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#3 フラッシュバック
病院のプレイルームに連れて行かれた僕は着くないなや急いで角に座り込む。
しばらく待っていると、三人も入ってきた。
男性二人に女性一人。
年齢的に親子なのだろう。
そんなことをぼんやり思っていると、息子さんであろう若い男性がこちらに近づく。
「君が|壱《いち》くん?俺の名前は|野木優希《のぎゆうき》。今日から君のお兄ちゃんだよ。」
ニコニコと朗らかに笑いながら僕に話しかけてくる優希さん。
壱くん?誰のこと?なんで僕に話しかけてくるの?
色々な疑問が脳内を駆け巡る。すると、今度は女性が近づいてきた。
「私は|野木優美《のぎゆうみ》です。今日からあなたのお母さんになります。よろしくね」
僕の前でしゃがみ込み、目線を合わせて喋る優美さん。
お、かあさん?よくわからない。
混乱してきた僕。最後にゆっくり男性が近づいてくる。
「俺は|野木昴希《のぎこうき》。今日から君のお父さんだ。よろしくな」
距離は他の二人より遠めに保ってくれている昴希さん。
おと、うさん?やっぱりよくわからない。
怖い。急に三人も来て怖い。わからない。何が言いたいのか。
沈黙が訪れる。
三人とも僕の方を見てる。
どういうこと?何か、何か言わなきゃいけないのか?
「ぁ、の。壱って、僕の、名前です、か?」
かなりどもってつっかえつっかえな声で疑問に思ったことを聞いてみる。
すると、本人たちは予想外のことを言われたかのように目を丸くする。
「知らなかった、の?」
優希さんの戸惑ったような声にコクリと頷く。
僕の頷きにますます信じられないような顔をする三人。
壱。僕の名前。名前あったんだ。嬉しい。
「壱。壱。ふへへ」
口に出してみると嬉しさが込み上げてきて思わず頬を緩める。
しばらくニコニコしていたのだが、三人がいることを思い出してハッとする。
恐る恐る様子を伺うと、三人とも何やら複雑そうな顔で微笑んでいた。
「あ、の。優希さん。」
「お兄ちゃんって呼んで?」
「おに、いちゃん。」
「どうしたの?」
「今日は、何をしに来たんです、か?」
緊張が溶けてきて声のつっかえが取れてきた。
少し体の強張りも取れた気がする。
「壱くんに会いにきたんだよ。」
「僕に?」
「うん。俺達は、《《家族になるんだ》》。」
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ジジッ⋯
『私達はぁ!家族だもの!家族の言う事ぉ!聞くのは当然でしょぉ!?』
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急に飼い主さんのヒステリックな声が脳裏をよぎった。
家族。《《家族は怖い》》。
突然、呼吸ができてないような気がしてくる。
息を吸っても吸っても、苦しい。
苦しい、怖い。
僕の呼吸が急に荒くなって、三人が驚く。
「ゼーッカハッヒューッケホッヒューヒュー」
喉をかきむしりながら床に倒れ込む僕にお兄ちゃんが近寄る。
そして、こちらに手を、伸ばして⋯
「ヒッ。やだ!!」
僕はその手を振り払う。
お兄ちゃんのひどく驚いた顔はもう僕には見えない。
怖い。苦しい。怖い。怖い。怖い!
「医者を呼んでください!」
昴希さんの切羽詰まった声を最後に、僕の意識は途切れた。