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#5 幻覚
とうとう一週間が経ってしまった。
この一週間の内、何度も野木さん達は会いに来た。
けど、怖くなって話せなかった。
声を出そうにも喉がつっかえて言葉が出てこないのだ。
でも、ごめんなさいはちゃんと言わないといけないから、それだけ繰り返す。
けれど、僕がごめんなさいと言うたび三人は悲しそうな顔をする。
わからない。ちゃんと謝れてるはずなのに。
もう何が正解なのかわからないから、「わん」と言って隷属を示す。
でも、それを言うと三人は苦しそうな顔をする。
それが僕を不安にさせる。
嫌だ。怖いのは嫌だ。
きっと僕の存在がみんなを不幸にするんだ。
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ジジッ⋯
『あ゙ぁぁぁああ!もう!!あんたのせいよぉ!私が不幸なのはぁ!あんたが生まれたからよぉ!!』
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「かい、主、様?」
おかしい。なんでかな?
飼い主様がいる。
飼い主様が、僕に、お湯を、かけ⋯
「あ、あぁ、ア゙ァァァァアアアアッッ!!」
嫌だ、怖い、痛い、熱い、どうして、ここに、飼い主様が?
__「どうした!?」__
誰かが僕を揺さぶってる。
誰?ボヤけてよく見えない。
__「おいっ!」__
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ⋯
「壱くんっ!」
い、ち?僕の、名前。
ハッとして、ゆっくり目を開けてみると、警察官さんが、僕を揺さぶっていた。
声はお兄ちゃんの声だったはず、チラッと周りを見ると、お兄ちゃん達も来ていた。
「ぁ⋯。」
「⋯正気に戻ったか。大丈夫か?ほら、ぬいぐるみ。」
警察官さんが僕のそばにいたぬいぐるみを手渡す。
それをギュッとして落ち着く。
なんで僕はここに飼い主さんがいると思ったんだろう?
「壱くん、大丈夫?」
心配そうなお兄ちゃん。
その声になんだかひどく安心した。
なんでだろう?わからない。
「一応、お医者さん呼んできますね。」
「はい。よろしくお願いします。」
警察官さんは病室を出ていく。
四人になった病室に沈黙が流れる。
大体三人が話しかけてくれるから、こんなに静かになったのは初めてだ。
「壱くん。そのぬいぐるみ、可愛いね」
お兄ちゃんがぬいぐるみを見て話しかけてくれる。
欲しいのかな?僕はお兄ちゃんにぬいぐるみを手渡す。
するとお兄ちゃんは驚いた顔をして、微笑んだ。
「貸してくれるの?ありがとう。優しいね」
ぬいぐるみを受け取ったお兄ちゃんはクルッとぬいぐるみの向きを変えて、顔をこちらに向ける。
「こんにちは!俺はくま!壱くんと仲良くしたいなー!握手してくれる?」
お兄ちゃんはぬいぐるみを動かしてフワフワの手を僕の方へ向ける。
僕はおずおずとぬいぐるみの手を取るとお兄ちゃんの顔がパァッと輝かせる。
すっかりニコニコ上機嫌のお兄ちゃん。訳がわからない。
わからないけど、怖くはなかった。