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目次
黄色の青春、さようなら
Novelverseってサイトで開催されている夏休み期間コンテスト応募作品です!!
主人公
雨宮希彩(あまみやきいろ):祓い屋のバイトをしている一人暮らしの高校生。黄色の髪と青い目が特徴的。キラキラネームな名前がコンプレックス。
〜祓い屋とは〜
国内の秩序と平穏を守るためにかつて設立された組織。社会の和を乱す迷信、怪異、呪い、超常現象などを視察・調査・祓うことを主な任務としている。しかし、その活動は客観的な証拠に乏しく、多くの人々からは信憑性のないものと見なされ「国の黒歴史」と批判されている。
「き・い・ろ・ちゃーん」
帰りのホームルームが終わると、クラスメートたちが甘ったるい声で私を呼んだ。私が嫌がることをわかっていて、わざと大きな声で。
私が眉をひそめると、彼女たちはニヤニヤと顔を見合わせて笑った。
そのうちの一人がからかうような目で私を見た。
「希彩ちゃん、廊下にノートが落ちてたよ」
そう言うと、ノートを強く押し付けてきた。その表紙に目を向けた瞬間、思わず息が詰まる。
『希彩』
私の名前が油性ペンで何度も何度も書かれていた。両親が、私を見ずに髪色だけを見て決めた、大嫌いな名前が。
「誰のかわかりにくかったからさぁ、みんなでいーっぱい名前書いてあげたよ」
「希彩、よかったじゃん」
「キラキラしてる名前だもんね!」
彼女たちはクスクスと笑った。その冷たい笑い声がやけに耳に残った。
私をおもちゃにしなければ、笑うことさえできないくせに。
「希彩ちゃんはみんなから親切にされていいな〜」
「希彩はもっとみんなに感謝しないと」
ノートを持つ指先に、力がこもっていく。
「あはは、ありがとう」
なんとか笑顔を作ってそう言い、教室を出た。
廊下を歩いていても、あの笑い声はいつまでも頭の中で響いていた。
黄色の青春、さようなら
下を向いて歩いているうちに、気づけば駅に着いていた。
学校帰りの高校生で賑わう駅を、秋の風が音もなく吹き抜けていく。今日は余計に冷たさが身に染みた。
気を紛らわせようと、帰りの電車の出発時刻を確かめる。時刻標を見ると少し時間があった。
ベンチに座ってぼんやりしていようか。それとも祓い屋のバイトのメールでも確認しようか。そんなことを考えていると、ふいにカバンに入れたままのノートが気になった。ノートを取り出して、改めて表紙を見た。黒いペンで落書きされた表紙からは、あの冷たい笑い声が思い出される。
……新しいものを買った方がいい。そう思った私はベンチから立ち上がり、改札脇のコンビニへ向かった。
コンビニの自動ドアが開くと、店内の暖かな空気が私の頬を撫でた。けれど、冷え切った体の芯はなかなか暖まらない。
明るい蛍光灯の光を浴びながら、重い足取りで文房具コーナーへ向かった。
本当なら、まだ買い替えなくてよかったんだけどな。
小さくため息をついたあと、辺りを見回した。厚みのあるものやキャラクターもの、表紙が鮮やかなもの。棚いっぱいに並ぶノートの値札だけを見て、一番安いノートを手に取った。
私はレジへ向かい、軽い財布から必要な分だけ小銭を取り出した。
店員さんは無造作に会計を済ませた。
「どうぞ」
私は何も言わずにノートを受け取った。新しいノートは少し冷たかった。
黄色の青春、さようなら
私はコンビニを出て新しいノートをカバンにしまうと、駅のベンチに座った。自然と足元に視線が落ちる。
学校帰りの高校生の笑い声や、電車の到着を知らせるアナウンス。にぎやかなはずの駅の音が、今日はどこか遠く聞こえる気がする。
そう思ったとき、不意に携帯が震えた。画面にはバイト先の祓い屋から届いたメールが表示されている。
【怪異視察依頼】
対象怪異:異世界行きの電車
危険度:不明
発生条件:誰もいない車両へ乗車
怪異の情報:乗車後しばらくすると一人の乗客が現れる。
来週まで視察を行い、報告書を提出すること。
私は届いたメールを無言で読んでいく。
「情報、少ないな……」
怪異の情報が少ないのは、いつものことだ。けれど、今回は違う。危険度さえ「不明」としか書かれていない。
もし、対策法がない怪異だったら?もし、その怪異の中でずっと、ずうっと生き続けることになったら?
