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目次
Nice Ball‼︎ 第一話
思い出さなかった日はなかったと思う。
「さあカート・ワシントン、渾身のサーブ!石井健介、その球を強打で返球!深いボールです!さあカート取れない!取れません!
6年ぶりのグランドスラム決勝……ついに! 日本の石井、優勝です!!! 会場が歓喜に沸いています!!」
小学校5年生、暑い夏の日だった。俺はその日初めて“神”を見た。
俺はいま、その神になろうとしている。
---
4月。
この緑第一高校に入り早くも一週間が経った。春など名ばかりで季節を伝えるのはもはや暦のみである。
「峯田ぁ、サーブのコツ、掴めた?」
「いい調子っすよ、立花先輩」
俺はテニス部に入部し、自分にテニスの才能があることに気がついた。
中学の時はテニススクールに通っていたが、何故か一緒にレッスンを受けている奴がみんなちびっこだったのだ。
その点、こっちは自分がどのくらいのレベルなのかがよくわかる。
「そうだなぁ。もう少し当たる瞬間に力を入れて見たらどうかな、わかんねーけどよぉ」
立花先輩は三年生で、今年引退。受験の二文字も見えているはずなのに、練習に付き合ってくれる。
「俺行かねーけど、月末試合なんだろ?頑張ってこいよ」
「なんで来てくんないんすか」
「サッカー部の奴らにビリヤード誘われちゃってさぁ、ロシアの伯父ちゃんかっての」
ガハハと笑う立花先輩の色素の薄い髪は夕日に照らされ輝いていた。
Nice ball‼︎ 第二話
「一成、お弁当持った?」
「持ったよ、母さん」
4月28日、ついにこの日が来た。
この大会は部内全員出場できるが「駆け出し選手」のみんなは参加しないらしい。つまり一人勝ちだ。
「今日は佳歩ちゃん来るんでしょ?かっこいいとこ見せてやりなさいよ」
母さんが冷やかす。なんでこのオバサンはこういうことをすぐ言うのだろう。
浮所佳歩。剣道部所属。容姿端麗かつ文武両道。そして俺の愛すべき彼女でもある。この前告白したばかりだ。
あんなハート__があるべき部位__の大きな彼女に俺が勝ち進む姿を見せられたら……
「早く行きなさい邪魔よ」
「すみません行ってきます」
---
会場に着くと藤本部長と山崎先生、先輩数人がいた。
「遅えぞ、一成。15分前には到着しろっつったろ」
「ごめんなさい部長、ちょっと取り込んでて」
藤本部長、テニスは強いけどすごい怖いんだよな……
プログラムを配りながら山崎先生が言った。
「今日の試合は強者揃いだからな。他校には一年もいるけど、油断しないように」
どうやらかなり腕の良い奴が多い大会らしい。疲れちゃって困るな。
---
「峯田くーん!遅くなっちゃった!」
佳歩は俺が試合に出るギリギリに来た。
「遅いよ。もう試合だから、見てな」
彼女に微笑みながらコートに出る。相手は北西高校の一年生、北原という生徒だった。
「よろしく」
「よろしくね」
愛想のあるいい顔だった。ただスポーツっていうのはどれだけ下衆なことできるかで勝敗が決まるんだ。
---
北原からのサーブは遅かった。
俺は彼の左側へ返球。
ミス。甘いボールがラケットから放たれる。
彼の反応はサーブと違い早かった。
バックハンドで放たれた強打は俺の後ろへ消えていった。
ガッツポーズを掲げる彼を最後に記憶はない。
---
「そんなに落ち込まなくって大丈夫だって……」
__「……うん」__
「次は勝てるよ、峯田くん」
蚊の鳴くような声で喚く俺はずっと佳歩に慰められていた。これじゃ子供だ。情けない。
「あの……緑第一の峯田くんだよね?」
話しかけてきたのは先程戦った男、北原だった。
