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SHINSEKAI meets the world:101の奇跡#12濱田永遠
⭐️KAE0727⭐️
今回は主人公が濱田永遠くんでゲストは藤牧大雅くんです!それでは本編スタート!
スタジオの空気が、少しだけ重たく感じた。
「よーい、スタート」の声に合わせて流れ出すビート。
頭ではわかっている。入るタイミングも、歌詞も、何十回も繰り返してきた。
それでも、声がビートに乗ろうとすると、どこかで引っかかる。
「……永遠、ストップ」
ガラス越しに、藤牧大雅の声が飛んだ。いつもより少しだけ真面目なトーン。
永遠はヘッドホンを外して、小さく肩をすくめる。
「ごめん。やっぱラップ、苦手だわ俺……」
ブースのドアが開くと同時に、ふわりとシャンプーの匂いが近づいてきた。
大雅が譜面を手に、スタジオの中まで入ってくる。
「苦手とか言いつつ、ちゃんとカッコよくなりたいんでしょ?」
茶化すような声色なのに、目は笑っていない。
ちゃんと、見てくれている目だ。
「そりゃあ……。上手くなりたいけど」
「じゃあ、もうちょい付き合って。今日は俺、先生モードだから」
大雅はスツールを引き寄せて、永遠のすぐ隣に腰掛けた。
距離が近くて、永遠は思わず背筋を伸ばす。
「まずさ、永遠さ」
とん、とん。
譜面の上を、ペンの先で一定のリズムを刻む。
「ラップって、早口でしゃべる歌、だと思ってない?」
「え、違うの?」
「違う。しゃべる“テンポのいい独り言”」
「ひとりごと……?」
永遠が首をかしげると、大雅は笑って息を吐く。
「たとえば、この一行」
彼は永遠のラップパートの一節を指さした。
「“負けず嫌いが騒ぎ出すフロアの真ん中で”」
「これ、普段の永遠ならどう言う?」
「えっと……“負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中で”」
「そう。今の、区切った感じ。これでいい」
大雅は軽く膝を打つ。
「じゃあさ、それをビートに合わせて、ちょっとだけ音を伸ばしたり、詰めたりするだけ。急に“ラップしなきゃ”って思うと、全部カッコつけようとして固くなる」
「カッコつけちゃダメなの?」
「最初からカッコつく人なんていないよ」
そう言って、すぐに続ける。
「でも、“永遠らしいしゃべり方”は、最初からある。それをビートに乗せる方が、結果的にカッコいい」
永遠は、自分の喉元に手を当ててみる。
いつものトーンで話している時と、ラップをしようとした時の違い。
たしかに、さっきは必要以上に低い声を出そうとしていた気がした。
「…じゃあ、今の一行、いつもの感じで読んでみて」
「このまま?」
「うん。俺、ビート軽く鳴らすから」
大雅はスマホでビートを流し、小さく足でテンポを刻みながら数える。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
永遠は、いつもの話し声で、リズムに合わせるように言ってみる。
「負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中で」
「うん。その、“、”のタイミング、今のままでいい」
大雅は指先で空中に拍を描きながら、永遠の声に合わせてうなずいた。
「今度は、最後だけちょっと伸ばしてみよ。“真ん中でぇ…”って。やりすぎなくていいから」
「まんなかでぇ…?」
「そう。試しね。間違ってもいいから、俺しか聞いてないし」
「……わかった」
もう一度、ビート。
同じカウント。
「負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中でぇ…」
「あ、いいじゃん」
大雅の顔が、ふっと明るくなる。
「今の、“でぇ…”のとこさ。そこでちょっとだけ笑ってみて」
「え、笑うの?」
「そう。悔しいけど楽しい、みたいな。永遠そういう顔得意でしょ」
やけに具体的な注文に、永遠は笑ってしまう。
「俺の顔、どんだけ見てんの」
「毎日見てるけど」
さらっと返されて、永遠の耳が熱くなる。
照れ隠しに咳払いをして、もう一度構える。
ビート、カウント、声。
「負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中でぇ…」
