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黄色の青春、さようなら
気づけば、彼女は隣に座っていた。
移動した音も、立ち上がる気配も、一切なかった。
彼女は私に話しかけるタイミングを探すように、ちらちらとこちらを見ている。
そして数秒後、ついに耐えられなくなったのか満面の笑みで口を開いた。
「ねぇ、私の街で遊ばない?」
「……私の街?」
思わず聞き返した。
怪異に住む場所があるなんて聞いたことがない。
まして「遊びに来て」と誘われるなんて。
「うん。ゲーセンとか、海もすぐそこだよ」
彼女は笑顔で答えてくれた。
「まずはどこから回るか決めよっか」
ちょっと待って。どうしてもう行くことになっているんだろう。
「まずはプリクラからかなぁ。うんうん、プリクラなら駅からすぐだし」
「巨大パフェとかも作っちゃう!?フルーツもいっぱいあるし!」
楽しそうな笑顔で、次々と予定を口にしていく。
仕草も、表情も、言葉も。
こんな怪異がいるなんて、想像したこともなかった。
「それで、最後は海を見に行こう!!」
「あ、君って何時までに帰らなきゃいけない?」
突然の質問に、私は少しだけ考え込んだ。
「門限、無いの」
「無いの!?」
よほど驚いたのか目を丸くする。
「おうちの人、心配するんじゃ……?」
純粋に心配してくれたのは分かっている。けれど、その言葉は胸の奥に小さく刺さった。
心配される、という言葉が私には遠いものに感じる。
「私のこと、誰も気にしないから」
彼女の笑顔が少し曇った。その沈黙が、かえって居心地悪い。
気まずそうに視線を泳がせたあと、小さく「そっか……」と呟いた。
……謝られなくてよかった。
同情されるのは、あまり好きじゃないから。
車内に、電車が揺れる音だけが流れる。
さっきまであんなに賑やかだった空気が、少しだけ静かになった。
「じゃあさ」
彼女は何かを思いついたようにパッと顔を上げた。
「時間を気にしないで、たくさん遊べるね!」
「……え?」
「プリクラ撮って、パフェ作って、海見に行って!」
さっきまでの空気を吹き飛ばすように、指を折りながら予定を立てていく。
本当に嬉しそうに言った。
その言葉が、私には少しだけ眩しくて、思わず呆気に取られた。
怪異とは思えないほど、ごく普通の女子高生だった。
ほんの一瞬だけ。
なんだか私も、普通の女子高生になれた気がした。
「あっ!!そろそろ着くよ!!」
私は反射的に窓の外を見る。
見慣れた住宅街も、駅名標もない。
小さな駅のホームが見えてきた。
その向こうには、どこまでも青い海が太陽の光を反射してきらきらと輝いている。
海沿いには、小さな町が静かに広がっていた。
その景色を見た瞬間、なぜか胸の奥が少しだけ軽くなった。
ここなら、少しくらい肩の力を抜いてもいいのかもしれない。
この景色が怪異の作った幻だとしても、今だけは帰りたくないと思ってしまった。