そう考えただけで背中に冷たい何かが走った。
怪異に対策法がないことなんて珍しいことじゃない。有名な「八尺様」だって一度気に入られてしまったら、どこまでも追いかけてくる。
逃げ方も、倒し方も分からない時、私はどうすればいいんだろう。
「……ほんと、怖いなぁ」
いつもなら絶対に口にしない弱音が、思わず漏れた。私は危険度を測るためだけに送り込まれる人間。ただの捨て駒として使われる。
もし私が帰ってこなかったとしても、誰も悲しんではくれない。
きっと世間は言う。
__おかしなことをして死んでしまった人。
__変なことをした結果。
そう歪んだ視点で、私の気持ちなんて考えずに悪く言うのだろう。
「はぁ」
私の口からため息が漏れた。
どう世間に思われても、バイトを辞めるわけにはいかない。私のことを見てくれなかった両親が今さら私の生活費を払ってくれるなんて期待はしない。私に、頼れる人なんていない。
私は俯いていた顔を上げた。ここで辞めたら、待っているのは飢え死にだ。このバイトが危険だなんて、最初から分かっていた。
もう、覚悟はとっくにできている。
__稼がないと、自分で。
私は深く息をはいて乱れた気持ちを切り替えた。
黄色の青春、さようなら
今回の怪異は、誰もいない車両へ乗車することが条件だ。
学校帰りの高校生がいる今の電車では、誰もいない車両はないだろう。
……面倒だけど、一本遅らせるしかなさそうだ。
そう決めた私はホームへ入ってきた電車を見送った。
電車は大きな音を立てながら、ゆっくりとホームを離れていく。
窓の向こうでは、スカートを短く着こなした女子高生や、ワックスで髪を整えた男子高校生が楽しそうに笑っていた。
きっと今日の学校の話でもしているんだろう。少しだけ、羨ましく思ってしまった。
……どうせ私には関係ないや。
バイトがなかったとしても、どうせ誰とも話さずにあの電車に揺られて帰るだけだ。
私は電車が見えなくなると、深くベンチに座り直して、ぼんやりと線路を眺めた。
秋の風が、私の頬を優しく撫でる。
静かなホームで夕日に当たっているうちに、さっきまで感じていた怖さは少しだけましになっていた。
ホームのスピーカーから、まもなく電車が到着することを知らせるアナウンスが流れる。
楽しげな発車メロディーが静かなホームに響き、やがて電車がゆっくりと入ってきた。
到着した電車の車内を見渡す。
一本遅らせたおかげで、どの車両も数えるほどしか人がいない。
ホームから覗き込むように見ていると、一両だけ誰もいない車両が目に入った。
依頼書の条件を満たせる。
すると依頼書の別の一文が頭をよぎる。
『危険度:不明』
不明。その冷ややかで重い言葉が私の手を小さく震えさせた。
……いや。
私は小さく首を振る。迷いを振り払うように。
「よし、行こう」
そう小さく呟いて誰もいない車両へ足を踏み入れた。
窓際の席へ腰を下ろし、鞄を膝の上に置く。
車内には私しかいない。
……まだ。
静かな車内に、私の呼吸だけが小さく響く。
ほどなくして扉が閉まった。
ブザーが鳴り、車体が静かに動き始めた。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
規則正しい揺れが、静かな車内に伝わってくる。
私はふと、窓の外の景色に目を向けようとする。
その時だった。
__いた
黄色の青春、さようなら
心臓が大きく脈打った。
いつからそこにいたのか、分からない。さっきまで誰もいなかったはずの向かいの席に、私と同じぐらいの歳の女の子が座っている。
思わずゴクリと喉が鳴る。
怖い。
でも目を逸らすわけにはいかない。
この怪異を調べるために私は来たのだから。
私は瞬きもせずにその姿を見つめた。
緩く編まれた三つ編みは、海のように複雑な青色をしていた。雪のように白い肌が、さらにその青を際立たせている。
少し吊り気味の大きな瞳は、不思議なほど人を惹きつける力がある。怪異だと分かっているはずなのに、目を逸らせない。
しばらく見つめていると__
不意に彼女と目があった。
すると、彼女はニコッと笑った。
「おはよう!」
「お、おはよう」
反射的に返事をしてから、違和感に気づく。
おはよう?
