももか、静かに。……リッキーくん、これ、お菓子食べる?」
きらがポケットからチョコレートを取り出して差し出すと、リッキーは少し照れながらそれを受け取った。
「谢谢(ありがとう)」
最初は緊張していたリッキーだったが、シヨンの熱心な教え方と、ももかときらの温かい雰囲気に包まれ、次第に笑顔が増えていった。
勉強が一段落した頃、リッキーがスマホである動画をシヨンに見せてきた。それは、世界的なダンサーの映像だった。
「我也想跳那样的舞(僕もあんな風に踊りたいんだ)」
リッキーの目が、真剣な光を帯びる。
言葉はまだ完璧に通じなくても、その瞳にある熱い「夢」は、シヨンには痛いほど伝わってきた。自分も同じ夢を追いかけているからだ。
シヨンは立ち上がり、リッキーに向かって手を差し出した。
「우리는 같은 신世界の 동료야.(僕たちは同じ『新世界』の仲間だ。」
「加油(頑張ろう)!」
リッキーはシヨンの手を力強く握り返し、満面の笑みで頷いた。
「嗯,加油(うん、頑張ろう)!」
渡り廊下に差し込む夕日は、国籍も言葉も違う少年たちの影を、一つの大きな未来へと繋ぐように長く伸ばしていた。
(第3話・了)
次回はシンヘンくんが主人公でゲストはカイチくんです!次回もお楽しみに!
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#4オ・シンヘン
今回はシンヘンくんが主人公でゲストはカイチくんです!それでは本編スタート!
「오, 신행! 또 새로운 스텝 연습하고 있어?(お、シンヘン! また新しいステップ練習してんの?)」
放課後の屋上。小気味よいステップを刻んでいたシンヘンに、ももかがフェンス越しから明るく声をかけた。その後ろから、きらがスポーツドリンクのボトルを両手に持って、おっとりと付いてくる。
「ももか、きら。うん、次のダンス評価に向けて、どうしてもこのリズムを体に叩き込みたくて」
シンヘンは額の汗を拭い、人懐っこい笑顔を見せた。抜群のダンスセンスと愛されキャラで、クラスの誰もから慕われている。
「シンヘンくん、あんまり無理しないでね。はい、水分補給」
きらからボトルを受け取り、シンヘンは「고마워, 키라(ありがとう、きら)」と微笑んだ。
その時、屋上の重い鉄の扉がバタンと開き、1人の少年が息を切らせて入ってきた。今クラスで一番熱いと噂のゲストメンバー、カイチだった。
「あ、カイチくん! どうしたの、そんなに慌てて」
ももかが尋ねると、カイチはキャップを被り直しながら、悔しそうな表情でシンヘンを見た。
「シンヘン……! さっきのストリートダンスの授業のステップ、どうしても上手くできないんだ。もう一回、ここで教えてくれない?」
カイチはまっすぐな目でシンヘンを見つめた。負けず嫌いで熱い魂を持つカイチは、放課後になってもさっきの課題のことで頭がいっぱいだったのだ。
シンヘンの目が、嬉そうに細められた。
「당연히 좋지! 카이치의 그런 열정적인 모습, 나 진짜 좋아해. 어디가 잘 안 돼?(もちろんいいよ! カイチのそういう熱いところ、僕本当に大好き。どこが上手くいかない?)」
「この、バックステップからターンに入る時の、体重移動のタイミングが掴めなくて……」
カイチが実際に動いてみせるが、少しだけ軸がブレてしまう。
シンヘンはカイチの動きをじっと見つめ、優しく肩に手を置いた。
「카이치, 머리로 너무 박자를 세고 있어. 음악을 온몸으로 느끼고 비트에 올라타야 해. 너무 긴장했어.(カイチ、カウントを頭で考えすぎてる。音楽を全身で感じて、ビートに乗るんだ。緊張しすぎだよ)」
「ビートに、乗る……?」
「어, 바로 이렇게. 나 한번 봐봐.(うん、まさにこう。僕のを一度見てて)」
シンヘンはスマホのスピーカーから重低音の効いた洋楽を流すと、滑るように踊り始めた。無駄な力が一切抜けた、しなやかで力強い動き。まさに音と一体化しているようなダンスだった。
「すごい……」
カイチは息を呑み、シンヘンの足元に視線を釘付けにした。
「긴장 풀고, 자, 같이 해보자!(リラックスして、さあ、一緒にやってみよう!)」
シンヘンに促され、カイチも再びステップを踏み出す。
「ワン、ツー、スリー……」と呟くカイチに、シンヘンは横で手拍子を打ちながら、笑顔で声をかけ続けた。
「생각하지 마, 느껴!(考えるな、感じるんだ!)」
その熱いセッションを見守るももかときらも、自然と音楽に合わせて体を揺らし始める。
「カイチくん、さっきよりすごく滑らかになってる!」ときらが声を弾ませ、ももかも「いけいけー! カイチ!」と拳を突き上げて応援した。
何度もステップを繰り返すうちに、カイチの体から余計な硬さが消えていった。
そして曲のサビが訪れた瞬間。シンヘンの「지금이야!(今だ!)」という合図に合わせて、カイチは完璧なタイミングでバックステップを踏み、目の覚めるような鋭いターンを決めてみせた。
ピタッと音が止まると同時に、二人のポーズが決まる。
「できた……!」
カイチは自分の両手を見つめ、それから顔を上げて弾けたような笑顔を見せた。
「대박! 카이치, 완벽해!(最高! カイチ、完璧!)」
シンヘンが駆け寄り、カイチと激しくハイタッチを交わした。
「シンヘン、ありがとう。お前のおかげで、壁をぶち破れた気がする」
カイチの瞳には、最高の充実感が満ちていた。
「나도 재밌었어. 카이치의 열정이 나한테도 큰 자극이 됐거든.(僕も楽しかった。カイチの熱さ、僕にもすごく刺激になったよ)」
シンヘンは誇らしげに胸を張った。
オレンジ色から深い紫色へと染まっていく夕空の下。
屋上で激しくビートを刻んだ二人の少年は、肩を並べて風に吹かれていた。国境もスタイルも超えて、お互いの熱量で高め合う彼らの『新世界』は、この眩しい放課後の屋上から、さらにスピードを上げて加速していく。
(第4話・了)
次回は後藤結くんが主人公でゲストは南平達矢くんです!次回もお楽しみに!
