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第5話:全方位の蜘蛛の巣と、一般人の足掻き
テ ス ト 勉 強 や だ な ぁ 。
「ハァ、ハァ、ハァ……っ!」
冷たい夜風を突き破りながら、ハヤトは必死に足を動かしていた。
狭く薄暗いビルの隙間。
すぐ後ろからは、電子の壁が空間ごと街を削り取っていく重低音が響いている。
迫り来るカウントダウンの恐怖。
「ハヤトさん、こっちです……! 警察の薄いルートを見つけました!」
前を走る水色のカーディガンの少女、まりかが、涙目を浮かべながら僕の手を強く引っ張る。
気づきもしなかった。まりかが僕を引っ張る位置が、常に「警察から最も射線が通りやすい盾(デコイ)」になるよう、冷酷に微調整されていることなど。
「あはは! 追いつめられるネズミの気分はどうだい? 最高にゾクゾクするねェ!」
すぐ横を並走する金髪オッドアイの愉快犯、流星が、場違いな歓声を上げて笑う。
他人の生死すらエンタメとして消費するその瞳が、不気味にギラギラと輝いていた。
そして、僕たちの最後尾を、カサカサとした奇妙な動きでついてくる長身の影――零古焦。
黒くボサボサの髪の隙間から赤く光る片目を覗かせ、常に手をもじもじと動かしながら、掠れたウィス
パーボイスで囁いている。
「あひゃひゃ……我、楽しい……楽しいよぉ……ふふっ……」
古焦の視線は、手元の端末の暗い画面へと落とされていた。
彼女の指先は、僕たち泥棒には決して見えない『警察陣営専用チャット』のキーボードを、もじもじと、しかし正確に叩き続けている。
【泥棒4人、中央のC-4路地に逃走中。我、今から誘導するね……。あひゃひゃ!】
古焦の真の役職は【犬】。
泥棒の安全をナビゲートする救世主の皮を被り、その実、警察へ獲物を売り渡す最悪の間諜(スパイ)だった。
「――いたぞ! 泥棒どもだ! 囲め!」突如、路地裏の先から、赤く光るバイザーを装着した【一般警察】が3人、壁を背にするようにして姿を現した。
「しまっ……! 先回りされてる!?」
僕は急ブレーキをかけ、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
後ろは消滅ゾーン、前は警察。
完全に退路を断たれた、絶体絶命の包囲網。
「きゃああっ! 警察! ハヤトさん、どうしよう……っ!」
まりかが僕の背中に隠れ、恐怖に声を震わせる。
「おっとォ、完全に詰んじゃったねェ。オレの人数調整計画、開始早々ピンチじゃん」
流星が頭の後ろで手を組み、わざとらしくため息をついた。
「あひゃ……っ、いっ! 包囲、されちゃったねぇ……ククッ……」
古焦はもじもじと手を動かしたまま、口元を歪めて笑っている。
誰も頼れない。
誰も信じられない。
能力を持たない【一般泥棒】の僕が、この化け物たちの真ん中で、今まさに警察にタッチされようとしていた。
――くそっ……何か、何か突破口は無いのか……!?
その時、僕の脳裏に、ゲーム開始時にGMが説明した全9種類の役職一覧がフラッシュバックした。
警察陣営の役職――【サイコ警察】【落とし子】【看守】。
泥棒陣営の役職――【スパイ】【怪盗】【犬】【不実な恋人】【偽預言者】。
目の前の一般警察たちは、一列に並んでじりじりと距離を詰めてくる。
だが、その内の一人の警察が、不自然に周囲をキョロキョロと見回し、他の警察から微妙に距離を取っていることに、僕は気づいた。
その警察の手元は、心なしかピクピクと攻撃的に震えているように見える。
――待てよ……。
警察の特殊役職には『味方の警察すらフリーズさせて手柄を独り占めしようとする』。
そんな奴がいるって言ってたな……。もし、あいつが――
「捕まえるぞ、泥棒!」先頭の警察が、僕に向かって手を伸ばす。
その瞬間、僕は一か八かの賭けに出るため、喉が張り裂けんばかりの声で叫んだ。
「おい! そこの左の警察! お前の後ろの警察、【サイコ警察】だぞ!! お前をハメて手柄を横取りしようとしてる!」
――根拠のない、完全なハッタリ。
だが、この「誰もが誰もを疑うデスゲーム」において、その一言は強烈な毒となって警察たちの足元を狂わせた。
「なっ……!? 何を言って――」先頭の警察が思わず動きを止め、背後の仲間に鋭い視線を向けた。
その刹那、警察同士の間に、泥棒側と同じ「最悪の疑心暗鬼」の火花が散る。
「あはは! 面白いこと言うじゃん、ハヤト!」
流星の目が、歓喜に細められた。
こんちゃぁ!
いや、時間的にこんばんはぁ!
KanonLOVEです!
えっと⋯⋯
「テ ス ト 勉 強 や だ」
では!
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