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Nice ball‼︎ 第二話
「一成、お弁当持った?」
「持ったよ、母さん」
4月28日、ついにこの日が来た。
この大会は部内全員出場できるが「駆け出し選手」のみんなは参加しないらしい。つまり一人勝ちだ。
「今日は佳歩ちゃん来るんでしょ?かっこいいとこ見せてやりなさいよ」
母さんが冷やかす。なんでこのオバサンはこういうことをすぐ言うのだろう。
浮所佳歩。剣道部所属。容姿端麗かつ文武両道。そして俺の愛すべき彼女でもある。この前告白したばかりだ。
あんなハート__があるべき部位__の大きな彼女に俺が勝ち進む姿を見せられたら……
「早く行きなさい邪魔よ」
「すみません行ってきます」
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会場に着くと藤本部長と山崎先生、先輩数人がいた。
「遅えぞ、一成。15分前には到着しろっつったろ」
「ごめんなさい部長、ちょっと取り込んでて」
藤本部長、テニスは強いけどすごい怖いんだよな……
プログラムを配りながら山崎先生が言った。
「今日の試合は強者揃いだからな。他校には一年もいるけど、油断しないように」
どうやらかなり腕の良い奴が多い大会らしい。疲れちゃって困るな。
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「峯田くーん!遅くなっちゃった!」
佳歩は俺が試合に出るギリギリに来た。
「遅いよ。もう試合だから、見てな」
彼女に微笑みながらコートに出る。相手は北西高校の一年生、北原という生徒だった。
「よろしく」
「よろしくね」
愛想のあるいい顔だった。ただスポーツっていうのはどれだけ下衆なことできるかで勝敗が決まるんだ。
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北原からのサーブは遅かった。
俺は彼の左側へ返球。
ミス。甘いボールがラケットから放たれる。
彼の反応はサーブと違い早かった。
バックハンドで放たれた強打は俺の後ろへ消えていった。
ガッツポーズを掲げる彼を最後に記憶はない。
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「そんなに落ち込まなくって大丈夫だって……」
__「……うん」__
「次は勝てるよ、峯田くん」
蚊の鳴くような声で喚く俺はずっと佳歩に慰められていた。これじゃ子供だ。情けない。
「あの……緑第一の峯田くんだよね?」
話しかけてきたのは先程戦った男、北原だった。
「さっきはありがとう。俺、よく隣町の河川敷で連取してるんだけど、峯田くんもどうかな?」
__「え?」__
「電話番号、プログラムに書いとくから、気が向いたら電話してね。んじゃ」
そういうと北原は足早に去っていった。なんだったんだ。
「いいじゃんあいつ、練習してもらいなよ。彼の弱点見つかるかもよ?」
行ってみようかな、というのが試合後初めてちゃんと喋った言葉だった。