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5 生贄はお前ら
**「う、ウソだろ? あの人間!」**
群衆のゴブリンたちが息を呑み、大いに驚いた。
それもそのはず、獣が切り裂いたものはキリンジ__ではなく《《残像》》だった。
残像は崩れて、風に流され消えていく。
絶対に当たるはずだった引っ掻きを空振りしてしまった獣は着地態勢を崩し、盛大に着地を失敗。
ドテドテと地面を転がったが、負けまいと本能のままに立ち上がる。
標的の姿を探すため、獣が周りを見渡した。
しかし、キリンジの姿はどこにも見当たらない。
一体、どこへ行ったのだろうか。
**「ん? おい、アレ見ろ!!」**
一匹のゴブリンが獣の真上を指さす、そこにキリンジがいた。
しかも、上空で足を真っすぐ上に振り上げ、かかと落としの態勢を取っている。
また一人、また一人と群衆たちがキリンジの姿に気づいた瞬間__すでに決着は着いた。
ドゴォン、かかとは空気を一刀両断し、獣を地面に叩きつける。
獣は地面で何回かバウンドし、それが収まったころには舌を出して、白目を剝いていた。
獣の背中は、雨が降ったら水たまりができるぐらい凹んでいる。
「これで儀式は終わりか?」
キリンジがぐるっと回りながら、群衆のゴブリンたちを睨みつけた。
その時の視線は、まるで獣が獲物を睨みつけるような敵意の籠った鋭い視線。
そこらでぶっ倒れている獣よりもはるかに恐ろしい視線だ。
睨まれたゴブリンの中には顔が青ざめる者もいた。
「なあ、オレも儀式やっていいか? 即興で考えたヤツなんだが」
すると、キリンジは又、両手を地面に付ける。
ゴブリンたちも嫌な予感を察知し、本能のままに逃げようとした。
これは人間に限らない話で、ゴブリンにも逃走中に後ろを見る癖がある。
とある一匹のゴブリンが後ろを見た時の光景、それは、2mほどある鉄柵のてっぺんで狛犬のように座っているキリンジの姿だった。
この場にいたゴブリンたちの記憶は、これが最後である。
柵がガタッと揺れた音。
空気を裂き分ける音。
肉が軋む音。
骨が凹む音。
内臓が破裂する音。
体が空中へ飛び上がる音。
体が地面に転がる音。
キリンジの儀式は、わずか3秒ほどで終了した。
「もちろん、生贄はお前らだがな」
キリンジは血に塗れた革靴をそこら辺の葉っぱで拭くと、ゴブリンたちの間を悠々と歩き、明後日の方向へ歩いていった。