「さっきはありがとう。俺、よく隣町の河川敷で連取してるんだけど、峯田くんもどうかな?」
__「え?」__
「電話番号、プログラムに書いとくから、気が向いたら電話してね。んじゃ」
そういうと北原は足早に去っていった。なんだったんだ。
「いいじゃんあいつ、練習してもらいなよ。彼の弱点見つかるかもよ?」
行ってみようかな、というのが試合後初めてちゃんと喋った言葉だった。
Nice Ball‼︎ 第三話
大会から帰ってきて4時間経った。本当に電話をしようか、しまいか…
よし、掛けよう。どうなっても知らない。
俺はメモに書かれた番号を入力し、発信ボタンを押した。
「…もしもし?」
「もしもし。み、峯田だけど」
「あぁ、昼間の」
心なしか北原の声からは相当な疲れが見える。
「お前…なんかあったの?」
「……さっき、負けて帰って来たばっかなんだ」
「ハハッ、俺もだよ奇遇だな」
彼は櫂高校の小城という生徒にやられたらしい。どうやら、6月の大会にも出場するそう。
「さっき峯田くんと戦った感想だけど、いいプレーだったよ。練習に付き合ってくれないか?」
そんなこと言われちゃうと照れるな…
「ま、いいけど」
---
夕暮れが川の水に反射している。足元にある太陽に目を焼かれながら北原を探した。
「あっ、峯田くんじゃないか。待ってたよ」
あの時のように笑顔で話しかけてくれた。少しだけ不安だった心が温められた。
「……やるか?」
「やろっか」
ラリーが始まった。この前の試合とは打って変わって、とてつもなく返球しやすい。
「結構…うまいね…峯田…くん…!」
「まあ…そうだな…」
ラリーを続けながらの会話は息が途切れ途切れになりキツい。一旦休憩することになった。
「そうだ、お前が負けた小城って、どんなヤツ?」
気になって質問してみた。
「あいつは相当強いよ。人間というか、怪物と呼んだ方がいいんじゃないかな?」
Nice Ball‼︎ 第四話
部活を終え帰ろうとすると、立花先輩が話しかけて来た。
「お疲れ様です」
「ああお疲れさん、最近頑張ってんな、峯田」
「まあ、そうですね」
「そうだ。この前の試合、どうだった?」
この前の試合といえば散々な結果だった。そして北原と出会ったのである。
「最初の試合で負けちゃいました。でも、対戦相手と仲良くなれて、練習してるんです」
そう言うと立花先輩は少し怪訝な顔をした。
「そっか…いいことだな。けど、あいつ…藤本はそういうの嫌うんだ。相手に弱点握られてる感覚らしい。あんま話さん方がいいかも」
「ありがとうございます。」
彼はウインクをして立ち去った。全く景気のいい人だ。
---
「月末また大会だよ…憂鬱だよぉ峯田くん…」
「そんなこと言ったって大会は来るんだ。練習練習」
北原といつものように練習だ。彼はまた小城という奴にアタると言い相当ナーバスになってるようだった。
「んで、具体的に言ってどんな奴なの?」
「もう何をしてもパワーで押し切られるんだ。守りに入ってもスマッシュ!強気に打ってもスマッシュ‼︎あえて言うならば恐怖だよ」
どうやら相当な強さらしい。
「あぁ、言い忘れてた峯田くん。君が予選を突破したら多分僕とアタる。その時は力比べと行こうじゃないか」
チッ。受けて立つよこの野郎。
Nice Ball‼︎ 第五話
また大会がやって来た。今日はいつも以上に気合いが入っている。
「おはよう峯田。昨日はよく眠れたか?」
顧問の山崎先生が話しかけてくる。
「バッチリですよ。今日は北原と再戦ですし」
そうか、と短い返事をして先生はプログラムを配り始めた。
最初の相手は木戸という選手だった。随分と顔に余裕が見える。
「お願いしまーす」
「お願いします」
