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【第五話】100倍の癒しを求めて
「……なぁ雫。今日のお客さん、見た目のインパクトが過去最高に強烈なんだけど」
放課後の相談所。あおいは応接ソファの向こう側に座る大男を見て、引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
男の顔、腕、手のひら――全身の至る所に、ギョロギョロと動くリアルな『人間の目』が文字通り100個ほど敷き詰められている。妖怪『百目(ひゃくめ)』だった。
「ひぐっ……うう、あおいさん、雫さん……助けてくださいぃ……」
百目さんは100個の目から一斉に涙をボロボロと流しながら言った。
「どうしたのよ。100個の目で一斉に泣かれると、畳が痛むわ。」
ソファで『特大ずんだ大福』を食べていた雫が、冷淡に言い放つ。
「そんなこと言ったって、辛いものは辛いんですぅ! 現代の人間社会、デジタル化が進みすぎです!!」
百目さんは頭を抱えて絶叫した。
「デジタル化? 妖怪に関係あるか?」
あおいが首を傾げる。
「大ありですよ! 今の人間、何をするにもスマホかパソコンじゃないですか! 少しでも街へ行くとスマホだらけ……画面を見た瞬間、全身の100個の目が一斉にブルーライトを浴びて、眼精疲労が普通の間の『100倍』になるんです!!」
「100倍の疲れ目⋯確かに デジタルのダメージ直撃だな」
「そうなんです! 100個の目が全部ピントを合わせようとするから、一瞬で深刻なドライアイになるし、肩こりと頭痛も100倍! かと言って、目を閉じようとしても、背中や腕の目は勝手に周囲を警戒して開いちゃうし……うう、どうやったらこの100倍の眼精疲労を抑えられるんですかぁーー!!」
100個の目を充血させて泣き叫ぶ百目さん。現代の画面社会の洗礼を受け、心も体もボロボロだった。
雫はずんだ大福をゴクンと飲み込むと、おもむろに人差し指を立てて、またしてもどこか得意げに語り始めた。
「……ふん、相変わらず現代のテクノロジーに振り回されて情けないわね。でも安心しなさい。今の若い人間の間では、目の疲れや癒やしを求めて、ある『リラクゼーションブーム』が起きているのよ」
「……また始まったぞ、ボスのガチ解説」あおいが呆れる。
「いい? 街の裏路地にある隠れ家サロン。あそこは、心地よいヒーリング音楽が流れ、アロマの香りが漂う中で、人間の疲れた目をじんわり温めてほぐす『ドライヘッドスパ』の専門店よ。100個の目を一気に癒やす極上の方法が、あそこなら見つかるハズよ」
「なんでそういう専門店にそんな詳しいんだよ!!」
百目さんは
「100個の目を……癒やす……!?」と、全身の目をキラキラと輝かせ、雫の提案に飛びついたのだった。
数日後。雫の紹介で隠れ家サロンにやってきた百目さんは、アロマの香るベッドに横たわっていた。
オーナーはビックリしつつも丁寧にほぐしてくれた。
『う、うわああああああ……!!! じんわり温かい蒸気とラベンダーの癒やしが、100個の目の奥深くまで染み渡るぅぅぅ……!!!』
百目さんは全身の100個の目から、あまりの気持ちよさに、今度は喜びの涙をブワッと流した。100倍の眼精疲労が、100倍の極上ヘッドスパによってみるみるうちに解きほぐされていく。
ー数日後ー
「2人ともー!あの時は本当にありがとうございました!お礼としてこれを⋯!」
百目が机の上に置いたのは、そのサロンの最上級メニューである、1枚数万円はする『最高級ラグジュアリースパ・ペア無料招待チケット』だった。
「おおおっ……!!! これ、金券ショップに売れば今月の食費が、お釣りが出るレベルじゃん!! 百目さんマジで聖人かよ!!」
あおいが感動に震え、チケットを換金しようと手を伸ばした、その瞬間。
シュバッ!!!と風を切り、目にも留らぬスピードで、雫の手がチケットを2枚ともひったくった。
「……っ!!!」
雫はチケットを両手でしっかりと胸に抱え込み、いつも通りの無表情のまま、あおいをジロリと睨みつけた。
「決定。このチケットは私が使うわ」
「お、おい待てよ、ペアチケットだぞ!? 誰と行くんだよ⋯!?」
「明日、私の『右頭部』をほぐしてもらうのに1枚。明後日、私の『左頭部』をほぐしてもらうのに1枚。……2日連続で、私が贅沢の極みを尽くすわ」
「1人で2枚とも使う気かよぉ⋯ どんだけ頭ほぐしたいんだお前は!!!」
あおいの理不尽なバイト生活の絶叫が、今日も夕暮れの街に元気よく響き渡るのだった。
今回はリクエストの「百目」さんを登場させて頂きました!