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#5後藤結
今回は主人公が後藤結くんでゲストは南平達矢くんです!それでは本編スタート!
窓の外は、しとしとと降り続く雨のせいで薄暗い。
放課後の図書室。静まり返った空間に、ももかの小さなため息が響いた。
「はぁー、雨だとテンション下がるよね。きら、何か面白い本ない?」
「ももか、図書室だから静かに。ほら、あそこで結くんが頑張ってるよ」
きらが人差し指を口に当てて、窓際の席を指さした。
そこでは、後藤結がうつむき、真剣な表情でノートに数式を書き込んでいた。普段は明るく人懐っこい結だが、今はシャーペンを握る手にぐっと力が入っている。
「うーん……ここから先の展開がどうしても繋がらないな……」
結がぽつりと呟いたとき。図書室の引き戸が静かに開き、背の高い少年が入ってきた。クラスメイトであり、今回ゲストとして登場する南平達矢だった。
達矢は結の姿を見つけると、長い足を静かに運んで隣の席に腰掛けた。
「結、苦戦してるみたいだね」
「あ、達矢。うん、次の実力テストの応用問題なんだけど、解き方のコツが全然掴めなくてさ」
結が困ったように笑うと、達矢は結のノートをじっと覗き込んだ。達矢はいつも冷静で、物事を一歩引いて観察するのが得意な少年だ。
「結は、公式をそのまま当てはめようとしすぎているのかも」
達矢は自分のノートを開き、綺麗な字で図形を書き始めた。
「一度、視点を変えてみたらどうかな? この線をここに一本引くだけで、見え方が変わるよ」
達矢が示した図を見て、結の目がパッと輝いた。
「あ、本当だ! 複雑に見えてたのに、こう分ければすごくシンプルになる!」
「そう。難しい問題ほど、正面からぶつかるだけじゃなくて、一歩引いて全体を見ることが大切なんだ」
達矢の言葉は、まるで勉強だけでなく、彼らが目指すパフォーマンスの壁を乗り越えるヒントのようにも聞こえた。
「達矢、すごいな。視点を変える、か……それ、ダンスのフォーメーションで行き詰まってたところにも活かせるかも!」
結はノートに新しい数式をスラスラと書き込みながら、ワクワクした表情で達矢を見た。
その様子を少し離れた席から見ていたももかときらが、嬉しそうに近寄ってくる。
「さすが達矢くん、教え方がスマート!」とももかが声を弾ませ、きらも「結くんの表情、一気に明るくなったね」と優しく微笑んだ。
「二人とも、ありがとう。達矢のおかげで、雨の日の憂鬱が吹き飛んだよ」
結はノートを閉じ、達矢に向かって満面の笑顔を見せた。
「役に立てたならよかった。結のその吸収の早さ、僕も見習いたいな」
達矢もまた、静かで温かい笑みを浮かべた。
窓の外の雨はいつの間にか上がり、雲の隙間から一筋の夕光が差し込んできた。
図書室の窓際に座る少年たちの未来を照らすように、光は眩しく広がっていく。異なる強みを持つ彼らが混ざり合い、お互いを高め合っていく『新世界』への道は、この静かな図書室から、また一歩確実に前へと進んでいた。
(第5話・了)
次回は柳谷伊冴くんが主人公でゲストは青沼昂史朗くんです!次回もお楽しみに!
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#6柳谷伊冴
今回は主人公が柳谷伊冴くんでゲストは青沼昂史朗くんです!それでは本編スタート!
