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最高のグループ_19話
静寂を切り裂くように、重厚な扉が轟音と共に押し開けられた。
廊下の先には、かつて自分たちが守りたかった場所の残滓と、
それを蹂躙する「Red Fang」の眷属たちが待ち構えていた。
しかし、彼らの視線は敵よりも先に一点へと注がれた。
そこに立っていたのは、人ならざる異形へと変貌しつつある影――かつての仲間であり、
夜雨にとって最も大切な親友であった「ラオ」の姿だった。
カイトがヴァンパイアに変貌した際に残した手紙の内容を、夜雨は今この瞬間も脳裏に刻んでいる。
『これから出会っていく過去の仲間は人間じゃない。敵だ。一つ間違えれば何かを失うぞ』
その警告は的中した。
目の前にいるラオは、半分ヴァンパイアへと変貌し、瞳には血走った獣の光が宿っていた。
夜雨「……っ、ラオ……なのか? 本当に、お前なのか……?」
夜雨の声は震えていた。
かつて共に過ごした日々、太陽を避けて月を見上げた夜の記憶が蘇る。
しかし、目の前のラオは自我と本能の間で激しく揺れ動いていた。
ヴァンパイアとしての渇きが、彼の理性を侵食していく。
ラオ「……う、あああぁっ!!」
突如、ラオの体が大きく跳ねた。
風魔法と雷撃を混在させた衝撃波が周囲の壁を粉砕する。
それは夜雨に対する攻撃だった。
しかし、その一撃を放つ直前、ラオは自らの手で己の腕を掴み、身悶えした。
ラオ「……やめろ……俺の手を……止めてくれ……!!」
本能が夜雨を襲おうとする一方で、彼の魂は必死にその衝動を拒絶していた。
その瞬間、ルアが一歩前へ出た。
彼女の指先には、異常なまでの魔力量――3058という数値を誇るウイルス魔法が凝縮されている。
ルア「……ログ、下がって! 私が行くわ」
黒い狼・ログは主人の意志を汲み取り、低く唸りながらも一歩退いた。
ルアは瞬時に指先に魔力を集中させ、特殊なウイルスへと変質させた。彼女の爪が鋭く光る。
那央「ルア、危険だ! 相手の魔力量は異常数値……直接接触すればお前も巻き込まれるぞ!」
那央の声には焦燥が含まれていた。
彼は指示役として最善を尽くそうとするが、
目の前の事態があまりにも切実であったため、言葉に熱が混じる。
柚子「……いいえ、今はルアの判断に従うべきよ。彼女なら、ラオを救える唯一の手段を持っているわ」
柚子は冷静ながらも、その瞳には強い決意を宿していた。
菜乃「私が盾になる! ラオの暴走による余波は全部私が防ぐ。ルア、やりなさい!」
菜乃が巨大な盾を展開し、凄まじい衝撃に耐えながら前進する道を作る。
彼女の体は吹き飛ばされそうになりながらも、決して倒れなかった。
悠斗「……姉貴を信じる! ラオを助けるんだよ!」
悠斗が叫び、自身の魔力を全開にして周囲の敵を排除していく。
ルアは迷わず動いた。
彼女はラオへと飛びかかり、その爪で彼の肩に一筋の傷を刻み込んだ。
瞬間、ウイルスが体内に浸透した。
ヴァンパイアとしての腐敗を引き起こす毒が、逆説的に彼を支配する「異形の本能」を焼き切っていく。
ラオ「……あ…………っ!!」
ラオの体が激しく痙攣し、周囲に凄まじい魔力が爆発した。
風と炎、水と雷が混ざり合い、廊下は混沌の渦へと飲み込まれる。
しかし、その混乱の中でルアの声だけが響いた。
ルア「……戻ってきて、ラオ! 私たちが、あなたを連れて帰るから!」
ウイルスとルアの魔力が共鳴し、ヴァンパイアへと変貌していた肉体が急速に再構成されていく。
同時に、カイトもまた自らの体と心を犠牲にし、膨大なデバフ魔法を展開した。
彼は自身の製作魔法を使い、ラオの暴走するエネルギーを中和するための「檻」を作り上げたのだ。
カイト「……はぁ、はぁ……っ! 頼むぞ、ルア……こいつを人間に戻してくれ!!」
カイトの体には、魔力消費による無数の切り傷が浮かび上がっていた。
彼の表情には苦痛と、仲間のために全てを捧げる覚悟が同居していた。
夜雨「……ラオ……!」
夜雨は駆け寄り、倒れ込んだ親友の肩を抱いた。
やがて、嵐のような魔力の奔流が収まった。
そこには、ヴァンパイアの異形を脱し、人間としての体を取り戻したラオが横たわっていた。
彼は意識を失いながらも、夜雨の手を弱々しく握り返していた。
莉音「……やった……! 間に合ったよ!」
莉音が駆け寄り、傷ついたルアとカイト、そしてラオへと癒やしの魔力を注ぎ込んだ。
彼女の瞳からは涙が溢れていたが、その口元には安堵の微笑みが浮かんでいた。
那央「……全員、無事だな」
那央は深く息を吐き、仲間たちの顔を見渡した。
菜乃「……これで、9人になったわね」
菜乃が盾を下ろし、誇らしげに言った。
かつての悲劇の記憶は消えない。
しかし、今この瞬間、彼らは再び一つになったのだ。
ルア「……みんな、ありがとう。約束した通り……私たちは『最高のグループ』よ」
ルアの声は震えていたが、その瞳には確かな光があった。
夜雨「……ラオ、もう二度と離さない。君を失うことなんて、絶対に許さないから」
夜雨の言葉に、意識を取り戻しつつあるラオが微かに微笑んだ。
しかし、彼らはまだ知らない。
この再会が、Red Fang(レッドファング)によるさらなる陰謀の始まりであることを。
そして、人間に戻った仲間たちの存在を察知した組織が、より苛烈な報復へと動き出すことを。
那央「……次へ行くぞ。俺たちの絆を見せてやる」
その言葉と共に、9人の歩みは再び深淵の先へと進んでいった。