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#6
お医者さんに診てもらって、なんともないことがわかった。
だから、前から決まっていたように僕は野木さんのところへ行くことになった。
僕はいつか野木さんたちに要らないと言われるだろう。だから、それまでそこに居よう。
「着いたよ。ここが今日から壱のお家だよ」
お父さんが車から僕を降ろしてくれながらそう言う。
その家はミルクティーのような優しい色の壁にチョコレートのような屋根がついていた。
これが、この人たちの家なんだ。
「どう?壱くん。気に入った?」
お兄ちゃんがウキウキしながら聞いてくる。
小さく頷くと、そっか、と優しく微笑んでくれた。
家の中はとても綺麗で、なんだか温かい気がした。
「壱くんの部屋、案内するね」
こっちだよ、とお兄ちゃんが手で招いてくれる。
テコテコと着いて行く。部屋は一階のリビングの隣にあった。
部屋の中は若葉色の壁。天井は空の模様で、まるで森の中にいるみたいだ。
ベッドは病院ぐらいフワフワそうで、勉強机には色とりどりのペンが並んでいる。
日の光をたっぷり含んだカーテンが、柔らかな春風にキラキラと揺れている。
ここが、僕の部屋⋯?
「どう?気に入った?」
お兄ちゃんに聞かれ、ハッと意識が戻った気がした。
コクコクと頷くと、お兄ちゃんは満足そうによかった、と言った。
素敵な部屋だ。僕は一体いつまでここに居れるのだろうか。
「今日は疲れたでしょ?晩御飯の時間まで部屋にいていいよ。何かあったらリビングに誰かいるはずだから。」
じゃあね、とお兄ちゃんは去っていってしまった。
部屋のドアが閉まり、僕は途方に暮れた。
とりあえず、部屋の本棚に警察官さんからもらった本を入れる。
他にも何冊か本があったので、ペラペラと見てみる。
僕は字がわからない。
しょうがっこう?にも通わせてもらえていないし、前の家に文字はなかった。
見渡す限り、ゴミ、虫、ホコリ。
文字はなかった。気がする。
けど、絵を見るとなんだか面白い。
これはどんな物語なんだろう?
字が読めたらいいのに。
そしたらきっと、誰かの役に立てる。
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ジジッ⋯
『チッ。こんなところで寝てばっかでゴミみてぇな奴だな。役立たずなんてどこもいらねぇな?』
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冷たい飼い主さんの声が聞こえた気がした。
思わずキョロキョロと周りを見るけど、どこにも誰もいない。
いないが、なんだか怖くなったのでぬいぐるみをしっかり抱き直した。