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警察官の報告書
別視点で物語を見てみましょう。ではどうぞ。
事の発端はとある自動車の事故だった。
加害者側が信号が赤にも関わらず、ゆっくり交差点に侵入し、ぶつかってしまったのだ。
幸いにも被害者側は軽症で済んだものの、一歩間違えば大きな事故になっていただろう。
近くの交番に勤務していた俺は事故現場に借り出された。
しかし、どうにも加害者達の言動がおかしい。
酒でも飲んでるのかと思って呼気を測るも反応がない。
とりあえず車の中を見せてもらったところ、白い粉の入った袋が出てきた。
あ、これもしかしなくても幸せになるお薬だ。
そう思った俺はすぐに本部に応援を呼ぶよう無線を飛ばした。
それから2日後、薬物が二人で使うには些か多く、販売目的も兼ねているかもしれないとしてかなり早めに家宅捜索が行われることとなった。
意外と近所だったこともあり、またしても借り出されてしまった俺は家へ向かう。
家は外からでも異臭がした。
こりゃ死体でも埋まってなけりゃいいけど、と同僚にボヤきながら入る。
中はごみ収集所よりもゴミで溢れかえっているひどい有様だった。
おまけにゴキブリが当然のようにその辺を歩き回っている。
あー。入りたくねー。
が、仕事は仕事だ。やるしかない。
周りの刑事たちも気乗りしていない様子で入っていく。
俺はとりあえず部屋を開ける。
そこは広さからいってリビングなのだろう。
正直、ゴミで埋まりすぎてリビングと呼ぶのがおこがましいが。
「うわ、ここの方がひでぇ」
とボヤいていると、髪の毛のようなものが目に入った。
生ゴミに隠れて見えないが人がいるらしい。
ホームレスか?家がないからってここに入るか?普通。
「あ?人?おいお前、こんなところで何して⋯」
近寄って、姿を見て、一瞬時が止まったような気がした。
小学校低学年ぐらいの小さな男の子。服は身につけておらず、首輪をはめられリードをつけられている。
手にはタバコを消したような火傷がいくつもあり、ところどころ膿んでいる。
そして、背中全域に広がった大きな火傷。
脇腹付近に切られたような古傷。
そして全身を余すことなく打撲痕が残されている。
この異様な光景に脳が理解を拒んだ。
「⋯わん」
ひどくかすれた小さな声が心を抉る。
ひどく虚ろな目は焦点があっておらず、ただただ空を眺めている。
子供に、なんてことするんだ?
無線で救急車の手配をした俺はリードを切ろうと小型のナイフを探りつつ、少年の方へ近寄る。
すると、少年の態度が変わった。
虚ろな目を見開いて、こちらを凝視している。
「わん」
さっきより少し大きめに発せられた声はまるでこちらに言い聞かせるように聞こえた。
ナイフナイフ⋯あ、あった。
取り出すと、少年は体を震わせ、逃げるように少しずつ離れる。
「⋯っ!わん⋯っわん⋯わ、わん!わん!わん!!わんっ!!」
半ばパニックになっているのか、ゼイゼイと呼吸を荒げつつ逃げようと体を反らせている。
ナイフが怖いことなんてわかりきっているが、リードの外し方なんて知らないので、さっと切ってさっとしまう。
少年は何が起きたかわからないといった様子でこちらを見ていた。
俺は自分の上着を脱いで少年に被せる。
震える体は上着に埋もれてしまうほど小さく、無性に泣きたい気持ちを堪えて少年を抱いて外へ出る。
「もう大丈夫だからな。」
身を固くした少年を安心させるように声をかけ、外に出た。
春、別れと出会いの季節。どうか、この少年にいい出会いを。
そう願わずにはいられなかった。
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警察病院にて、DNA鑑定をしてもらったところ、あの薬物所持の男女二人が親だということがわかった。
その他色々な検査をして、驚くほど多くの診断を下された少年は入院することとなった。
最初は複数人と一緒の病室にされたのだが、少年がひどく怖がるので個室にしてもらった。
俺は休憩の合間をぬってちょくちょく少年のところへ面会に行った。
少年はベッドにいる時間より、部屋の角で座ってることが多く、看護師さんを困らせていた。
そんな生活が二週間過ぎた頃、少年の母親の親戚が見つかった。
少年のおばにあたる人物で、大学生の息子がいるが、引き取れるとのことだ。
俺は急いでそのことを少年に報告しに行く。
少年の顔はひどく不安そうだった。