放課後の第一音楽室から、ピアノの旋律に合わせて伸びやかな歌声が響いていた。
マイクを両手で握り締め、真っ直ぐな瞳で前を見つめているのは柳谷伊冴だ。しかし、高音のパートに差し掛かったところで、わずかに声がかすれてしまった。
「伊冴、そこは声を張り上げるんじゃなくて、お腹の底から優しく押し出すイメージだよ」
ピアノの前に座るゲストメンバーの青沼昂史朗が、鍵盤から手を離して優しく微笑んだ。昂史朗は圧倒的な歌唱力と豊かな表現力で、誰もが一目置く存在だ。
「昂史朗くん、やっぱり高音が上手く響かなくて……。喉が締まっちゃうんだ」
伊冴が悔しそうに眉を下げると、昂史朗は立ち上がって伊冴の隣に並んだ。
「伊冴の声は、もともとすごく綺麗で心に響くトーンを持ってる。だから、無理に声を大きく出そうとしなくて大丈夫。僕の真似をしてみて――あーーー」
昂史朗が美しく、透き通るような高音の手本を見せる。音楽室の空気が一瞬で震えるような、素晴らしい歌声だった。
伊冴は昂史朗のアドバイスを意識しながら、もう一度息を吸い込んだ。
「あーーー……あ!」
「そう、今のバランス! 喉の力が抜けて、すごくいい響きになってるよ!」
昂史朗が嬉しそうにパッと表情を輝かせると、伊冴の顔にもパッと明るい笑みが咲いた。
「すごい、今のは感覚が違った! 昂史朗くんのおかげで、コツが分かってきた気がする!」
「よかった。伊冴の歌、もっと聴きたいからさ。またいつでも付き合うよ」
二人が笑顔でハイタッチを交わしたちょうどその時、廊下から賑やかな声が近づいてきた。
「昂史朗くーーん! 伊冴ーー! お待たせ!」
音楽室のドアを開けて入ってきたのはももかだ。その後ろから、きらが控えめに手を振っている。
「練習、もう一段落した? 約束してた『マジョカカフェ』、今から行こうみょい!」
「うん。昂史朗くんに、新しくできた限定スイーツのお店、教えてもらう約束だったもんね」ときらが微笑む。
「あ、もうそんな時間か。伊冴も一緒に行く?」
昂史朗が振り返ると、伊冴は手元の譜面を見つめながら首を振った。
「俺は、今の感覚を忘れないうちにもう少しだけ練習していくよ。昂史朗くん、本当にありがとう! 二人も楽しんできてね!」
「うん、頑張ってね伊冴!」
夕方の光が差し込む街並みを歩き、3人は目的の「マジョカカフェ」へとやってきた。
第2の家に戻ってきた、と目を輝かせるももかと、メニューを熱心に見つめるきらの前で、昂史朗は少し照れくさそうに笑っていた。
「昂史朗くん、男一人だとこういう可愛いカフェって入りづらいから、誘ってくれて嬉しかったんだ」
運ばれてきたカラフルなパフェを前に、昂史朗が嬉しそうにスプーンを持った。
「ううん、私たちこそ昂史朗くんのおすすめのカフェに来られて最高だよ! それにしてもさ、さっきの伊冴への教え方、本当に優しくて素敵だった!」
ももかがパフェを頬張りながら、興奮気味に言った。
「そうだね。昂史朗くんの歌への向き合い方って、いつもまっすぐで、周りのみんなを引っ張る力があると思う」
きらも紅茶のカップを置きながら、しみじみと頷く。
二人の言葉に、昂史朗は少し耳を赤くしながら、真剣な眼差しで答えた。
「ありがとう。でも、僕一人の力じゃなくて、伊冴みたいに必死に食らいついてくれる仲間がいるから頑張れるんだ。あいつの歌声がもっと輝けば、僕たちのパフォーマンスはもっと高いところに行けるって信じてるから」
昂史朗の言葉には、ただ優しいだけではない、同じ夢を追う者としての強い情熱が宿っていた。
「……そっか。やっぱりみんな、目指す場所は同じだね!」
ももかが嬉しそうに笑うと、きらも「うん、みんなで一緒に『新世界』に行こうね」と優しく微笑んだ。
カフェの窓の外には、きらめく街の灯りが広がり始めていた。
それぞれの場所で、それぞれの強みを磨き合いながら、お互いを認め合っていく少年たち。彼らの物語は、放課後の音楽室からも、この温かいカフェの特等席からも、確かに未来へと繋がっていた。
(第6話・了)
次回は小野慶人くんが主人公でゲストは浅香孝太郎くんです!次回もお楽しみに!
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#7小野慶人
今回は主人公が小野慶人くんでゲストは浅香孝太郎くんです!それでは本編スタート!
放課後の第2体育館の鏡の前。
小野慶人は、自分の手足が思うように動かないもどかしさに、思わずその場に座り込んでしまった。
ダンスも歌も未経験。周りのメンバーがどんどんステップを覚えていく中、慶人だけが取り残されたような焦りを感じていた。
「慶人、ちょっと休憩しよう。これ、冷たいよ」
声をかけてきたのは、今回ゲストとして登場する浅香孝太郎だった。孝太郎は優しい笑顔でスポーツドリンクを慶人に手渡した。
その後ろからは、いつも慶人を心配そうに見守るももかときらが、タオルを持って駆け寄ってくる。
「慶人くん、大丈夫? ずっと休憩なしで踊ってたから心配だよ」
きらがそっとタオルを差し出し、ももかも「そうだよ! 焦らなくて大丈夫。慶人の歌声、私はすごく素直で素敵だと思うよ!」と励ました。
