まずは「ミクテト」の説明から!「ミクテト」と言うのは、ボーカロイドで有名な初音ミクと、ウソから生まれた歌姫で有名な重音テトの二人のデュエット曲を指します(個人の解釈)。そんなミクテトを、「物語」にしたら面白いんじゃないかと思い、このシリーズを作りました。リクエスト箱を実地しているので、リクエストされたものからじゃんじゃん書いていこうと思います!
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目次
メルト・アイスクリーム
あなたは、連続殺人事件を知っているだろうか。同じ人物が、あるいは同じ組織が、次々と人を殺していく事件のことを連続殺人という。
今始まる物語は、ある連続殺人を物語っている。この事件は、100を超える人数の子供が、次々と殺され言った事件だ。刺されもしなければ、首を絞められてはいない。内側から殺されていったのだ。その子供たちの共通点は、「心が弱かった」ことだ。その名も、「メルト・アイスクリーム事件」。
(この物語はフィクションです 暴力表現が含まれています ご理解いただいたうえでご覧ください)(このお話は、一話ごとに登場人物が入れ替わります。(例:一話:みさき 二話:まこと 三話:みさき 四話:まこと…)気を付けてください。)
・主な登場人物
・時春 みさき(ときはる みさき):内気で気が弱い女の子。いじめが原因で引きこもりに。こーんと名乗るものからアイスを買ったうちの一人。
・狼崎 まこと(かみさき まこと):あることがきっかけで学校に行けなくなった。すてぃっくと名乗るものからアイスを買ったうちの一人。
・すてぃっく:メルト・アイスの店員。心が弱いものを中心にアイスを売っている。
・こーん:メルト・アイスの店員。心が弱いものを中心にアイスを売っている。
・ナレーター:物語を進める者。
第一話 甘いアイスはいかが?
私の名前はみさき。中学二年生だ。楽しい学校生活を送るはずだった。
今私の目の前に見えているのは、油性のマジックで書かれた文字。「バカ」「4ね」「消えろ」など。いくつもの暴言が書かれた机の上には、透き通るような美しい透明の花瓶に一つの白い花が生けられていた。「ねえあれ見て。今どんな気持ちなんだろww」「また来たの?来なくてもよかったのにww」そのほかにも、上履きの中に無数の画びょうが入っていたり、私が描いた絵や作文を目の前でびりびりに破いたりされた。私に向けられる冷たい視線。周りは見て見ぬふり。先生も見て見ぬふり。学校に私の居場所なんてなかった。
わたしへのいじめは日に日にエスカレートしていった。ついに私は、学校に行けなくなり、引きこもりになってしまった。中一の時よりも、内気な私の心は、だんだんと弱くなっていった。
そんなある日、私のスマホに一通のメールが届いた。中を見てみると、匿名の人物からのチラシみたいなものだった。
「疲れた心に、あま~い癒しを!甘いアイスはいかが?」ポップで大きい文字の横には、アイスを持った人が、満面の笑みで持ち上げているイラストだった。下へスクロールすると、「糖度最高点!こーんさんのアイス!みんな中毒になって、精神が失われるぐらいおいしいアイスだよ!初回限定で、アイスを一本無料であげちゃうよ!お問い合わせはこちらから!」私は迷いなくそのリンクを押した。
リンクの先には、色とりどりのおいしそうなアイスが表示されていた。どれにしようかと下へスクロールしていると、私のイチオシ!と、少し大きめの矢印で指されていたアイスがあった。「チェリーソフトクリーム」という名前だった。少し赤みがかったソフトクリームに、サクランボが乗せられた、いかにもおいしそうなソフトクリームだった。初回限定で一本無料だからと思い、私はそのソフトクリームを購入した。
すると、「ありがとうございました!またのご利用をお待ちしていまーす!」と、画面からあのアイスを持っていた女の人が飛び出してきた。びっくりして声が出せないでいると、「じゃあ、お求めの品、こちらに置いておきますね!それじゃあ、またのお越しを!」そういうと、スマホに向かってダイブして消えた。ポカーンとしていると、ケースに入ったソフトクリームが、キンキンに冷えた状態で机に置かれていることに気が付いた。「ゆめじゃ、ない?」いろいろと謎に包まれていたが、いったん気にしないことにした。
私は、その包みをはがし、さっそくソフトクリームを食べてみることにした。「んっ…!」冷たすぎて、少しキーンと来たが、味が申し分ない!とにかくおいしすぎて、おいしいとしか言えない!私は、そのアイスをむさぼるようにして平らげた。
ソフトクリームを食べていた時、私は少しだけあのつらい日々を忘れることができた。そう思っていると、なんだか力が湧いてきた!2か月ぶりに部屋の外に出ると、お母さんが泣きながら私に抱き着いた。「もう!どれだけ心配したと思ってるの?よかった、出てきてくれて…。」どうやら心配をかけていたらしい。私が部屋へ引きこもった後、お母さんが先生から学校のことを聞くと、不自然なほど話を逸らすので、こっそり教室をのぞかせてもらうことにした(ちゃんと校長先生に許可をとって)。すると、クラスの女子がみさきの話をするではないか。すぐに問い詰めると、娘がいじめを受けていたこと、それを見て見ぬふりをしたことが分かった。何とか解決したが、解決しても、全然部屋から出てきてくれなかったみたいだった。そうだったけ?と思いながら、とりあえず誤った。心配をかけたみたいだったから。
第一話END
第二話 いらない子
僕の名前はまこと。中学一年生だ。小学生から中学生へ上がるときの不安もあったが、みんな仲良くしてくれる。学校生活は楽しかったけど、地獄だったのは家だった。
