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【第三話】やきもち焼きの扇風機
「あーーーーっ!! またエアコン止まった!! 誰だよリモコン踏んだの!」
放課後の妖怪相談所。顔を上げ、天井のエアコンを見上げて絶叫した。これで5回目だ。ピッ、と涼しい風が吹き始めたと思ったら、数分後にはピーッと虚しい音が鳴って勝手に運転が停止してしまう。
「うるさいわね、あおい。そんな事いったらもっと暑くなるでしょ」
ソファに座った雫は、新発売の『冷やし塩大福』をモグモグと頬張りながら、冷ややかな視線を送ってくる。
「うるさいのはこの部屋の室温だよ! 夏の西日が直撃して灼熱地獄だろ! ほら、雫の大福も暑さでドロドロに溶けかけてんじゃん!」
「……っ!?」
雫はハッと手元の大福を見た。確かに、部屋の熱気のせいで、お餅が心なしかへにゃりと形を崩している。大福の危機を察した雫の瞳に、ガチの焦りが浮かんだ。
「あおい、今すぐあの四角い機械(エアコン)に怪力を叩き込んで直しなさい」
「壊れるわ! 叩いて直るの昭和のテレビだけだろ!」
あおいはハァ、とため息をつきながら、壁のリモコンをもう一度操作した。
(いくらなんでも勝手に切れすぎる。これ、ただの機械の故障か……?)
あおいは相談所の狭い室内をじっと見回した。すると、部屋の隅にある古ぼけた棚の陰から、ジリジリとした黒くて煙のような『嫉妬』のオーラが立ち上っているのが見えた。オーラの出処は、相談所の備品としてずっと置かれていた、羽がむき出しのレトロな緑色の扇風機だった。あおいが近づいてじっと見つめると、扇風機のモーター部分に、うっすらと小さな目と、がたがた震える口が浮かび上がってきた。『う、ううう~~~……!』
「うわっ、扇風機が動いた!?⋯ お前も妖怪か⋯?」
『そーだよ! 扇風機ミミックになっちまったんだよぉ!みんなしてあの壁の四角くて白いヤツ(エアコン)ばっかり見てさぁ! あいつがピッと鳴るたびに、みんな「涼しい~」「最高~」って喜んで! 僕だって昔は、みんなに「あ~~~」って宇宙人ごっこの声を吹き込まれたり、首振り機能で大注目されて、かまってもらえてたのに! あいつばっかりずるい!! 』
「理由がやきもちなのかよ⋯!!」
あおいは思わず全力でツッコんだ。現代のハイテク家電に主役を奪われ、すっかりヘソを曲げてしまったレトロ家電の怪異。大福を一口でゴクンと飲み込んだ雫が、冷たい足取りで扇風機ミミックの前に歩み寄る。その背後からゴゴゴと怪力がみなぎっていた。
「めんどくさいわね。……あおい、この生ゴミ、粗大ゴミの日に出してきなさい。私の大福の平穏を乱す奴は許さないわ」
『ヒェッ!? あの女の子、目がガチの化け物だぁぁ!! 壊されるーーーっ!!』
ミミックは恐怖で羽をギチギチと鳴らし、あおいの制服のズボンの裾に必死にしがみついてきた。かまってほしいだけなのに、絶体絶命のピンチである。
「待て待て雫! 壊すな! こいつ、ただ寂しかっただけなんだよ!」
あおいはミミックを庇った。
「じゃ、ミミック。アンタは私達に依頼をしてきたってことでいい?」
「う、うん⋯解決してくれるならしてほしいよぉ⋯!!」
「どうしても人間にかまってもらいたいなら、私があんたにぴったりの、最高にチヤホヤされる極上の職場を紹介してあげるわ」
雫はそう言うと、どこか得意げに語り始めた。「いい? 今の若い人間の間では、あえて昭和の古いものをオシャレとして楽しむ『レトロブーム』という文化が流行っているのよ。特に、駅前の路地裏にある純喫茶『タイムスリップ』。あそこのマスターなら、あんたのその無骨なアイアンカバーと、深みのあるグリーンの羽を、最高のヴィンテージとして一等地でもてなしてくれるハズよ。若者たちが挙って『エモい!』って写真を撮りにくるわ」
「なんでお前が現代のトレンドにそんな詳しいんだよ!!」
毎日相談所で引きこもって大福を食べているだけのハズのボスが、まさかのガチ解説である。『え、えもい……!? ぼく、チヤホヤされるの……!?(照)』
ミミックは嬉しそうに羽をピクピクと震わせ、すぐに雫の提案に飛びついた。
「あいつ今じゃあの店の看板娘として大人気らしいぜ。よかったな、雫」
放課後、相談所のソファであおいはスマホを眺めて苦笑いした。
「ふん、当然よ。私の大福の平穏を守るためだもの」
雫は窓辺の席で、嬉しそうに何かを待っている。そこへ、喫茶店のマスターが相談所にやってきた。
「妖怪相談所の皆さん! 看板娘(扇風機)が本当にお世話になりました! これ、彼女からのお礼です!」マスターが机の上に置いたのは、その喫茶店の超大人気メニューである、総重量2キロの『特大バケツキャラメルプリン』だった。
「いや、またしても現金じゃないんかい!!!」
「決定。あおい、スプーンを持ってきなさい。今回の報酬は、私が全体の4分の3、あんたが残りを食べるわよ」
「取り分の比率がおかしいだろ! 俺の時給はプリンじゃなくて日本円で払えって言ってんだろ!」
巨大なプリンを前に目をキラキラと輝かせ、幸せそうに頬張る雫。あおいの理不尽なバイト生活の叫びが、今日も夕暮れの街に元気よく響き渡るのだった。
今回はリクエストの「扇風機ミミック」を登場させて頂きました!