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Nice Ball‼︎ 第十話
「熱い……」
翌日俺は一人で練習しにきた。二人とも来ないという。
一人でできることなど限られている。壁打ちでもするか。
自分が打ったボールは鏡に映したように自分に返ってくる。ボールは太陽に曝され輝いている。俺は小城や北原の顔を思い出す。彼らには敵わない。同時に、この前の木戸という選手のことも思い出す。俺はあいつに勝った。ただ、俺が北原に、負けて猛練習したように、努力しているんじゃないか。負けが怖い。下剋上が怖い。ボールは返ってくる。俺は打つ。北原に小城に木戸に、いつ追い抜かされるか、それとも、もう——
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「……母さん?」
「もう…人に心配かけて!この馬鹿!!」
見知らぬ白い部屋には夕焼けが入り込んでいる。薬の匂いが充満している。ここどこだ?
「あんたねぇ、こんな季節に外で運動なんかしたら死んじゃうじゃない!」
「……俺どうなったの?」
「はぁ……呆れた。熱中症で救急車で運ばれたのよ。入院沙汰」
本当に実感が湧かない。さっきまで練習してたじゃないか俺は。
まだ状況が飲めない俺を置き去りにしたのか、待ってくれたのか。病室に佳歩が飛び込んできた。
「お母さんから聞いたから来たよ!峯田くん大丈夫なの?」
「この子ったら何でもないような顔して起きたのよ。死んじゃうかもしれなかったのに」
俺に聞いているのになぜ母さんが答えるのかわからないが、とりあえず安心した様子だった。
「よかった…私この後用事あって、すぐ帰らなきゃ……またお見舞いくるからね、頑張って!」
「おん…じゃあな…」
「さ、なんでもなさそうだから私も帰ろうかしら。これ、着替えとかスマホとか入ってるから。適当に暇つぶしときな」
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「峯田さん、ご飯です」
夜。氷室と書かれた名札を付けたナースさんが夕食を持って来た。
「ありがとうございます…なんか、申し訳ない…」
「本当ですよ、人手も足りないのに外でテニスですか。自殺?」
鋭い目つきで睨んでくる氷室さんに圧倒される。真っ黒なポニーテールが余計俺を不安にさせる。
「……実はここだけの話、通報したの私の弟なんです。あなたと同じテニス部なんですけど、こんな天気でテニスしに行ったことはないですね。あ、この話人にしないでくださいね。看護師には守秘義務があるので」
相当な嫌味。呆れにも近いか。「では」と声をかけ氷室さんが出ていく。
もう頑張らなくていいんじゃないか。一瞬そんな考えが浮かぶ。こんなに頑張った結果がこれだ。
スマホの通知を確認する。北原からのLINEが入っていた。
[熱いから夜に練習することにしたよ 今から来れないかな]
どうだかな。もう少し頑張ってみようかな。
第十話エンディングテーマ
やめるなら今だ/MOROHA