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12 スーハースーハー
二人は館の一階にいた。
何やらエノコが宝物を見せてくれるらしい。
その宝というのは、麒麟の国が滅ぼされる直前、亡き父に宝箱を渡され「これだけは持って逃げてくれ」と言われたものだそう。
キリンジ自身も、その宝にまつわる話を聞いて興味津々の様子であった。
「本当にいいのか? 凄いお宝なんだろ?」
「そういう目的で来てないって分かってるからね」
すると、エノコは階段の下端に潜んでいた豆粒のようなボタンを押す。
__ゴトン、床がハッチのように開いた。
覗いてみると、地下へと繋がる階段がそこにあった。
「へぇ」と感嘆を漏らすキリンジ。
「ボロい館かと思ったが、意外とハイテクなんだな」
「でしょ? 私も最近気づいたの」
エノコを先頭に、二人は明かりの無い地下階段を下りていく。地下階段はさっきの館内よりもさらに暗く、自分の足元が何とか認識できるレベル。
しかも、幅は人一人分しかない。あまりの閉塞感にキリンジは檻に入っていた頃を思い出してしまう。
「なあ、この階段、いつまで続くんだ?」
「あと10分は掛かるね」
「長すぎやしないか……」
そして、約10分経過。
二人はついに階段を下り終えると、隠し部屋と対面する。隠し部屋の正体、それは中央に薄汚い宝箱が置かれているだけのだだっ広い部屋だった。
もはやこの宝箱を隠すために作られたといっても過言ではない。
キリンジは思わず興奮してしまった。あの薄汚い宝箱の中に麒麟にまつわる宝物があると想像しただけなのに。
それもそのはず、たかが真偽不明の雑草を食べようとしたが為に命を落としたキリンジにとって、これはまさに待望の機会だ。
「早く開けてくれッ!」
急かされるようにエノコが「はいはい」と宝箱を開ける。キリンジは食らいつくように中を覗き込んだ。満月を間近で見たような優しい光がキリンジの顔を照らす。
宝箱の中には、黄金のネックレスやら、宝石がカラフルに埋め込まれたイヤリングやら、その他諸々が煩雑に、しかも大量に詰め込まれていた。
「……こ、これが、麒麟にまつわるお宝ッ!?」
「ほとんど、パパの形見だけどね……」
気まずそうな顔をするエノコとは裏腹に、キリンジは恍惚とした表情で宝物に目を奪われていたいつも下がりっきりなまぶたが、この時だけはバッチリ開いている。
「これ、全部使用済みか?」
「……使用済み? まあ、そうだと思うけど……」
いきなり出て来た異様な質問に動きが止まるエノコ。
しかし、キリンジは止まらない。
「この中に頭突っ込んでいいか?」
「……へ?」
「10秒だけでいいッ! 頼むッ!」
「……い、いいけど」
熱意の末に許可を貰ったキリンジは「失礼」と言い宝箱の中に頭を突っ込んだ。
装飾品の海に頭がずっぽり埋め、一気に深呼吸する。それを二回繰り返し、丁寧に頭を引き戻した。
まるで足りなかったものが満たされたような、何ともいえない顔を浮かべるキリンジ。
「これが、麒麟の匂い……」
流石の奇行に、エノコも若干冷ややかな目つきで見ている。
「……満足した?」
「満足というより、感動してる」
「それは……よかったね」
エノコが宝箱を閉じようとしたが、キリンジがそれを食い止める。
もう既にいつものぶっきらぼうな表情に戻っていた。
「思い出した。一つ、聞いていいか?」
「何かあったの?」
「……実はこの宝箱の奥底に、黒いスライムみたいなのがくっついてたんだが……それもお前の父親の形見か?」
エノコは頭を傾げた。
「黒い、スライム……?」
「お前も知らないのか……とりあえず見てみろ」
キリンジは装飾品を掘り起こし、エノコにその黒いスライムとやらを見せる。
宝箱の奥底に、ソレはヘドロみたいにへばりついていた。
拳くらいの大きさで、金ピカな装飾品と並んだら、すぐにその黒さに目が行く。
しかも、まるで呼吸しているみたいに動くので、見た目はかなり気持ち悪い。
「何これ……? 知らない……」
「やっぱりか」
すると、キリンジは黒いソレに右手を近づけ、デコピンの構えを取った。
このスライムがどういう性質なのかを実験するつもりだ。
「喰らえ」
目一杯引っ掛けていた指を離す。
__グジュッ、音速に近い速度で撃たれた指がスライムをバラバラに撒き散らした。
宝箱の中は黒いスライムに汚される。
「やったか……?」
これで終わりかと思われた、
__次の瞬間。
「うッ……!」
突如、キリンジに激痛が襲い掛かった。
顔に苦悶の表情を浮かばせ、苦痛に歯を食いしばっている。
それに目線の方向もどこかおかしい。
まるでキリンジが、キリンジでなくなり始めているようだ。
「……どうしたの? 大丈夫?」
全く状況が分からないエノコが心配そうに近づこうとしたが、キリンジが手のひらを向けて阻止する。
「近づくな……エノコ。今、オレの身体に異常が起きてる」
キリンジが頭を抑えたまま言う。
「頭が乗っ取られそうなんだ__というより、まるで今までの記憶が全て吸い取られて、そこに新しい記憶が置き換えられるような……多分、このスライムのせいだと思う」
そんなキリンジの指には、デコピンの際に付いたであろうスライムの破片がまとわりついていた。