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#8 怖い顔、優しい声
「壱。今日からあなたの席はここだから。」
お母さんの少し固い声に驚く。
なんで急に怒ってるの?僕、何かしちゃったの?
お父さんも怖い顔をしている。
「壱くんの席は俺の隣だよ。覚えてね」
優しく言ってくれるお兄ちゃんもちょっと顔が強張っている。
やっぱり僕が何かしちゃったんだ。
これ以上怒らせないように大人しく言われた席に着く。
「⋯じゃあ食べようか。」
誰も喋らなくなった食卓でいち早く声を上げたのはお父さんだった。
お父さんはサラダを取り分けていく。
美味しそうだな。と羨ましげに見ていると僕の前にもサラダが置かれた。
思わずキョトンとお父さんを見たけど、目が合わなかった。
みんなが食べ始めたのをボンヤリと見る。
楽しいな。誰かと一緒に食卓を囲むなんて初めてだ。
色とりどりのごちそう。
それを前に思わず頬が緩む。
すると、それを見ていたお兄ちゃんが不思議そうな顔をした。
「壱くん?食べないの?」
「⋯食べて、いいの?」
つっかえつっかえに出た声を聞いて三人はギョッとしている。
僕、何か変なことを言ってしまったのだろうか?
この家に来てから間違えてばかりだ。
「とっても美味しいから壱くんにも食べてほしいな。」
穏やかに微笑むお兄ちゃん。
その声を聞いても僕の心は晴れなかった。
オロオロと迷いながら料理を口に運ぶ。
「⋯!おいしい」
思わずポロリと言葉が出る。
慌てて口を塞いで周りの様子を伺うと、みんなニコニコと幸せそうに笑っていた。
よかった。今度は怒ってないみたい。
「それはよかった。お母さんも作った甲斐があったわ。」
ころころと笑うお母さん。
よかった。機嫌が直ったみたい。
密かに胸を撫で下ろす。
しばらく食べ進めていたのだが、僕の箸の進みだけすごくゆっくりになっていった。
量が多いのだ。
でも、それを言い出せずにずっと食べ続けていた。
「壱くん?大丈夫?お腹いっぱいになったら残していいからね?」
心配そうなお兄ちゃんの声が聞こえたが、首を横に振って食べ続ける。
だって、せっかくお母さんの機嫌が良くなったのに、残しちゃったらまた怖い顔になる。
それに、お母さんが頑張って作ってくれたのに残しちゃ悪い。
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⋯ジジッ
『何!残してんのよぉ!そんなにぃ!私の出したご飯がぁ!食べたくないのぉ!?』
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ごめんなさい苦しい食べなきゃ気持ち悪いせっかく作ってくれたのに吐きそうごめんなさい⋯
ぐるぐると考えが周る。
三人とも「もういいよ」「また今度食べよう?」と声をかけてくれるが、食べ進めた。
食べて、食べて、食べて⋯
「うっ⋯」
短く呻いてその場に戻してしまった。
みんなが慌てだすのを見て、やっちゃったと、絶望した。
⋯ごめんなさい