公開中
黄色の青春、さようなら
心臓が大きく脈打った。
いつからそこにいたのか、分からない。さっきまで誰もいなかったはずの向かいの席に、私と同じぐらいの歳の女の子が座っている。
思わずゴクリと喉が鳴る。
怖い。
でも目を逸らすわけにはいかない。
この怪異を調べるために私は来たのだから。
私は瞬きもせずにその姿を見つめた。
緩く編まれた三つ編みは、海のように複雑な青色をしていた。雪のように白い肌が、さらにその青を際立たせている。
少し吊り気味の大きな瞳は、不思議なほど人を惹きつける力がある。怪異だと分かっているはずなのに、目を逸らせない。
しばらく見つめていると__
不意に彼女と目があった。
すると、彼女はニコッと笑った。
「おはよう!」
「お、おはよう」
反射的に返事をしてから、違和感に気づく。
おはよう?
もう夕方だったはずじゃ……?
私は窓の外に目を向ける。
そこにはさっきまで見えていた夕暮れの景色はなかった。
真上から昼間のような太陽の光が降り注いでいる。
……時間が、変わった?
それとも、ここは異世界なのか?
黙り込んで考える私を見て、彼女は申し訳なさそうに笑った。
「ああ、そっか。ごめんごめん、自己紹介がまだだったよ」
「私の名前は晴里あお。君の名前は?」
「……雨宮です」
今は下の名前を言う気にはなれず、苗字だけを答えた。
どうして彼女は、こんなにも普通に接してくるのだろう。
いつもなら感じるはずの不気味な気配が、彼女からはほとんど感じられなかった。
落ち着いていて理知的な雰囲気だけど、どこか浮いているような、そんな感じがする。
怪異なのに、不思議と怖くない。
……いや。
そう思った瞬間が一番危ない。いじめっ子たちだって、優しい言葉で私のことを傷つけてくるのだから。
そんな私の警戒など気にせず、彼女は不思議そうな顔で、首を傾げた。
「えっと、下の名前も教えてくれる?」
その言葉に、胸の奥がわずかに揺れた。
希彩。
そう答えるだけなのに、口にするのをためらってしまう。
少しだけ迷ってから、私は別の名前を口にした。
「……きさです」
咄嗟に、頭に浮かんだ名前を口にした。
「そっか!素敵な名前だね!」
彼女は嬉しそうに笑った。疑うことを知らないような笑顔を見て、少しだけ罪悪感を覚えた。
ごめんね。
本当の名前は、どうしても好きになれないから。私は心の中でそう呟いた。