「みんな、ありがとう……。でも、やっぱり焦っちゃうんだ。ダンスのステップも頭では分かってるのに体がついてこないし、歌も息が続かなくて……。未経験の俺が、みんなと同じステージに立っていいのかなって、最近ずっと悩んでて」
慶人は膝を抱え、胸の奥に溜まっていた不安をぽつり、ぽつりと吐露した。
そんな慶人の隣に、孝太郎が静かに腰掛けた。
「慶人、僕も最初は何もできなかったんだよ」
孝太郎はまっすぐ慶人の目を見つめて、穏やかな声で語りかけた。
「え、孝太郎くんが?」
「うん。誰だって最初はゼロからのスタートだよ。慶人の良さは、その真っ直ぐで吸収しようとするひたむきさ。未経験だからこそ、変な癖がなくて、これからどんな色にでも染まれる。それって、ものすごい武器なんだよ」
孝太郎の温かい言葉が、慶人の強張っていた心をじんわりと解きほぐしていく。
「そうだよ、慶人くん。さっきのステップだって、昨日よりずっと軸がブレなくなってる」ときらがノートを開きながら、慶人の成長の記録を優しく伝えた。
「そうそう! 歌だって、慶人のまっすぐな声は聴く人の心に響くんだから! ほら、まずはサビのここ、もう一回一緒にやってみようよ!」とももかが腕を引いて笑顔で立ち上がらせた。
「みんな……」
慶人は目元が熱くなるのを感じながら、ぐっと拳を握りしめた。悩んで立ち止まっている時間はもったいない。これだけ自分を信じてくれる仲間がいるんだから。
「うん! もう一回、教えてほしい。孝太郎くん、ももか、きら、お願い!」
「よし、じゃあまずはこの足の重心の乗せ方からね」
孝太郎が立ち上がり、ゆっくりと、でも正確なステップの手本を見せる。
慶人はその動きを一瞬も見逃さないよう、食い入るように見つめ、真似をして足を動かした。
「そう、今のタイミング! すごく綺麗だよ、慶人!」
ももかがリズムを刻み、きらが歌のフレーズの息継ぎのタイミングを伝える。
何度も、何度も、泥臭く繰り返す。流れる汗が体育館の床を濡らしていくが、慶人の表情から暗い影は消え去っていた。
ついに一連のフレーズが通して踊れた瞬間、体育館に大きな拍手が響いた。
「できた! 慶人くん、完璧!」ときらが飛び跳ね、ももかも「やったーー! 最高のステップ!」と慶人の背中をバシバシと叩いて喜んだ。
「慶人、ナイスステップ。その努力は絶対に裏切らないよ」
孝太郎が差し出してきた手を、慶人は力強く握り返した。
「ありがとう、孝太郎くん。俺、もっともっと練習して、みんなと最高の『新世界』のステージに立つよ」
未経験という大きな壁。だけど、それを乗り越えるための仲間がここにいる。
夕暮れの体育館に響く彼らの足音は、小さくとも確実に、未来の大きな輝きへと繋がっていた。
(第7話・了)
次回は安部結蘭くんが主人公でゲストは大林悠成くんです!次回もお楽しみに!
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#8安部結蘭
今回は主人公が安部結蘭くんでゲストが大林悠成くんです!それでは本編スタート!
「ふふ、結蘭くん、今日もそのお菓子食べてるね」
放課後の渡り廊下。ベンチに座ってのんびりとチョコレートを口に運んでいた安部結蘭(ゆら)に、きらがクスクスと笑いながら声をかけた。その隣では、ももかがカバンを抱えて身を乗り出している。
「あ、ももか、きら。うん、これ食べると、頭がシャキッとしてダンスのアイデアが浮かぶんだよね」
結蘭は愛らしい笑顔を浮かべ、二人にお菓子を差し出した。結蘭はその抜群にキュートなルックスと、ステージに立った時のキレのあるパフォーマンスのギャップで、周囲をいつも魅了している。
「あ、ありがとう! ……って、結蘭、あそこにいるのって大林くんだよね?」
ももかが指さした先、中庭の木陰にあるベンチに、ゲストメンバーの大林悠成(ゆうせい)が1人で座っていた。悠成は手元の楽譜に真剣な目を向け、時折、喉を震わせるように低くハミングしている。
「大林くん、次のボーカル評価の曲、すごく熱心に練習してるみたい。でも、どこか悩んでるのかな……」ときらが心配そうに目を細めた。
結蘭は最後の一口を飲み込むと、パッと立ち上がった。
「よし、ちょっと話しかけてみよう!」
3人が中庭に降りて近づくと、悠成は気配に気づいて顔を上げた。いつもクールで大人びた雰囲気を持つ悠成だが、その瞳には少しだけ焦りの色が浮かんでいる。
「あ、安部くん。それに、ももかさんもきらさんも」
「悠成くん、お疲れ様。ボーカルの練習?」
結蘭が隣に腰掛けると、悠成は小さく溜め息をついて楽譜を閉じた。
「うん。この曲のサビ前、感情をグッと乗せて歌いたいんだけど……どうも僕の歌、綺麗にまとまりすぎてて、聴く人の心を揺さぶるような『熱量』が足りない気がするんだよね」
悠成の言葉には、歌に対して一切の妥協を許さない、彼なりの強いこだわりが詰まっていた。
結蘭は人差し指を顎に当てて、少し考える仕草をした。
「綺麗にまとまりすぎてる、か……。悠成くんの歌声って、すごく安定してて、聴いてて安心するんだよ。でも、もし『熱量』が欲しいなら、一回、楽譜を忘れて歌ってみたらどうかな?」
「楽譜を、忘れる?」
悠成が不思議そうに聞き返す。
「そう! 音程とかテクニックを気にするんじゃなくて、歌詞のメッセージだけを頭に浮かべて、目の前にいる僕たちに気持ちをぶつけるみたいに。ほら、ここをステージだと思ってさ!」