最後の「でぇ」に合わせて、口角を少しだけ上げてみる。
ふたりのあいだに、ほんの一瞬だけ、空気の抜けるような軽さが生まれた。
「それそれ、それ!」
大雅が、思わず永遠の肩をポンと叩く。
「今のさ、“俺負けねえから”って顔してた。そういうのがラップには大事なんだよ」
「顔も関係あるんだ」
「めちゃくちゃある。表情が乗ると、声のノリが変わるから」
大雅は自分の喉を指でなぞる。
「ここって、感情が通る通路みたいなもんでさ。眉とか口角とか動くと、一緒にここも変わるの。だから俺、ラップのとき鏡見るよ」
少し誇らしげに言うと、永遠は「へえ」と目を丸くした。
「じゃあさ、大雅がやるとどうなるの?」
挑戦するように問うと、大雅は「いいよ」と即答した。
「じゃあ、同じ一行ね」
ヘッドホンを奪うように手に取り、永遠の隣で片耳だけ当てる。
ビートが流れ、カウントが入る。
「負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中で」
同じ歌詞なのに、まるで違う世界に聞こえた。
言葉と言葉のあいだに、余裕がある。
遊び心も、ちょっとした毒っ気も混ざっている。
永遠は、思わず息を呑んだ。
「……ずる」
「え?」
「同じことしてんのに、全然違う」
本音が、つい口からこぼれる。
大雅は少しだけ目を丸くして、それからふわっと笑った。
「今、“ずる”って言った時の声、覚えてて」
「え?」
「それが、素の永遠の“悔しい”のトーン。次ラップするとき、その気持ち思い出して」
大雅は、永遠の胸のあたりを、軽く指でつついた。
「ラップって、テクニックの前に“気持ち”だからさ。永遠がちゃんと悔しがってる限り、絶対伸びる」
「伸びる、かな」
「うん。俺が保証する」
きっぱりと言い切られて、永遠は目を伏せる。
そこまで言われると、弱音が少し言いづらくなる。
「……じゃあ、もう一回やる」
「よし。今のでさっきの一行、通しでやってみよ。途中でズレても止めないから、最後まで行ってみて」
ヘッドホンをしっかりとはめ直す。
視界の端で、大雅が親指を立てて見せる。
「いける?」
喉の奥に、さっきの“ずる”が残っている気がした。
あの、少しだけ情けなくて、でも負けたくない感情。
それをそっと、胸の真ん中で握りしめる。
「いける」
今度は、自分でそう言った。
カウント、ビート、息。
「負けず嫌いが、騒ぎ出す、フロアの真ん中でぇ…」
言い終えた瞬間、スタジオの空気が、少しだけ変わった気がした。
自分の声なのに、さっきまでとは違う厚みがある。
ガラスの向こうを見やると、スタッフが驚いたように顔を見合わせている。
その間で、大雅だけが、ゆっくりとうなずいていた。
「……悪くない」
インカム越しに聞こえた声は、わざとらしく淡々としている。
けれど、隣にいる本人は、満面の笑みだ。
「ね、できたじゃん」
「今の、そんな良かった?」
「うん。録り直して比べよ。前のテイク聞いたら、多分自分で笑うと思う」
冗談めかして笑いながら、大雅はそっと永遠のヘッドホンを外す。
「永遠」
「ん?」
「ラップ苦手って言うの、今日で最後にしよ」
不意をつくような言葉に、永遠は目を瞬いた。
「まだまだだよ、俺」
「まだまだなのは俺も一緒。でも、“苦手だから”って逃げるのと、“まだうまくなるから”って向き合うのじゃ全然違う」
大雅は、どこか真剣な声で続ける。
「俺、永遠のラップ普通に好きだからさ。自信持ってほしい」
胸の奥が、じんと熱くなる。
「……そんなこと、面と向かって言う?」
「今言わないと、また“苦手”って言うじゃん」
図星すぎて、何も言い返せない。
代わりに、永遠は小さく笑った。
「わかったよ。今日からは、“ラップ修行中”って言う」
「それなら許す」
大雅も笑って、拳を突き出した。
「じゃ、先生としては、あと二小節も見てあげる」
「先生、厳しくしないでください」
「え、さっき“ずる”って言われたの、根に持ってるけど?」
「やだ、根に持つ先生!」
笑い声とビートが混ざり合うスタジオで、
永遠の苦手意識は、少しずつ形を変えていく。
それが、いつか自信と呼べるものになると信じさせてくれる隣の存在がいるから、
今日もまた、同じビートの上に、新しい一行を刻んでいくのだった。
次回はKO1KEYZメンバーにフォーカスした小説に