試合が始まった。木戸のサーブが地面に直撃する。スピードは遅い。簡単にスマッシュできる。
木戸とすれ違いながらコートにインしたボールは観客席の壁にぶつかり跳ね返った。
木戸の表情は死んでいたに等しい。怒りや悔しさを全面に押し出したような顔だった。
「ありがとうございました」
__「……ざした」__
か細い声を出し観客席へ戻っていく木戸を横目に彼の顧問の先生へ挨拶に行く。かなりおじいさんの先生だった。
「ありがとうございました」
「どうも。あれ、緑第一高校だっけ?」
「はい」
「そうかぁ。山崎先生が顧問だろう?よろしく言っておいてくれ」
そう言うと彼はスポーツドリンクを一口飲み「んじゃ」と発した。
「やあやあ峯田くん。いよいよだね」
「調子乗んなよ。小城とアタる前に帰らせてやる。安心しろ」
北原と一言交わしたのち試合が始まった。
前回のサーブとは打って変わってスピード感のあるサーブだった。あいつは確かバックハンドが弱点だったような……
互いの傷に唾を吐き合うように僕らは失点していく。弱点をなぞり、姑息な全力を出す。
相手から気力を奪い合うような試合は、北原の勝利だった。
「ありがとうございました」
「くっそ…」
僕らは散っていく。ふと見上げるとさっきの木戸が座っていた。頬には涙が伝っていた。俺に似ていた。
Nice Ball‼︎ 第七話
北原vs小城の試合はまさに圧巻だった。小城の圧勝だったのである。
「峯田くぅぅぅん…‼︎才能ないかなぁぁぁ…‼︎」
泣きじゃくる男を男が抱きしめるという謎の時間が続いた後、俺らは帰路についた。
「お疲れ様。もう切り替えようぜ。ゲームしよゲーム」
初めて上がった北原邸をまるで自分の家のように歩き回る。失礼だとは思っているが彼が黙っているのが堪らなく落ち着きを削ぐ。
__「やろっか。ZHEが一番得意だからさ」__
北原が小さく答える。男は落ち込むと皆このテンションになるらしい。
「んなー!また負けちゃったよ!さすがスペクター567使いの北原」
「えへへ…」
小型拳銃を持った少女が画面の中でポーズを決める。彼の機嫌も良くなったんで、ゲームして帰ろう。
「そうだ、峯田くん。いつか小城に会ったら河原でやる練習、誘ってみてくれないかな」
「へ?」
「なんかね、どうしても勝ちたい相手がいるんだって。お互いどうかな。みんなで集まって練習するの」
Nice Ball‼︎ 第八話
「いたいた、あそこだ」
夏休みに入る前の最終日、俺らは小城のいる尼崎高校へ走って行った。河原での練習に誘うためだ。彼に話しかけるのはジャンケンで負けた俺。最悪としか言いようがない。
「あ…小城…くん?」
「んぁ?」
怖ぇ。とにかく眼光が鋭い。使い切った勇気をどこかから拝借しながら声を出す。
「俺、緑第一高校の峯田一成。小城くんってテニス部だろ?一緒に練習しない…?」
「……まあ、考えてやるよ。電話番号教えてくれ」
---
「今日で僕ら3年生は引退します。部長としてみんなと関われたのが嬉しいです。これからも練習頑張ってください」
「えっとー…まあ、あんまり実感は湧かないです。けどもう引退かぁ…そうかぁ…俺は結構サボりがちだったけど、みんなは練習頑張って、またみんなと会うこともあると思うんで、うん…まあ、ありがとうございました」
藤本部長、立花先輩のスピーチが終わる。夏休みに入って五回目の練習だった。
——もうこの人たちもいなくなるのか。藤本部長は多分頑張って考えて来たんだろうな。立花先輩はー…こういうところで話すのが苦手な気がする。
俺が頑張らなければいけない番が段々と近づいてくる。今日も河原へ行こう。
---
「遅いぞ峯田くん。小城が怒ってるよ」
「やっちまった…謝ってくるわ」
まずいことになった…俺は小城へ近づき声をかける。