結蘭は立ち上がり、両手を広げて満面の笑みを浮かべた。
「そうだよ、悠成くん! 私たち、一番の観客になるから!」とももかが拳を握って応援し、きらも「悠成くんの心の中にある熱い想い、聴かせてほしいな」と優しく微笑んだ。
3人の真っ直ぐな視線に、悠成の胸の奥にある何かが動いた。
「……分かった。じゃあ、サビの部分だけ、伴奏なしで歌ってみる」
悠成はすっと立ち上がり、深く息を吸い込んだ。
目を閉じ、今までは「正確に歌おう」としていた意識を、すべて「伝える」ことへと切り替える。
そして、彼が声を放った瞬間――中庭の空気が一変した。
地を這うような深い低音から、一気に突き抜けるようなエモーショナルな高音へ。
いつもより少しだけ掠れたその声には、悠成が秘めていた「絶対にデビューする」という生々しいほどの情熱が、これでもかと込められていた。
歌い終わり、悠成が目を開けると、目の前で結蘭たちが息を呑んで立ち尽くしていた。
「……すごすぎる。悠成くん、今のめちゃくちゃ心に刺さったよ!」
結蘭が目をキラキラと輝かせて拍手を送る。
「鳥肌立った! 綺麗に歌う悠成くんもいいけど、今の熱い歌声、最高だよ!」とももかが大興奮で叫び、きらも感動で少し目を潤ませながらパチパチと拍手をした。
「そっか……届いたんだ」
悠成の口元に、フッと柔らかい笑みが浮かんだ。自分の殻を一つ破れたような、確かな手応えがそこにはあった。
「うん、バッチリ届いた! 悠成くんの歌があれば、僕たちのステージは無敵だよ」
結蘭が差し出した手を、悠成は力強く握り返した。
「ありがとう、結蘭。君のアドバイスのおかげだ」
夕暮れの中庭を、少年たちの温かい笑い声が包み込んでいく。
それぞれの個性を認め合い、お互いの弱さを補い合いながら、彼らはまだ見ぬ『新世界』のステージへと進んでいく。放課後の中庭に響き渡ったあの熱い歌声は、彼らの未来をどこまでも高く押し上げていくに違いない。
(第8話・了)
次回は飯塚亮賀くんが主人公でゲストは岡田侑磨くんです!
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#9飯塚亮賀
今回は主人公が飯塚亮賀くんでゲストは岡田侑磨くんです!それでは本編スタート!
体育館のステージ袖は、放課後の西日でオレンジ色に染まっていた。床にはダンス部のスピーカー、端っこには使い古されたモップとバケツ。文化祭前の特設ダンスステージのリハーサルで、空気だけがやけにそわそわしている。
「なあ、侑磨。やっぱ無理だわ、これ」
飯塚亮賀は、ジャージの裾をいじりながら、鏡の前で固まっていた。足が右に出るのか左に出るのか、それすら怪しい。
「まだ音すら流してないんだけど」
岡田侑磨は笑いながら、スマホをスピーカーにつなぐ。ダンス用のスニーカーを軽く床で鳴らした。
「ダンス未経験、って言ってたけどさ。体育のダンスとかも全部サボってたタイプ?」
「サボってない。ただ、いつも後ろで微動だにしない係だっただけだ」
「それを世間ではサボりって言うんだよ、亮賀」
侑磨はくすっと笑い、音楽の音量を小さく上げた。軽快なビートが体育館の隅にまで広がっていく。
「じゃあ、まずはここから。右、左、タタッ、ね」
侑磨は鏡の前に立ち、手を腰に当てながら、リズムに合わせて足を踏む。その動きは、当たり前のように軽くて、無駄がなかった。
亮賀はその横で、ぎこちなく真似をする。右に出した足が、なぜか一拍遅れて床をこすった。
「ストップ」
侑磨がすぐに音楽を止める。そのまま亮賀の後ろに回り込み、両肩に軽く手を置いた。
「力入りすぎ。肩、ほら、こんな感じ」
侑磨が肩を前後に揺らすと、亮賀の体も一緒に揺れた。近い距離に、亮賀の心臓が無駄に騒ぎ出す。
「…揺らすな。落ち着かない」
「落ち着かないのはダンスじゃなくてメンタルの問題では?」
言いながらも、侑磨の指先は優しい。肩をほぐし、背中を軽く押し、立ち位置を直していく。
「亮賀、ちゃんと鏡見て。自分の体の形、変だなって思ったら、そこから直す」
「変って言い切るなよ」
「事実だからね。はい、もう一回。右、左、タタッ」
音楽が再び流れ、二人の足音が床の上で小さく弾む。数回繰り返したところで、亮賀の動きが少しだけスムーズになった。
「お、今の悪くない」
「ほんとか?」
「さっきよりは、ね」
侑磨がニッと笑う。その笑顔を見た瞬間、亮賀の胸の奥で、なにかがカチッとはまった気がした。
しばらく練習を続け、体育館の時計が五時を指したころには、窓の外はすっかりオレンジから群青に変わっていた。
「ラスト、一回通そう。文化祭本番だと思って」
侑磨がそう言い、音量を少し上げる。ステージの照明はついていないが、夕方の残光と非常灯が、足元だけをぼんやり照らしている。
イントロが流れ始めると、亮賀の喉がからからに乾いた。手のひらは汗でべたつく。
「緊張してる?」
侑磨が横目で笑う。
「当たり前だろ。明日、全校生徒の前でこれやるんだぞ」
「じゃあ、今は俺だけ見て」
「は?」
「本番は全校生徒かもしれないけど、今は俺一人。俺のために踊るって思えば、ちょっとはマシでしょ」
なんだその理屈、と心の中で突っ込みながら、亮賀は息を吸う。音がサビに近づく。