もう夕方だったはずじゃ……?
私は窓の外に目を向ける。
そこにはさっきまで見えていた夕暮れの景色はなかった。
真上から昼間のような太陽の光が降り注いでいる。
……時間が、変わった?
それとも、ここは異世界なのか?
黙り込んで考える私を見て、彼女は申し訳なさそうに笑った。
「ああ、そっか。ごめんごめん、自己紹介がまだだったよ」
「私の名前は晴里あお。君の名前は?」
「……雨宮です」
今は下の名前を言う気にはなれず、苗字だけを答えた。
どうして彼女は、こんなにも普通に接してくるのだろう。
いつもなら感じるはずの不気味な気配が、彼女からはほとんど感じられなかった。
落ち着いていて理知的な雰囲気だけど、どこか浮いているような、そんな感じがする。
怪異なのに、不思議と怖くない。
……いや。
そう思った瞬間が一番危ない。いじめっ子たちだって、優しい言葉で私のことを傷つけてくるのだから。
そんな私の警戒など気にせず、彼女は不思議そうな顔で、首を傾げた。
「えっと、下の名前も教えてくれる?」
その言葉に、胸の奥がわずかに揺れた。
希彩。
そう答えるだけなのに、口にするのをためらってしまう。
少しだけ迷ってから、私は別の名前を口にした。
「……きさです」
咄嗟に、頭に浮かんだ名前を口にした。
「そっか!素敵な名前だね!」
彼女は嬉しそうに笑った。疑うことを知らないような笑顔を見て、少しだけ罪悪感を覚えた。
ごめんね。
本当の名前は、どうしても好きになれないから。私は心の中でそう呟いた。
黄色の青春、さようなら
気づけば、彼女は隣に座っていた。
移動した音も、立ち上がる気配も、一切なかった。
彼女は私に話しかけるタイミングを探すように、ちらちらとこちらを見ている。
そして数秒後、ついに耐えられなくなったのか満面の笑みで口を開いた。
「ねぇ、私の街で遊ばない?」
「……私の街?」
思わず聞き返した。
怪異に住む場所があるなんて聞いたことがない。
まして「遊びに来て」と誘われるなんて。
「うん。ゲーセンとか、海もすぐそこだよ」
彼女は笑顔で答えてくれた。
「まずはどこから回るか決めよっか」
ちょっと待って。どうしてもう行くことになっているんだろう。
「まずはプリクラからかなぁ。うんうん、プリクラなら駅からすぐだし」
「巨大パフェとかも作っちゃう!?フルーツもいっぱいあるし!」
楽しそうな笑顔で、次々と予定を口にしていく。
仕草も、表情も、言葉も。
こんな怪異がいるなんて、想像したこともなかった。
「それで、最後は海を見に行こう!!」
「あ、君って何時までに帰らなきゃいけない?」
突然の質問に、私は少しだけ考え込んだ。
「門限、無いの」
「無いの!?」
よほど驚いたのか目を丸くする。
「おうちの人、心配するんじゃ……?」
純粋に心配してくれたのは分かっている。けれど、その言葉は胸の奥に小さく刺さった。
心配される、という言葉が私には遠いものに感じる。
「私のこと、誰も気にしないから」
彼女の笑顔が少し曇った。その沈黙が、かえって居心地悪い。
気まずそうに視線を泳がせたあと、小さく「そっか……」と呟いた。
……謝られなくてよかった。
同情されるのは、あまり好きじゃないから。
車内に、電車が揺れる音だけが流れる。
さっきまであんなに賑やかだった空気が、少しだけ静かになった。
「じゃあさ」
彼女は何かを思いついたようにパッと顔を上げた。
「時間を気にしないで、たくさん遊べるね!」
「……え?」
「プリクラ撮って、パフェ作って、海見に行って!」
さっきまでの空気を吹き飛ばすように、指を折りながら予定を立てていく。
本当に嬉しそうに言った。
その言葉が、私には少しだけ眩しくて、思わず呆気に取られた。
怪異とは思えないほど、ごく普通の女子高生だった。
