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キャラクターが多すぎる
2026/05/30 キャラクターが多すぎる
あと3週間で地球に隕石が落ちてくる。少し前からそればっかりがニュースで流れていたのでほとんどの日本人はとっくに知っていることだろう。その隕石で日本は滅亡するという情報がネット上に飛び交っていて、テレビでは当然滅亡なんて言葉は使っていないけれど、どことなく漂う諦めの空気からどうしようもないことが手に取るようにわかった。避難するという選択肢もそこにはあったけれど、例えば近くの小学校の体育館に避難したところでどうなるんだろう、と気乗りはしなかった。隕石に耐えられるわけがない。
華が「ねえ、晩御飯は唐揚げにしよう。」と自身の好物を提案してきたので、私は頷いた。
あと2週間で地球に隕石が落ちてくる。テレビは段々と機能しなくなっていった。テレビ局のスタッフやアナウンサーも最期まで仕事なんてやっていられるわけがないので当たり前だった。ふと、今は何を流しているんだろうとリモコンを操作すると、テレビでよく見かけていたベテランのアナウンサーがカメラに向かって「もう生放送を続行できません。みなさん、どうか大切な人の元へ。」などと言ってお辞儀していた。そこから本当にNHKは生放送をやめて事前に設定しておいたであろう緊急警告画面をループ再生し始めた。
華が「録画していたあの映画を見よう。」と私のリモコンを取った。私は立ち上がってグラスをふたつ取ってきて、リビングの机の上に置きっぱなしの麦茶をどぼどぼと入れた。
あと1週間で地球に隕石が落ちてくる。
華が「空を見上げても隕石は見えなかった。いつ見えるようになるんだろう。」とベランダから戻ってきて首を傾げた。そう、よかったじゃない、と私は適当に答えながら災害への備えとして置いていた乾燥米に水を入れた。60分放置してようやく食べられるようになるらしい。あと60分。眺めているとお腹がくぅと音を鳴らした。まだ59分もあるのに。華が「ねー食料がない!買い物行くけど一緒に行く?」と冷蔵庫を開き声を上げた。どうせ59分あるんだから、と思って私は首を縦に振った。スーパーに店員はいないので、置いてある食料を好き勝手取れば良いらしい。それは果たして買い物なのだろうか、とか、食料はまだ残っているのだろうか、とか色々疑問が浮かんできたが、どれも口にはしなかった。ところで今は電気も水も止まっているのでその冷蔵庫はただのぬるい箱になっているはずなのだが、ということの方が言いたくて仕方なかったから。
あと72時間で地球に隕石が落ちてくる。
華が「見て!見て!空!」とベランダで騒いでいたので私が向かうと、空を指さしてはしゃいでいる華がいた。同じように見上げるとひとつ、やけに明るい星があった。「あれ、きっと隕石だよ。」と興奮した口調で言われ、私はなるほどと相槌を打った。本当に遠くにあるように感じるそれを数秒見つめて、太陽が眩しくなって逸らした。寒いよ、早く戻ろう。と家に入り呼びかけるも華は無視して、それから1時間ほどベランダで隕石を眺めていた。「全然動かないんだもん、隕石。」寒そうに指に息を吐きかけながら戻ってきた華を見てそりゃそうだろうと思う。72時間、違う、71時間だ。それだけ残っている。1時間程度で目に見えて大きくなっているようじゃ71時間も持たないだろう。暖かくなんてない見た目だけのこたつに促すと、華は潜り込むようにして下半身を滑り込ませた。それから「あったかくなーい。」と文句を垂れた。
あと48時間で地球に隕石が落ちてくる。
華はベランダに出ないで、赤いちゃんちゃんこを着てこたつにいた。レトルトのカレーを一口含み何度かの咀嚼で飲み込んでから、「テレビ……見たいな〜。」と心底退屈そうに呟いた。私は5枚切りの主食用パンの袋を破って1枚取り出し、カレーのルーちょっと頂戴と視線だけで伝えた。華は「えっいやだよ。」と首を横に振った。
ただそれだけの日だった。
あと24時間で地球に隕石が落ちてくる。
華はやはりベランダには出なくて、家のこたつに潜って40巻以上ある私の漫画を読んでいた。華の興味のありそうな漫画ではないのに、読むんだ。と意外だったけれど、見ていたらウズウズしてきたので、華が読み終わった1巻を流れるように受け取って再読した。今までで1番面白かったというほどでもないその漫画は、しかし心臓が痛い。数時間かけて全巻読み終え、華は伸びをしながら「キャラ数めっちゃ多いね。」と言った。「晩御飯、何にする。」と訊けば「お腹空いてない。」と返ってきた。私はパンを食べた。
あと2時間で地球に隕石が落ちてくる。
華が「私、寝よっかなー。」とあくびを噛み殺しながら言ったので、「寝てる間に死んでるんじゃない。」と目を合わせると、何がツボに入ったのか10秒ほどくっくと小さな笑い声を上げていた。
あと1時間で地球に隕石が落ちてくる。
結局寝ていない華に「ベランダ出なくていいの。」と訊ねた。華は「いいの!」と言った。
あと数分で地球に隕石が落ちてくる。何分かは知らない。
華が「ねえ、最後の最後で悪いんだけど、」と気まずそうな顔で上半身だけこたつから出して起き上がった。「私、やっぱり昨日のパンの、」
あとどれくらいで、隕石が落ちてくるんだろう?
と、私は初めて疑問を抱いた。