「ごめん、遅れ…ました」
「おめぇ、名前なんつったっけ?」
「峯田…です」
「……ま、しゃーねーよ。言っても俺ら来たばっかだからさ」
じゃあやるか、と声を出してコートへ走る小城をボーッと見つめていた。
Nice Ball‼︎ 第十話
「熱い……」
翌日俺は一人で練習しにきた。二人とも来ないという。
一人でできることなど限られている。壁打ちでもするか。
自分が打ったボールは鏡に映したように自分に返ってくる。ボールは太陽に曝され輝いている。俺は小城や北原の顔を思い出す。彼らには敵わない。同時に、この前の木戸という選手のことも思い出す。俺はあいつに勝った。ただ、俺が北原に、負けて猛練習したように、努力しているんじゃないか。負けが怖い。下剋上が怖い。ボールは返ってくる。俺は打つ。北原に小城に木戸に、いつ追い抜かされるか、それとも、もう——
---
「……母さん?」
「もう…人に心配かけて!この馬鹿!!」
見知らぬ白い部屋には夕焼けが入り込んでいる。薬の匂いが充満している。ここどこだ?
「あんたねぇ、こんな季節に外で運動なんかしたら死んじゃうじゃない!」
「……俺どうなったの?」
「はぁ……呆れた。熱中症で救急車で運ばれたのよ。入院沙汰」
本当に実感が湧かない。さっきまで練習してたじゃないか俺は。
まだ状況が飲めない俺を置き去りにしたのか、待ってくれたのか。病室に佳歩が飛び込んできた。
「お母さんから聞いたから来たよ!峯田くん大丈夫なの?」
「この子ったら何でもないような顔して起きたのよ。死んじゃうかもしれなかったのに」
俺に聞いているのになぜ母さんが答えるのかわからないが、とりあえず安心した様子だった。
「よかった…私この後用事あって、すぐ帰らなきゃ……またお見舞いくるからね、頑張って!」
「おん…じゃあな…」
「さ、なんでもなさそうだから私も帰ろうかしら。これ、着替えとかスマホとか入ってるから。適当に暇つぶしときな」
---
「峯田さん、ご飯です」
夜。氷室と書かれた名札を付けたナースさんが夕食を持って来た。
「ありがとうございます…なんか、申し訳ない…」
「本当ですよ、人手も足りないのに外でテニスですか。自殺?」
鋭い目つきで睨んでくる氷室さんに圧倒される。真っ黒なポニーテールが余計俺を不安にさせる。
「……実はここだけの話、通報したの私の弟なんです。あなたと同じテニス部なんですけど、こんな天気でテニスしに行ったことはないですね。あ、この話人にしないでくださいね。看護師には守秘義務があるので」
相当な嫌味。呆れにも近いか。「では」と声をかけ氷室さんが出ていく。
もう頑張らなくていいんじゃないか。一瞬そんな考えが浮かぶ。こんなに頑張った結果がこれだ。
スマホの通知を確認する。北原からのLINEが入っていた。
[熱いから夜に練習することにしたよ 今から来れないかな]
どうだかな。もう少し頑張ってみようかな。
第十話エンディングテーマ
やめるなら今だ/MOROHA
Nice Ball‼︎ 第十一話
「峯田、おめー入院してたらしいな…」
「心配したんだよ!何で連絡くれなかったんだ!」
5日ほどの入院ののち、やっとの思いで退院した俺に罵声を浴びせる二人。
「わかったよわかったからあんまり大声出さないでくれ…頭に響くんだよ…」
そもそも(熱中症ではあるけれど)病み上がりを夜の9時に呼びつけてテニスさせるとは何事か。
---
「はぁ…はぁ……」
体力が持たない。今までこんなことなかった。
「峯田ぁ。ちょっと休憩するか?」
「ああ、頼むよ」
三人でコートの後ろの斜面へ座り込む。川の向かいの街の明かりが水面に反射して光っている。
「峯田くん、本当に大丈夫なの?」