ほんの一瞬だけ。
なんだか私も、普通の女子高生になれた気がした。
「あっ!!そろそろ着くよ!!」
私は反射的に窓の外を見る。
見慣れた住宅街も、駅名標もない。
小さな駅のホームが見えてきた。
その向こうには、どこまでも青い海が太陽の光を反射してきらきらと輝いている。
海沿いには、小さな町が静かに広がっていた。
その景色を見た瞬間、なぜか胸の奥が少しだけ軽くなった。
ここなら、少しくらい肩の力を抜いてもいいのかもしれない。
この景色が怪異の作った幻だとしても、今だけは帰りたくないと思ってしまった。
黄色の青春、さようなら
電車がゆっくりと速度を落としていく。
ガタン、と小さく揺れたあと、ホームへ滑り込むように停車した。
車内にアナウンスは流れなかった。
ザザーン、ザザーン。
その代わりに聞こえてきたのは、遠くの波が静かに砂浜へ寄せる音だった。
電車の扉が静かに開いた。
潮風が車内へ流れ込み、私の髪をふわりと揺らした。
「着いたよ!さあ行こうか!」
あおは勢いよく立ち上がると、子どものように軽い足取りでホームへ飛び降りた。
置いていかれないように、私も慌てて電車を降りた。
ホームを出た瞬間、潮の香りがふわりと鼻をくすぐった。
顔を上げると、おしゃれな洋風の家や、どこか懐かしい駄菓子屋が並んでいた。
建物の隙間から覗く海は、太陽の光を受けてきらきらと輝いていた。
駅前の通りを歩いていると、八百屋や鮮魚店が目に入った。
「今日はサンマが安いよ!」
「とれたてのトマトがあるよ!」
そんな威勢のいい呼び込みの声が通りに響いている。今はスーパーでなんでも済ませられるけれど、こういう商店街も悪くないな。
商店街の軒先を眺めながら歩いていると、一角に古びたバス停があった。今ではあまり見かけない、レトロなデザインだ。
けれど、時刻表は真っ白で何も書かれていなかった。
彼女は気にするそぶりもなく、通り過ぎていく。
……まあ、古いから消えてしまっただけかもしれない。
少し引っかかったけれど、大したことではないのかもしれない。
そう思い直して、私は深く考えずにその背中を追った。
黄色の青春、さようなら
「ついたよ!」
少し歩くと、商店街の先にゲームセンターが見えた。
『ゲー セン ー はれぞら 』
看板は少し古くなっていて、ところどころ文字が消えかけている。
「あはは、ちょっと古くなってるけどちゃんと楽しいから安心して!」
彼女はそう言って、嬉しそうに入り口まで駆けていった。
自動ドアが開くと、軽快な音楽が聞こえてきた。
ピコピコというゲームの音や景品が落ちる音。誰かの楽しそうな笑い声。
そんな音を聞きながらプリクラへ向かう。
「私、写真あんまり好きじゃないんだけどなぁ」
思わず口から漏れた。黄色い髪が写るたび、少しだけ気が沈んでしまう。だから、写真にはあまりいい思い出がなかった。
そんな私を見てあおはイタズラっぽく笑った。
「ふっふっふ〜、これめっちゃ加工かかるから安心していいよ」
なぜか誇らしげに胸を張っている。
「ほんとすごいから。めっちゃ目おっきくなってもうもはや誰だかわかんなくなるの」
あおは一生懸命に目を大きく見開くジェスチャーをしている。
真剣な顔ですごくくだらないことを言っているのがかえって面白くて、私はつい笑ってしまった。
「あっ笑ったな〜!!」
口調は怒っているものの、顔は笑っている。
そんな彼女を見て、私は無意識に笑っていた。心から笑ったのはいつぶりだろう。
「あははっ。じゃ、いこっか」
私はあおに続いて、プリクラの機械の中へ入った。
『4』
「って、もう始まってる!?」
「あはは、これもう古いからね〜。ほら、ポーズポーズ!!」
急に言われてもポーズなんて分からない。
え、待って、どうすればいいの?
