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8 麒麟を救えるかも
「なあ、キリンジぃ……話したいことがある……」
「何だ?」
「オメエ、何でそんな速いんだ……? 一応、ボクちゃんはこの国で一番速い人間を名乗らしてもらってる。……なのに、何でボクちゃんよりも圧倒的に速い人間が、今日、いきなり現れたんだ……?」
確かにその通りである。
ひったくりで生計を立てているルパンからしたら、自分よりも速い正義感のある人間が突然現れるのは首を傾げざるを得なかった。
しかし、このままでは自分の境遇を伝えない限り、一生話が嚙み合わなさそうだと思ったキリンジは、自分の境遇について話し始めることを決意。
「ルパン……混乱するかもしれないが、実はオレ、この世界の人間じゃないんだ」
「はぁ……? どういうことだぁ……? この世界の人間じゃない……?」
「オレは別の世界で一回死んだんだ。そこから変な爺さんに色々言われて、ある使命を託されて、この世界にやってきた」
「ヘッ……信じらんねぇ。オメエみたいなヤツも死ぬ時あんだなぁ……。そんで、使命って……?」
その時、太陽がキリンジに重なった。
「麒麟を救いにきた」
「ほぇ~……麒麟って、アレだよなぁ? めちゃくちゃ速くて、角がある種族__」
「**知ってるのかッ!?**」
キリンジは目をぱちくりさせながら、ルパンの顔を覗きこむ。
「でもなぁ……クソ強い勇者御一行が、国ごとそいつらを滅ぼしたんだっけなぁ……」
またしても降りかかる現実に、キリンジが拳を握り締めた。
それを見かねたルパンが問いかける。
「オメエ……麒麟、好きなのかぁ?」
「もちろんだッ!」
「へぇ~……やっぱ面白れぇヤツだなぁ……! キリンジぃ……!」
ルパンがこれまでにないほど口角を上げた。
ルパンにとって、キリンジのような変人はこの世界には珍しい存在なのだろう。
そして、その変人性がルパンのツボにジャストミートしているみたいだ。
「キリンジぃ……オメエの事、一生忘れねぇぜ……!」
この上ないほど嬉しそうなルパン
キリンジも少しだけ口角を上げて、笑顔で返してやる。
「じゃあな、ルパン。二度とひったくりなんかするなよ」
「分かったぜぇ……! オメエ……二度目はガチで許さない性格だろうからなぁ……!」
「……あのなあ、こう見えても懐は広いぞ」
「ヘッ……やっぱぁ……キリンジってウソボケェだよなぁ……! 略さずに言えば、ウソつきのクソボケェ……!」
「おい、コラ」
血管を浮き上がらせ、瞬時にルパンの元へ詰め寄る。
「やっぱ懐狭ぇじゃねぇかぁ……!」
「ジョークにノったんだ」
「それにしては血管ピキピキだぜぇ……!」
「演技だ」
「ヘヘッ……最っ高だなぁ……! キリンジぃ……!」
「随分賑やかだな。お前ってヤツは」
「それがボクちゃんの取り柄だからなぁ……!」
そして、一通り笑い終えたルパンが突如、口角を下げた。
一気に場は真面目な空気に包まれる。
「なあ、キリンジぃ。ボクちゃん、これまでの人生で一つだけ気づいたことがあるんだよぉ……」
「……まさか、お前死ぬのか?」
「いやぁ、ピンピンしてるさぁ……。そんで、ボクちゃんが気づいたこと、言っちゃうぜぇ……」
ルパンはこれまでにないほど真剣な眼差しで言った。
その眼差しは、この男の人生を見透かせるぐらい、鮮明に透き通っている。
「この世界はなぁ、とにかく速ければ速いヤツほど、世界を変えることができるんだぜぇ……」
「……どういうことだ?」
「つーまーりー、オメエが麒麟を救えるかもしれねぇってことぉ……」
「……麒麟は滅んだんだろ?」
「いやぁ、分かんねぇぜぇ……。 《《この国では》》滅んだって伝わってるだけだからなぁ……!」
キリンジには耳あたりの良すぎる言葉だった。
だからこそ、ルパンを信じざるを得なかった。
今までの喪失感を一気に吹き飛ばしてくれた天啓のような言葉だったから。
「分かった。ありがとう、ルパン」
「ヘッ……じゃあなぁ……キリンジぃ。また会おうぜぇ……!」
二人の速さ自慢による戦いは、友情と新たな目標を生んだのだった。