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#7 床
コンコンっとノックが聞こえた。
別に寝てはいなかったのだが、ボーッとしていたので少し驚く。
「壱、入るよ。」
そう声をかけられたあと、ドアが開いた。お父さんだ。
お父さんはゆっくりと様子を伺うように入る。
そして、僕の姿を目に映すと、どこかホッとした顔をした。
「ご飯ができたんだけど、一緒に食べる?」
一緒に⋯
僕はコクリと頷く。
お父さんは心底安堵した顔でついておいで、と言った。
リビングは僕の隣の部屋だ。
ドアを開けると、お兄ちゃんが大きなソファに寝そべっていた。
お父さんが眉をひそめる。
「優希。ソファで寝そべったら誰も座れなくなるといつも言っているだろ?」
「ん?んー」
なんだか眠そうなお兄ちゃんが新鮮で思わずマジマジと見てしまう。
すると、僕のほうを見てお兄ちゃんが、ハッとする。
慌てて居住まいを正し、座る?と僕を促す。
おずおずと僕がソファの隅に座ったところで、お母さんがキッチンから出てきた。
何やらいっぱいお皿を持っている。
お父さんが手伝いに行った。
「ほらほら。手を洗ってきて?」
「はーい。壱くん、一緒に行こっか?」
コクリと頷きトコトコとついて行く。
この家の洗面台はとても綺麗で可愛らしい色とりどりのタイルがいっぱい敷き詰められている。
お兄ちゃんが手を洗ったあと、僕も手を洗う。
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⋯ジジッ。
『汚ぇな!こっちに近づくなよゴミが!』
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洗う。洗う。洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗う洗うあら⋯。
「⋯壱くんっ!」
急にお兄ちゃんに手を掴まれた。
突然のことにとてもびっくりする。
お兄ちゃんはなんだか苦しそうな顔をしていた。
「⋯もう、手を洗うのおしまい!ご飯食べに行こ?ね?」
「⋯え、でも」
まだ洗い足りないちょっと赤くなった手を見て少し困惑する。
ぜんぜん洗えてない。まだ汚い気がする。
けど、お兄ちゃんに手を引かれてリビングへ向かう。
「あ、帰ってきた。何か揉めていたみたいだけど大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ、お母さん。さ、食べよ?」
なんだかちょっと納得がいっていなさそうなお母さん。
それをお兄ちゃんが交わしつつ、食卓につく。
食卓には色とりどりの料理が並んでいた。
綺麗だな。本当に全部食べられるのかな?
とてもいい匂いのする料理たちを前に思わずお腹が鳴る。
みんながそれを聞いてクスリと笑う。
なんだかちょっと恥ずかしくなる。
僕の席⋯前の家でもそうだったし、多分ここ。
「あ、そうだ。壱くんの席だけど⋯」
お兄ちゃんが言いかけて目を丸くする。
どうしたのだろう?と周りを見る。
お母さんとお父さんはちょっと怖い顔をしていた。
「壱くん?どうして床に座ってるの?」
お兄ちゃんの不思議そうな声に僕はキョトンとした。