「いくぞ、亮賀。せーの」
二人は同時にステップを踏み出した。右、左、タタッ。腕を斜め上に伸ばし、回転する。侑磨の動きを目で追い、その背中に遅れないように必死で食らいつく。
曲が終わる瞬間、最後のポーズで二人の手が軽く触れ合った。静かな体育館に、呼吸だけが残る。
「……やればできるじゃん」
侑磨が少し息を切らせながら笑う。
「お前の言う『できる』のハードル、わりと低くないか?」
「高いほうだよ。俺、教えるのわりと厳しいって有名なんだから」
「どこで有名なんだよ」
くだらないやり取りをしながらも、亮賀の胸の奥はじわじわと熱かった。自分にも、ちゃんとできることが増えた。それを真っ先に認めてくれたのが、目の前の岡田侑磨だという事実が、妙にうれしい。
片付けが終わり、体育館を施錠して外に出ると、校庭はすっかり夜だった。文化祭の準備で残っているクラスの教室からは、笑い声やガムテープを引きちぎる音が聞こえる。
「明日さ」
侑磨が校門までの道を並んで歩きながら、ぽつりと言った。
「お客さんの前だと、きっとまたガチガチになるでしょ」
「否定はしない」
「だから、最初の一曲目のイントロだけは、さっきと同じでいこう」
「同じ?」
「『俺だけ見て』ってやつ。観客じゃなくて、俺一人に向けて踊る感じで。そしたら、きっと今日みたいに動ける」
侑磨は、街灯の下で振り返り、少し真面目な目をした。
「俺も、ちゃんと見るから。亮賀がどれだけ頑張ったか、見逃さないから」
その言葉は、夜風よりもまっすぐに、亮賀の胸に刺さった。
「……お前、たまにずるいこと言うよな」
「褒め言葉として受け取っとく」
侑磨が笑う。その笑顔を見ているうちに、亮賀はふっと肩の力が抜けていくのを感じた。
「じゃあ、約束な。明日、最初は侑磨だけ見て踊る」
「うん。それ、録画するから」
「やめろ。黒歴史になるかもしれないだろ」
「ならないよ。俺の一生のネタにするだけ」
「それを黒歴史って言うんだよ!」
夜道に、二人の笑い声だけが響いた。明日の文化祭、ステージの上で、きっと今日とは違う自分になれる。そう思わせてくれるほどに、侑磨の教え方は、あたたかくて、少しだけ眩しかった。
(第9話the end)
次回は杉山竜司くんが主人公でゲストは横山奏夢くんです!次回もお楽しみに!
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#10杉山竜司
今回は主人公が杉山竜司くんでゲストが横山奏夢くんです!それでは本編スタート!
放課後のグラウンドには、夕日と一緒に鋭いホイッスルが響いていた。
「竜司、ラスト一本! 集中しろ!」
キャプテンの声に、杉山竜司は深く息を吐きながら頷いた。ユニフォームは泥と汗で汚れ、足はすでに棒のようだ。それでも、彼の目はまっすぐにゴールを見据えていた。
今度の週末は、地区大会の準決勝。相手は堅守で有名な強豪校だ。竜司のポジションであるフォワードが崩せなければ、勝利はない。
「…よし、来い」
竜司が小さく呟いたその時、サイドの低い位置から鋭いパスが中央へ放たれた。
しかし、連日の猛特訓による疲労のせいか、竜司のトラップが一歩大きくなる。
(しまっ――)
ボールが足元から離れた瞬間、ディフェンダーの影が目の前に迫った。奪われる、と思ったその刹那、横から目にも留まらぬ速さで滑り込んできた影があった。
鮮やかなスライディング。ボールは相手の足をすり抜け、きれいに竜司の足元へと戻ってくる。
「竜司、前!」
聞き馴染んだ、しかし誰よりも頼もしい声が響く。ゲストとして別格の存在感を放つミッドフィルダー、横山奏夢だ。
奏夢は泥にまみれた顔で不敵に笑うと、すぐに立ち上がって前方へと走り出した。竜司の視界が一気に開ける。
「奏夢…っ!」
言葉はいらなかった。竜司は吸い付くようなドリブルでディフェンダーを一人かわすと、右サイドを駆け上がる奏夢へと絶妙なタイミングでパスを送る。
奏夢はスピードを落とさずにボールを受けると、相手のディフェンスラインを深く切り裂いた。誰もが奏夢のシュートを予感し、相手ゴールキーパーがポジションを前に詰める。
だが、奏夢の選択は違った。
「決めてくれよ、エース!」
奏夢が右足のインサイドで優しく転がしたボールは、ゴール前に走り込んでいた竜司の目の前へ。
完璧なお膳立て。竜司は体をひねり、残ったすべての力を右足に込めて振り抜いた。
快音を残したボールは、ネットの隅へと突き刺さる。
「そこまで! 解散!」
監督の声と同時に、グラウンドに座り込んだ竜司のもとへ、奏夢が歩み寄って手を差し伸べた。
「ナイスシュート、竜司。やっぱりお前に出すと安心するわ」
「…お前のパスが完璧すぎたんだよ。ありがとな、奏夢」
差し出された手を掴み、竜司は立ち上がった。二人の影が、茜色のグラウンドに長く伸びていく。このコンビなら、どんな壁だって壊せる。竜司の胸には、確かな熱い手応えが残っていた。
次回は主人公が照井康祐くんでゲストは神元理丘くんです!次回もお楽しみに!
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#11照井康祐
今回は主人公が照井康祐くんでゲストは神元理丘くんです!
