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Chapter1
突然のことだった。
親友の雪村螢子の幼馴染が死んだ。
浦飯幽助。
私が彼と話したことがあるのは、数えるほどしかない。
螢子と一緒に帰っているときに顔を合わせたり。
廊下ですれ違ったときに、軽く挨拶をしたり。
それくらい。
だから。
私は、彼のことをよく知っているわけじゃない。
だけど。
螢子は違った。
幼い頃からずっと一緒だった、大切な幼馴染。
だから、幽助くんが死んだと聞いたとき。
螢子は、泣いた。
声を上げるわけでもなく。
ただ、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「……幽助が、死んだ」
何度も。
何度も、その言葉を繰り返していた。
私は、何も言えなかった。
どんな言葉をかけても、今の螢子には届かない気がしたから。
ただ隣に座って。
泣いている螢子の背中を、黙って撫でた。
聞いた話によれば。
彼は、道路に飛び出した子供を助けるために、身を投げ出したらしい。
子供を助けて。
自分は死んだ。
……あの幽助くんが。
「無茶苦茶な奴だったのにな」
「いつも喧嘩ばっかりしてたよな」
「どうせ何か考えてたんだろ」
周りからは、そんな言葉が聞こえてくる。
幽助くんは学校でも評判が良くなかった。
喧嘩っ早い。
乱暴。
問題児。
先生たちだって、きっと扱いに困っていた。
でも。
私は、そうは思わない。
確かに、彼は無茶苦茶だった。
だけど。
私が一度、廊下で幽助とぶつかったとき。
持っていたノートを全部落としてしまった私を見て、彼は、
「悪い。大丈夫か?」
そう言って、しゃがんで拾ってくれた。
そのときのことを、私は覚えている。
ぶっきらぼうだったけど。
ちゃんと私の顔を見ていた。
だから。
話したことがある程度の私でも、思う。
浦飯幽助は。
きっと、優しい人だった。
だから――
子供を助けたのだと思う。
「……蘭」
隣から、螢子の小さな声がした。
『…なぁに…?』
「幽助……戻ってくるかな」
私は、言葉に詰まった。
そんなこと、分からない。
死んだ人間は戻ってこない。
それが普通だ。
だから、私は何も言えなかった。
ただ。
『……分からない。けど…』
螢子の手を握る。
『私は、螢子のそばにいるよ』
それだけを伝えた。
その夜。
私は眠れなかった。
布団の中で何度も寝返りを打つ。
静かな部屋。
暗い天井。
……嫌いだ。
こういう夜は、嫌い。
静かすぎると。
独りになると。
余計なことを考えてしまう。
私は昔から、そうだった。
だから。
眠れないまま、ぼんやりと窓の外を見た。
月明かりに照らされた夜の街。
誰もいない。
……はずだった。
『――え?』
窓の向こう。
屋根の上に。
誰かが立っている。
黒い影。
人……?
でも。
おかしい。
足元が、見えない。
私は目を凝らした。
すると。
その影が、ゆっくりこちらを向いた。
――目が合った。
『……っ』
ぞくり、と背筋が冷える。
見てはいけないもの。
そう直感した。
なのに。
目を逸らせなかった。
よくよく見たら。
――浦飯幽助。死んだ彼だった。
私は息を止めた。
『……え?』
今。
確かに。
いた気がした。
けれど。
窓の外には、もう誰もいなかった。