「体はな……でももうやめ時かもしれないってずっと思ってんだ……倒れるまで頑張って倒れるなんて情けねぇよな」
「そんなことねぇっ!」
いきなりの大声に体が震えた。初めて会った時の小城のイメージが、ここにある。
「怪我したり体壊すのはそれだけ努力した証拠だと思ってる。してない俺らの方がやめた方がいい」
「……はは」
笑えてきた。ベッドの上でもう少しだけ頑張ろうと考えたことを思い出す。何やってるんだろう、先のことばかり考えて。馬鹿は馬鹿なりに、目先のことだけ見て、泣いたり笑ったりしよう。
「そこらへん走っていいか?」
「僕らも行くよ!」
俺らは走り出した。何がやめ時だ。何が引退だ。叫びたい気持ちを隠すつもりもなく、目の前の風景を破るように。
「うわぁぁぁぁ!」
「あああああああ!!」
Nice Ball‼︎ 第十二話
10月26日、練習試合。
俺は他の部員と一緒に米田業高校の校門を潜っていた。
米田商業高校は「ここら辺で一番テニスが強い高校は?」という質問に対し、皆が口を揃えて答える高校だ。名前は知らないが、小城が倒したがっている奴がいるのもここらしい。山崎先生がダメ元で電話してみたところ、すぐにOKが出たという。
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「これから緑第一高校と、米田商業高校の練習試合を始めます。相互に礼を交わします。気をつけ。礼。お願いします」
米田商業の選手が気怠そうに挨拶をする。形だけのスポーツマンシップを傍に置いて相手選手と対面した。
「お願いします」
「……しゃす」
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相手の眼鏡をかけた選手のサーブ。強烈な一撃だった。軽い返球でネット手前に落とす。
しかしそれを予知していたかのように彼はもうすぐそばにいた。
自分が想定していたよりボールが進んでしまったこと、彼が丁度そのあたりにいたことが仇となった。
——スマッシュ。それも、とびきり強い。
かつての試合のように、ボールは俺の左側を通り過ぎて行った。
---
「米田商業高校の皆さん、えー本日は半日間練習ありがとうございました。年内最後の試合も近づいて来ていますので、お互いに練習を重ねていきましょう」
解散の挨拶が終わる。久しぶりに負けた。
ただ…勝てそうではあった。
初めて北原と会った時の絶望とは違った。絶対に。
練習を重ねれば勝てるんじゃないか?証拠はない。小城にも北原にも負けた。あの時感じたアレは、今全く感じていない。
俺には……才能があったんじゃないか。
Nice Ball‼︎ 第十三話
「よう。久しぶりだな」
学校の帰り、久しぶりに立花先輩と藤本先輩に会った。藤本先輩はいつものこと、立花先輩まで怪訝そうな顔をしていた。
「どうしたんですか、そんな暗い顔して」
「……お前が好きって言ってた、石井健介って選手、居たろ」
この前海外に試合に行った選手。そして、テニスを始めた理由でもある選手。
「……亡くなったって。刺されて」
---
俺は一日学校を休んだ。何も考えられなかった。
全く彼には及ばないとはいえ、目標としていた選手だった。なぜ……
なぜ俺だけ、こんなことになってしまったのか。
なぜ俺だけ、いつも努力が報われないのか。
佳歩の声が聞きたくなった。
---
「もしもし」
声が聞こえた。
「…もしもーし?」
涙が出てきた。こんなに優しい声をしていただろうか。
「峯田くん?なんか言ってよー」
声を抑えられなかった。安心したのか、不安になったのか。
「……泣いてるの?」
「…うん」
「プリント届けに行くから、寄るよ!」
ありがとう、そう言って電話を切った。