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第2話「雪原を歩む」
私は思わず目を細める。目前に広がる雪景色は、涙が出るほど美しい。
外の光は、ひどく白くて、網膜を焼くように眩しかった。葉の落ちた木々が点々と広がっていて、雲の切れ間から冬の陽光が惜しみなく降り注いでいる。足元には真新しい雪原が広がり、太陽の光を反射してきらきらと輝いていた。自分が本当にあの狭い箱から出たのだと、ひりつくような実感とともに理解した。
「ナ、ナナヤさん、あなた、何者ですか……⁉︎」
私が泣きながら口をぱくぱくさせると、彼は優しく微笑んだ。
「私は鬼人ではありません。しかし、人間にも稀に、怪物が潜んでいるのです」
「怪物?」
「他の人間からすれば、私も彼らの言う『怪物』と大差ないということです。……こんな力を持って隠れ住んでいる身ですから、貴女が私と行くと仰らない限り、手の内を明かさないつもりでした」
ナナヤは私を抱き上げたまま、どこまでも広がる雪原を歩いた。裸足の私は、おろしてください、と言うわけにもいかなかった。外套の中に小さく包まるようにして、時が過ぎるのを大人しく待つことにする。彼が一歩踏み出す度に、こつ、こつ、と硬い足音が鳴った。それを聞きながら、私は遠ざかる日々を想う。
何か変だ。そう思って、私は通ってきた道を見た。足跡がない。
「雪を透過させてます?」
雪ではなく、硬い地面を踏んでいる音。
ナナヤは前を見据えたまま、静かに答える。
「その通りです」
私は感心した。これなら、脱獄がばれて探されたとしても、追跡が困難になる。
「いいですね、その異能」
ふと、十年前の私にもその力があれば、などという愚かな空想が胸をよぎった。もしあの夜、鬼狩りの包囲をすり抜けることができていれば、救えた同胞がいたかもしれない。理不尽な処刑を免れ、奪われずに済んだ命があったかもしれない。
けれど時間は川ではなく傷跡だ。一度刻まれたものは、たとえ魔法でも消せはしないだろう。今ここにあるもの。それは、鬼人の女王とは名ばかりで、多くの同胞を死なせてしまったという事実。どうしようもない後悔だけだ。
雪原の終わりで、ナナヤは不意に足を止めた。
「ここからは人が多くなります。ラヴ殿、少しだけ耳や頭を隠していただいても?」
彼の視線の先を見やり、私は息を呑んだ。
遠くに見える街の広場。そこには、溢れんばかりの色彩と、地響きのような賑わいがあった。鼻を突くのは、香ばしく焼かれた肉の匂い、甘い果実、煮込まれたスープの湯気。かつて私が知っていた人間界の市場は、兵が目を光らせ、民は怯え、配給を奪い合うような泥に塗れた場所だった。しかし、目の前の広場を行き交う人々は、仕立ての良い冬着をまとい、大声で笑いながら買い物を楽しんでいる。