放課後の美術室には、夕暮れの淡い光と、油絵の具の独特な匂いが満ちていた。
「……ここ、もう少し影を濃くした方がいいか?」
照井康祐はパレットを左手に持ったまま、キャンバスの前で小さく首を傾げた。
数日後に控えた校内コンクールに向けて、彼は一枚の風景画を描き続けている。しかし、どうしても空のグラデーションが納得いかず、筆が止まってしまっていた。
元々、康祐は丁寧で繊細なタッチが得意だ。だが、今回はその慎重さが裏目に出て、全体の画面がどこか縮こまって見えていた。
「照井、まだ残ってたんだ」
不意に背後から声をかけられ、康祐は驚いて振り返った。
そこに立っていたのは、同じ美術部の神元理丘だ。理丘は独特の感性を持つ男の子で、その大胆な色使いは部内でも一目置かれている。
理丘は静かな足取りでキャンバスに近づくと、じっと絵を見つめた。
「すごく綺麗だね。でも、なんだか迷ってる?」
「あ、うん……。星空の広がりを出したいんだけど、どうしても綺麗にまとめようとしちゃって。迫力が出ないんだよね」
康祐が苦笑いしながら打ち明けると、理丘はいたずらっぽく微笑んだ。
「じゃあさ、ちょっと試してみていい?」
理丘は自分の筆を手に取ると、パレットの上で濃いウルトラマリンと鮮やかな紫を素早く混ぜ合わせた。そして、康祐が触るのをためらっていた空の境界線へ、迷いなく太いブラシマークを残していく。
「あ……!」
康祐は思わず声をあげた。理丘の塗った色は、一見すると大胆すぎた。しかし、その一筆が入ったことで、周囲の繊細な星々がまるで本当に光を放ち始めたかのように引き立ったのだ。
「綺麗に塗ろうとしなくていいんだよ。照井の丁寧な光があるから、僕の強い影が活きる。もっと自信持ってガツンといきなよ」
理丘は筆を置くと、満足そうに笑って康祐の肩をぽんと叩いた。
「神元……。なるほど、グラデーションを滑らかにするだけが広がりじゃないんだな」
目の前が開けたような感覚だった。康祐の心の中にあった迷いは、理丘の鮮烈な一筆によって綺麗に消し去られていた。
「ありがとな、神元。最高のヒントをもらったよ」
「どういたしまして。完成、楽しみにしてるからね」
康祐は再び筆を握り直した。理丘がくれた刺激を胸に、今度は恐れずにキャンバスへと向かう。二人の個性が混ざり合った絵は、窓の外の本物の星空に負けないくらい、確かに輝き始めていた。
次回は濱田永遠くんが主人公でゲストは藤牧大雅くんです!次回もお楽しみに!
SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#12濱田永遠
今回は主人公が濱田永遠くんでゲストは藤牧大雅くんです!それでは本編スタート!
スタジオの空気が、少しだけ重たく感じた。
「よーい、スタート」の声に合わせて流れ出すビート。
頭ではわかっている。入るタイミングも、歌詞も、何十回も繰り返してきた。
それでも、声がビートに乗ろうとすると、どこかで引っかかる。
「……永遠、ストップ」
ガラス越しに、藤牧大雅の声が飛んだ。いつもより少しだけ真面目なトーン。
永遠はヘッドホンを外して、小さく肩をすくめる。
「ごめん。やっぱラップ、苦手だわ俺……」
ブースのドアが開くと同時に、ふわりとシャンプーの匂いが近づいてきた。
大雅が譜面を手に、スタジオの中まで入ってくる。
「苦手とか言いつつ、ちゃんとカッコよくなりたいんでしょ?」
茶化すような声色なのに、目は笑っていない。
ちゃんと、見てくれている目だ。
「そりゃあ……。上手くなりたいけど」
「じゃあ、もうちょい付き合って。今日は俺、先生モードだから」
大雅はスツールを引き寄せて、永遠のすぐ隣に腰掛けた。
距離が近くて、永遠は思わず背筋を伸ばす。
「まずさ、永遠さ」
とん、とん。
譜面の上を、ペンの先で一定のリズムを刻む。
「ラップって、早口でしゃべる歌、だと思ってない?」
「え、違うの?」
「違う。しゃべる“テンポのいい独り言”」
「ひとりごと……?」
永遠が首をかしげると、大雅は笑って息を吐く。
「たとえば、この一行」
彼は永遠のラップパートの一節を指さした。
「“負けず嫌いが騒ぎ出すフロアの真ん中で”」
「これ、普段の永遠ならどう言う?」
「えっと……“負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中で”」
「そう。今の、区切った感じ。これでいい」
大雅は軽く膝を打つ。
「じゃあさ、それをビートに合わせて、ちょっとだけ音を伸ばしたり、詰めたりするだけ。急に“ラップしなきゃ”って思うと、全部カッコつけようとして固くなる」
「カッコつけちゃダメなの?」
「最初からカッコつく人なんていないよ」
そう言って、すぐに続ける。
「でも、“永遠らしいしゃべり方”は、最初からある。それをビートに乗せる方が、結果的にカッコいい」
永遠は、自分の喉元に手を当ててみる。
いつものトーンで話している時と、ラップをしようとした時の違い。
たしかに、さっきは必要以上に低い声を出そうとしていた気がした。
「…じゃあ、今の一行、いつもの感じで読んでみて」
「このまま?」
「うん。俺、ビート軽く鳴らすから」
大雅はスマホでビートを流し、小さく足でテンポを刻みながら数える。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
永遠は、いつもの話し声で、リズムに合わせるように言ってみる。
「負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中で」
