公開中
9 オレより速いヤツ
盗賊のルパンに勝利し、女性にカバンを返したキリンジは、再び森の中へと入って行った。
ルパンから聞いた話によると、麒麟の国が存在した場所はこの森に囲まれているので、麒麟族の生き残りがいるとしたらここかもしれないとのこと。
決意に溢れたキリンジは真昼間から陽が落ちるまで必死に探した。
だが、見つかるのは現実では見ないような変な動物と植物のみ。
自慢の俊足も足場の悪い森の中ではあまり役に立たず。
しかし、新たな発見もあった。
探索途中、緑の陽だまりが射す空き地に立派な館が建っているのを発見した。
しかも、誰も住んでいるような形跡は見られない。
まるでお化け屋敷の舞台と見間違えるほどのボロボロ具合である。
一通り、探索を終えたキリンジは、この不自然すぎる森の館に入ってみようと思った。
子供の頃からお化け屋敷に入っても感情を見せないキリンジには、こういうことに恐怖や抵抗などは全くない。
石段を上るなり「入るぞ」と言って、館の扉を開けた。
扉の軋む音が不気味に鳴り響いたが、キリンジは全く気にせず、ズカズカと館に入っていく。
中の様子は随分酷かった。
天井にぶら下がるシャンデリアは当然のように点いていない。
床の市松模様は酷く黒ずんで、それが模様なのかさえも分からない。
それに、歩く度に床が抜けそうな音がする。
窓ガラスは怪しく曇っていた。
ボヤけた景色しか見えず、どれほどこの館が手入れされてないのかが嫌と言うほど分かる。
「昔は誰かが住んでたんだろうな」
キリンジが窓ガラスを指で擦る。
擦った指がホコリにまみれたので、無邪気にフッと息で飛ばした。
指からホコリが飛んで行き、キリンジが窓ガラスに背を向ける。
今度は二階へ行ってみようと、中央階段に向かった。
ギシ、ギシと床が鳴る。
それは一人の人間が確かに歩いている音__なのだが、キリンジはこの何気ない床鳴りから、自分に迫っている異常に感づいた。
「……何か、おかしいぞ」
耳を澄ませながら、試しに数歩歩いてみる。
|ギシ《ギシ》、|ギシ《ギシ》、|ギシ《ギシ》。
キリンジの床鳴りの裏で、誰かの床鳴りであろう音がかすかに響いた。
思わず呼吸が乱れる。
「まさか、誰かいるのか……?」
辺りを見回したが、誰もいない。
嫌な汗が拳を伝った。
「よく見えないが……《《いるな》》。オレと同じ__いや、下手すれば《《オレよりも速いヤツ》》が……」
キリンジが動きを止めた。
館内は無音に包まれる。
これで誰かが動かない限り、床鳴りが起きることはないだろう、
__と思われたが、ギシッ、床鳴り。
空気を裂く音がキリンジに迫った。
「来る……!」
こうなったら自分の反射神経だけが頼り。
キリンジは異常な速さで迫ってくる敵を、その身一つで受け止めようと構える。
__しかし、敵はナイフを持っていた。
それに気付いた時、すでに半径10cmまで接近されていた。
「……仕方なしってか」
危機一髪、キリンジは自分の手を犠牲にナイフの刃を掴み、敵の勢いを一気に殺すことに成功。
敵が深々と被っていたフードが衝撃ではだけ、ついにその正体が露わとなる。
迫って来た者のまさかの正体、それは上品そうな顔立ちの金髪の少女。
しかも、綺麗に湾曲した角が一本、頭から生えていた。