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【第二話】現代社会と花子さん
あらすじ(細かく知りたい方は第一話を見ることをオススメします)
金欠高校生の宮下あおいは、半強制的に「雫」という妖怪がいとなむ妖怪相談所でバイトをすることになった。
1人目のお客さんは「トイレの花子さん」。
現代のトイレがハイテクすぎて困っているという⋯。
じゃあ、現代でしかできないやり方でやれってことですよね?」
不敵に笑うあおいに、雫は少し意外そうな目を向け、もぐもぐと口を動かすのを止めた。花子さんは涙を拭い、期待に満ちた目で身を乗り出す。
「現代でしか、できないやり方……?」
「そう。今の高校生は、トイレの個室に入ったら何をしてると思う? 大半がスマホを見てるんだよ。だったら、おどかす舞台はトイレの空間そのものじゃなくて、スマホの画面の中だ」
「スマホの⋯中?」
翌日の夕暮れ時。あおいが通う『私立 瑞穂ガ丘高校』の、新築ピカピカの女子トイレ。
一人の女子生徒が、誰もいない個室に入り、便座に座ってスマホの画面を眺めていた。LEDの白い光が室内を明るく照らし、怪しい雰囲気は微塵もない。
生徒がいつも通り、SNSのタイムラインをスクロールしていた、その時。
ぶるり、とスマホが震えた。
画面が突然暗転し、数秒のノイズのあと、勝手に「インカメラ(自撮りモード)」が起動する。
「えっ……? 何これ、バグ?」
生徒は首を傾げ、画面に映る自分の顔を見つめた。
だが、すぐに違和感に気づき、背筋が凍りつく。
画面に映る自分の、ちょうど真後ろ。
本来なら誰もいないはずの狭い個室の壁から、じっとこちらを見つめる、セーラー服を着たおかっぱ頭の少女の顔が……くっきりと映り込んでいたのだ。
『あ・そ・ぼ』
スマホのスピーカーから、背後から囁かれているような生々しい声が響く。
「ひ、いやああああああああああ!!!」
生徒はスマホを床に放り出し、悲鳴を上げて個室から飛び出していった。
誰もいなくなった個室で、床に落ちたスマホの画面から、花子さんが「にやぁ」と満足そうな笑みを浮かべて這い出てくる。
「――っていう都市伝説が、今日さっそく学校で大バズりしてたわ。おかげで俺、女子トイレの近くを通るだけでなんかドキドキするんだけど」
放課後、相変わらず埃っぽい『妖怪相談所』のソファで、あおいは深くため息をついた。
「いいじゃない。実績第一。これで花子さんの存在も保たれたわ」
雫は窓辺の席で、嬉しそうに何かを頬張っている。
「いや、実績はいいんですけど、俺の給料は……?」
あおいが手を差し出すと、雫は満足げに息を吐き、机の上に何かを置いた。
それは、あおいの高校の購買で、毎時間10個しか販売されない幻の「限定高級メロンパン」が3個だった。
「はい、今回の報酬。花子さんからのお礼。人間のお金は持ってないって言うから、代わりにこれをむしり取っておいてあげたわ」
「いや、現金じゃないんかい!!」
あおいのツッコミが室内に響き渡る。
「……何よ、不満? 私の取り分は2個、アンタは1個。有難く食べなさい」
雫はすでにメロンパンの袋を破り、目をキラキラさせながら大きな一口をかじっていた。その瞬間だけは、いつもの冷徹な無表情が消え、本当に幸せそうな少女の顔になる。
「(う、食べてる時の顔は可愛いお嬢さんだな⋯)って、騙されるか!俺の時給はどう考えてもこれじゃ足りねえだろ!」
「別に何も騙しちゃいないんだけど。ま、そういうことだから明日からも来なさいよ。」
雫はそう言って、窓の外の赤く染まった街を見つめた。
こうして、金欠高校生と食いしん坊な妖怪の、奇妙な相談所の日常が幕を開けたのだった。