「うん。その、“、”のタイミング、今のままでいい」
大雅は指先で空中に拍を描きながら、永遠の声に合わせてうなずいた。
「今度は、最後だけちょっと伸ばしてみよ。“真ん中でぇ…”って。やりすぎなくていいから」
「まんなかでぇ…?」
「そう。試しね。間違ってもいいから、俺しか聞いてないし」
「……わかった」
もう一度、ビート。
同じカウント。
「負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中でぇ…」
「あ、いいじゃん」
大雅の顔が、ふっと明るくなる。
「今の、“でぇ…”のとこさ。そこでちょっとだけ笑ってみて」
「え、笑うの?」
「そう。悔しいけど楽しい、みたいな。永遠そういう顔得意でしょ」
やけに具体的な注文に、永遠は笑ってしまう。
「俺の顔、どんだけ見てんの」
「毎日見てるけど」
さらっと返されて、永遠の耳が熱くなる。
照れ隠しに咳払いをして、もう一度構える。
ビート、カウント、声。
「負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中でぇ…」
最後の「でぇ」に合わせて、口角を少しだけ上げてみる。
ふたりのあいだに、ほんの一瞬だけ、空気の抜けるような軽さが生まれた。
「それそれ、それ!」
大雅が、思わず永遠の肩をポンと叩く。
「今のさ、“俺負けねえから”って顔してた。そういうのがラップには大事なんだよ」
「顔も関係あるんだ」
「めちゃくちゃある。表情が乗ると、声のノリが変わるから」
大雅は自分の喉を指でなぞる。
「ここって、感情が通る通路みたいなもんでさ。眉とか口角とか動くと、一緒にここも変わるの。だから俺、ラップのとき鏡見るよ」
少し誇らしげに言うと、永遠は「へえ」と目を丸くした。
「じゃあさ、大雅がやるとどうなるの?」
挑戦するように問うと、大雅は「いいよ」と即答した。
「じゃあ、同じ一行ね」
ヘッドホンを奪うように手に取り、永遠の隣で片耳だけ当てる。
ビートが流れ、カウントが入る。
「負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中で」
同じ歌詞なのに、まるで違う世界に聞こえた。
言葉と言葉のあいだに、余裕がある。
遊び心も、ちょっとした毒っ気も混ざっている。
永遠は、思わず息を呑んだ。
「……ずる」
「え?」
「同じことしてんのに、全然違う」
本音が、つい口からこぼれる。
大雅は少しだけ目を丸くして、それからふわっと笑った。
「今、“ずる”って言った時の声、覚えてて」
「え?」
「それが、素の永遠の“悔しい”のトーン。次ラップするとき、その気持ち思い出して」
大雅は、永遠の胸のあたりを、軽く指でつついた。
「ラップって、テクニックの前に“気持ち”だからさ。永遠がちゃんと悔しがってる限り、絶対伸びる」
「伸びる、かな」
「うん。俺が保証する」
きっぱりと言い切られて、永遠は目を伏せる。
そこまで言われると、弱音が少し言いづらくなる。
「……じゃあ、もう一回やる」
「よし。今のでさっきの一行、通しでやってみよ。途中でズレても止めないから、最後まで行ってみて」
ヘッドホンをしっかりとはめ直す。
視界の端で、大雅が親指を立てて見せる。
「いける?」
喉の奥に、さっきの“ずる”が残っている気がした。
あの、少しだけ情けなくて、でも負けたくない感情。
それをそっと、胸の真ん中で握りしめる。
「いける」
今度は、自分でそう言った。
カウント、ビート、息。
「負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中でぇ…」
言い終えた瞬間、スタジオの空気が、少しだけ変わった気がした。
自分の声なのに、さっきまでとは違う厚みがある。
ガラスの向こうを見やると、スタッフが驚いたように顔を見合わせている。
その間で、大雅だけが、ゆっくりとうなずいていた。
「……悪くない」
インカム越しに聞こえた声は、わざとらしく淡々としている。
けれど、隣にいる本人は、満面の笑みだ。
「ね、できたじゃん」
「今の、そんな良かった?」
「うん。録り直して比べよ。前のテイク聞いたら、多分自分で笑うと思う」
冗談めかして笑いながら、大雅はそっと永遠のヘッドホンを外す。
「永遠」
「ん?」
「ラップ苦手って言うの、今日で最後にしよ」
不意をつくような言葉に、永遠は目を瞬いた。
「まだまだだよ、俺」
「まだまだなのは俺も一緒。でも、“苦手だから”って逃げるのと、“まだうまくなるから”って向き合うのじゃ全然違う」
大雅は、どこか真剣な声で続ける。
「俺、永遠のラップ普通に好きだからさ。自信持ってほしい」
胸の奥が、じんと熱くなる。
「……そんなこと、面と向かって言う?」
「今言わないと、また“苦手”って言うじゃん」
図星すぎて、何も言い返せない。
代わりに、永遠は小さく笑った。
「わかったよ。今日からは、“ラップ修行中”って言う」
「それなら許す」
大雅も笑って、拳を突き出した。
「じゃ、先生としては、あと二小節も見てあげる」
「先生、厳しくしないでください」
「え、さっき“ずる”って言われたの、根に持ってるけど?」
「やだ、根に持つ先生!」
笑い声とビートが混ざり合うスタジオで、
永遠の苦手意識は、少しずつ形を変えていく。
それが、いつか自信と呼べるものになると信じさせてくれる隣の存在がいるから、
今日もまた、同じビートの上に、新しい一行を刻んでいくのだった。
次回はKO1KEYZメンバーにフォーカスした小説に