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第6話:終わらない縮小と、IQの獣
オハヨーゴザイマス
「なっ……!? 何を言って――」
僕のハッタリに、先頭の警察が思わず動きを止めて背後の仲間を振り返った。
その刹那、警察同士の間に、強烈な「最悪の疑心暗鬼」の火花が散る。
「おい、まさかお前、本当にサイコ警察……」
「違う! 泥棒のデタラメだ、惑わされるな!」
「あはは! 面白いこと言うじゃん、ハヤト!」
流星が歓喜に目を細めた瞬間を見逃さず、僕はまりかと流星の腕を掴んだ。
「走れっ!!」
警察が互いに身構えた一瞬の隙を突き、僕たちはその横をすり抜けて猛ダッシュで路地裏を駆け抜けた。
後ろからは「あひゃ……っ! 我、置いていかれちゃう……!」という古焦のカサカサとした足音が追ってくる。
警察に位置をチクる【犬】である彼女を連れて行くのは危険だが、今は振り切る余裕すらない。
『――ピピピッ。警告、ファースト・イベント【セーフゾーンの縮小】を終了します。これより外周エリアは完全に消滅デリートされました』
頭上からGMの無機質なアナウンスが響くと同時に、背後から迫っていたバリバリという電子音がピタリと止んだ。
なんとか、中央エリアへの生き残りを賭けた大移動は成功したのだ。
「ハァ、ハァ……たす、かった……?」
僕たちは、高層ビルに囲まれた薄暗い中央広場の片隅へと滑り込み、荒い息を吐いた。
だが、安心したのも束の間。
広場の中心には、すでに外周から炙り出されて集まってきた、数十人の泥棒プレイヤーたちがいた。
誰もが怯え、お互いに距離を取って睨み合っている。
「ふぅ……あー怖かった。ハヤトさん、機転を利かせてくれてありがとうございました」
水色のカーディガンを着たまりかが、胸に手を当ててホッと微笑む。
「おっ、あそこに座ってる奴、なんか雰囲気違ってイカすじゃん」
流星がオッドアイを輝かせ、広場の隅にある錆びついたコンテナを指差した。
そこに、一人の少女が足をぶらつかせて座っていた。
ボサボサの少し長めな黒髪。龍の柄が鮮やかに描かれた、黒と朱の外套を羽織っている。
鋭い牙が覗く大きな口に、まるで獲物を定める獣のような、凶暴な目つき。
下には黒いTシャツとジーンズを着込んでおり、一見すると無軌道な不良そのものだった。
彼女――上堂由希は、僕たちが近づいても怯える素振りすら見せず、ふんと鼻で笑った。
「あん? なんだお前ら。ゾロゾロと群れやがって」
「俺は上堂。よろしくな」
ぶっきらぼうに名乗る彼女の頭上には、確かに【基本陣営:泥棒】の文字。
特殊役職の欄は、僕と同じように空白――つまり【一般泥棒】と表示されていた。
「君も一般泥棒なのか……! よかった、僕はハヤト。こっちはまりか、流星、そして古焦だ。ここは警察だらけで危ない、一緒に――」
「参加する理由?んなもんなくてもいいだろ。暇人の趣味、それだけさ。」
由希は僕の言葉を遮り、コンテナから飛び降りると、鋭い目で僕たちの顔を一人ずつ観察した。
その瞬間、彼女の脳内では、恐ろしいほどの速度で計算が弾き出されていた。
(ほほう……。
水色カーディガンの女、怯えたフリをしとるが、重心の置き方がいつでも他人を前に押し出せる殺人鬼のそれやな。一般泥棒の皮を被った【落とし子】か?
隣の金髪は……ハハッ、他人の生死を見てワクワクしとるな。こいつは【愉快犯】。
後ろの黒ずくめ(古焦)は、手をもじもじさせながら端末を隠しとる。
位置情報を送る【スパイ(犬)】か)
IQが異常なほど高い由希は、僕たちのわずかな挙動や視線だけで、全員の隠された本性を見抜いていた。
(そして、この真ん中の冴えない男……こいつだけは本物の、ただの馬鹿正直な【一般泥棒】やねぇ。
クククッ……)
由希の口元が、外套の襟に隠れて怪しく釣り上がる。
(かかりましたねぇぇぇぇぇ………。ちょうど警察をハメるための『無知な囮』が欲しかったところや。彼にはここでたっぷり、俺のために働いてもらいましょうかねぇ……)
「ま、協力し合って生き残るってんなら、俺も異論はねえよ」
由希はわざとらしく不良っぽい笑みを浮かべ、僕の手を握った。
僕を、いつでも使い捨てられる最高の人形として見定めながら。
味方は一人もいない。
【愉快犯】、【落とし子】、【スパイ】に加え、今度は【IQの怪物(落とし子)】までがハヤトの周囲を取り囲む。
一般泥棒・ハヤトを巡る、地獄の第2フェーズが今、幕を開けた。
オハヨーゴザイマス
KanonLOVEです。
では。(二度寝するので)