パシャッ!!
焦って変なピースになってしまった。下手くそなピースをしている私を見て、あおは大笑いしている。
「あっはは!!きさ、焦りすぎ!!」
「仕方ないでしょぉ。急だったんだから」
まったく、ちょっと笑いすぎではないのか。けれど、なぜか私もにやけてしまう。
「あはは、ごめんごめん。さっきの仕返しってことで。ほら、次!!」
「え、まだ撮るの?」
「うん、あと2枚!!」
『次はウインクしてね』
「「ウインク!?」」
『4』
「きさはできる!?ちなみに私は無理!!」
『2』
「ごめん、私もウインクできな……」
パシャッ!!
「……」
撮影が終わったあと、数秒の沈黙が流れた。
画面には、片目を閉じようとして変な顔になった私と、両目をぎゅっと閉じているあおが映っている。
顔を見合わせた次の瞬間、どちらからともなく吹き出した。
「あはははは!!」
狭いプリクラ機の中に明るい声が響く。
「私たち、すんごい顔してる!!」
「ほんと、変な顔なのに加工かかってて余計に変に見えるよ」
「加工、仕事しろー!!」
笑いすぎて目尻に涙がにじむ。あおも涙目になっていて、その顔を見るたびにまた笑いがこみ上げてくる。
「やばっ、次くるよ!!」
『最後はとびきり笑顔で!!』
「あははっ!!このままいくよ!!」
「うんっ」
『5』
「なんか、さっきより遅く感じるね」
『3』
「さっきは急すぎたからかも」
『1』
パシャッ!!
数秒後、プリクラの機械から写真が取り出し口から出てくる。
あおは出てき終わるのをジィっと見つめている。
「見て見て!!」
あおは嬉しそうに出てきた写真を取ると、私に見せてきた。
私は隣から覗き込む。
一枚目は慌てて変なピースをした私と、大笑いしているあお。
二枚目は二人とも変なウインクになっている。
そして、最後の一枚。
画面いっぱいに私たちの笑顔が映っていた。
「んふふ。きさ、めっちゃいい笑顔だね」
「ほんと、こんなふうに笑ったの初めてかも」
「えへへ、じゃあ大成功だね!!」
私はプリクラを見つめた。
写真の中の私は、今までで1番いい笑顔をしていた。
「えーっと、三枚だからどっちが一枚多くもらう?」
あおはプリクラを並べて、うーんと腕を組んだ。
「……私のは、なしでいいよ」
私はそう答えた。
「えっ、いいの?」
「あはは、どうせ見返さないから……」
そう言うと、あおはきょとんと目を丸くした。
「私が全部持ってていいの……?」
私は小さく頷く。
あおはきょとんとした顔でしばらく私を見つめると、にこっと笑った。
「じゃあ、二枚とも大事にするね!」
あおはそう言って笑うと、一枚を私へ差し出した。
「……二枚?」
「これはきさの!!」
「えっ」
……どうして?
「きさにも、持っててほしい!!」
そう言って笑うあおの顔は、なんだか少し照れていた。
私はプリクラを見つめた。
そこには、少し照れたように笑う私と、満面の笑顔のあおが写っている。
「よし、次は巨大パフェだね!!」
「本当に作るんだ……」
「もちろん!!」
あおは私の手を軽く引いて歩き出す。
私は苦笑しながら、その後ろ姿を追いかけた。
手の中のプリクラを、なくさないようにそっと制服のポケットへしまう。
写真に写る黄色い髪も、この瞬間だけは気にならなかった。
この写真だけは、大事にしたい。
そんなふうに思えたのは、生まれて初めてだった。