公開中
【第四話】こちらのオオカミ男、本物です
「頼む! 頼むから俺に『本物の恐怖』ってやつを取り戻させてくれ!!」
相談所の床にガバッと両手をついて頭を下げているのは、絵に描いたような大男だった。
しかし、その頭部にはフサフサとした灰色の毛並みと尖った耳、そして口元からは鋭い牙が覗いている。まごうことなき「オオカミ男」だった。
「あの……オオカミ男さん? そもそも何に困ってるんですか?」
あおいは引き気味に尋ねる。
「コスプレだよ!!」
オオカミ男はガバッと顔を上げ、悔し涙をにじませた。
「満月の夜、夜道で人間を待ち伏せしたんだ! そしたら、通りがかった人間の女の子たちに『キャー! クオリティ高〜い! 一緒に写真撮ってくださーい!』ってスマホ向けられてよぉ! ポーズまで指定されたんだぞ! 俺は狼男だぞ!?」
「あー……現代のクオリティ高い衣装のせいで、本物がただの熱心なレイヤーだと思われたわけか」
あおいは同情混じりに納得した。
その横で、今日のおやつである特大のみたらし団子を口の周りにタレをつけながら食べていた雫が、冷淡に言い放つ。
「めんどくさいわね。……人間を襲えばいいだけの話でしょ。ガブッとやれば一発で本物だと理解するわ」
「いやそれだけはやめてくれよ!?!?」
あおいは立ち上がって全力で止めた。
「一気にこの小説のジャンルが変わるわ! 警察と自衛隊が来ちゃうだろ!!」※メタい
すると、オオカミ男はブンブンと激しく首を横に振った。
「そんなこたしねぇよ! 人間の肉とか食べたことないし! 普段はハンバーグ派だし! 俺はただ、人間が俺を見て『ヒィッ!』って怖がってる顔が見たいだけなんだよ! なあ、何か策はあるか!?」
「ハンバーグ派かよ⋯ 意外と現代に馴染んでるな⋯!?」
あおいはツッコミつつも、この無害(?)なオオカミ男をなんとかしてやりたいと考え始める。
「(襲うのはダメ、見た目だけじゃコスプレに見える……。じゃあ、コスプレイヤーには絶対不可能な『本物の証明』をすればいいのか……?)」
あおいが腕を組んでうなり声を上げていると、隣でみたらし団子の串をペロリと舐めた雫が、フッと不敵な笑みを浮かべた。
「……そうだ。人間が『コスプレ』だと安心している場所に、本物を放り込めばいいのよ」
「え?」
あおいが顔を上げると、雫は机の上に一枚の古びた割引券を置いた。
「この街にある『みどりヶ丘遊園地』。あこのお化け屋敷、最近リニューアルしたらしいわよ。人間が作ったハリボテと、バイトの人間がゾンビのメイクをして驚かせる、お粗末な場所だけどね」
雫は綺麗な瞳を怪しく光らせる。
「お化け屋敷の中なら、どんなに恐ろしい化け物がいても、人間は『よくできた演出だ』『プロのキャストだ』と油断する。でも……絶対に動かないはずの剥製が動き、四足歩行で壁を爆走し、本物の牙を剥いて天井から降ってきたらどうなるかしら?」
オオカミ男がゴクリと唾を飲み込む。
「そ、それって……」
「仕掛けだと思って油断しているからこそ、本物の怪異を突きつけられた時の恐怖は跳ね上がるわ。……行きなさい、オオカミ男。人間の『安全圏』をブチ壊してあげるのよ」
「うおおおお! それだ! お化け屋敷のスタッフのフリをして紛れ込めば、俺のガチの身体能力を合法的に見せつけられる! 雫先輩、ありがてぇ!!」
大喜びのオオカミ男を見て、あおいは大慌てで頭を抱えた。
「いや待て待て待て!! 営業中の遊園地で何してくれてんだ! お客さん全員腰抜かして救急車沙汰になったらどうすんだよ!?」
「フン、お化け屋敷が盛り上がって結構じゃない。……あ、オオカミ男。お礼はあんたが持ってるその美味そうな干し肉でいいわよ」
「えっ、あ、これ!? 喜んで差し上げます!!」
ー数日後ー
「ぎゃあああああああ!! 本物!! 本物が出たーーーっ!!」
みどりヶ丘遊園地のお化け屋敷から、腰を抜かした客が次々と悲鳴を上げて飛び出してくる。
それを見届けたオオカミ男は、物陰で「フハハハ! 見たか! これが本物の恐怖だ!」と大満足の遠吠え(小声)をあげていた。
壁を走り、天井から逆さまで降ってくる「超絶リアルな狼男のキャスト」は、SNSで『ガチで腰抜かすお化け屋敷』として一躍大バズり。
こうして今日も、新たに妖怪をバズらせたのだった。(?)