あいまいな記憶だけれど、僕が幼稚園児ごろのころは、お母さんもお父さんも優しくしてくれた。幸せだったのに、川へ遊びに出かけたとき、事故が起きた。突然の大雨により、川の水が増水して、川の間にある足場に、僕が取り残されたのだ。お母さんは、僕を助けて自分が犠牲になった。家が地獄になったのはそこからだ。
はじめは、僕も悔しかった。あの時、僕がもっと注意していれば取り残されることもなかったのに。お父さんも、お母さんが僕をかばって亡くなった時は、酒に入り浸って、家の中は、あっと今に汚くなった。
お父さんは、夜な夜などこかへ出かけては、たまに癇癪を起して暴力をふるったりして、僕は限界だった。お父さんのことで、僕は楽しかった学校生活を捨てて、家に筆記こもるようになってしまった。このほうが楽だと、僕の心と体が錯覚してしまったのだ。それぐらい、僕は限界だった。酒が入った父は一番最悪だった。「お前さえいなければ千佳子は死ななかったはずなのに!」僕は、ストレスが溜まっていった。
「僕はいらない子なんだ」そう言って、僕は、僕自身の精神がすり減っていくのを感じた。そんな時だった。僕のスマホに、一通のメールが届いた。
僕は、学校に行かなくなってからのスマホには、「大丈夫?」「無理しないでね?」「なんでも相談に乗るよ。」と、友達からの心配のメールが届いた。「ううん。大丈夫。心配してくれてありがとう。」いつもいつも同じ回答をしていると、いつの日か、だれからもメールをもらわなくなった。
僕は、自分が少し喜んでいることに気が付いた。一応、少し気になっていたので、内容だけでも見てみることにした。
僕は、何かの贈り物が届くと、まず誰からなのかが気になる。ページを開き、差出人を見ると、匿名の人物からだった。ますます気になってきた。そして、ロードが終わった後、一枚のチラシが表示された。
「気分がすっきりしない。リフレッシュしたい。疲れた。そんなあなた!あま~いアイスで、一息いかが?」大きく書かれたキャッチコピーに、どんな内容なんだろうと、僕の好奇心がゆらいだ。下へスクロールすると、Q&Aコーナーのように、ソフトクリームを持った女の人が、「一口食べた瞬間、どんな味なんですか?」と、問いかけていた。すると、「少し刺激的な、忘れられない味です!」と、アイスキャンディーを持った女の人が、満面の笑みで答えていた。その下にも、もう一つだけ質問があった。「そのアイスには、愛がこもってるんですか?」と、いたずらっぽく笑う女の人に、「愛が足りない?遭遇したら、口に入れるよ!」さらにスクロールすると、甘くておいしいすてぃっくさんのアイスをお求めのあなた!詳細はこちらへどうぞ!と、リンクが表示されていた。僕は、恐る恐るリンクをクリックした。リンクの先には、色とりどりのおいしそうなアイスが表示されていた。どれにしようかと下へスクロールしていると、私のイチオシ!と、少し大きめの矢印で指されていたアイスがあった。「パチパチ!パニックアイスキャンデー!」という名前だった。少し青い見た目に、中には白い飴を砕いたようなものが入っている、いかにもおいしそうなアイスキャンデーだった。とてもおいしそうだったが、お小遣いは自分の食糧費で使っているので、あきらめようとしたとき、画面一番下に、「初回限定で、どんなアイスでも、一本無料!」と記入されていた。僕は、購入ボタンを押した。
すると、「ありがとうございました!またのご利用をお待ちしていまーす!」と、画面からアイスキャンデーを持っていた女の人が飛び出してきた。びっくりして声が出せないでいると、「じゃあ、お求めの品、こちらに置いておきますね!それじゃあ、またのお越しを!」そういうと、スマホに向かってダイブして消えた。ポカーンとしていると、ケースに入ったアイスキャンデーが、キンキンに冷えた状態で机に置かれていることに気が付いた。「マジか…」いろいろと謎に包まれていたが、僕は目の前にあるアイスに気を取られて、気にするよりも先に体が動いた。
僕は、その包みをはがし、さっそくアイスキャンデーを食べてみることにした。「ん。普通にうまい!」多分幼稚園児だった時も一回は食べたことあるだろうが、最近はこういうちゃんとした甘いものを食べたことがなかった。僕は、アイスの中に入っていた飴の、パチパチとはじける感覚に魅了され、気づけば平らげていた。
僕は、久しぶりに幸福感にい満たされた気がした。僕は、行っていなかった学校へ、もう一度行ってみようという勇気がわいてきた。
第二話END
第三話 謎の依存
私は、あのソフトクリームのおかげか、自分に自信がついてきた。久しぶりの学校でも、数日はいじめられたが、元気にふるまっていると、友達も徐々に増えて、いじめられることもなくなった。
私は、内気で弱り切ってしまった心が徐々に回復していくのが分かった。私は、あのアイスとチラシをくれた女の人に感謝した。
そんな幸せな日を送っていたある日だ。「ただいまー」と、家に帰り、自分の部屋についた時、異変が起きたのだ。
いじめられていた過去の記憶が一気にフラッシュバックしてきたのだ。
それだけじゃない。なぜか死にたくなってしまうのだ。私は必死にそのおかしな感情を抑え、頭を抱えてしまった。それだけでは終わらなかった。一気に体がだるくなり、一歩も動けなくなった。さらに、謎の激痛と腹痛に襲われた。耐えられなくなり、涙が出てきてしまった。そんな時、また匿名の差出人からメールが届いた。私は藁にでもすがる思いで握っていたスマホを、必死に動かして内容を見た。
それは、説明書のようなものだった。「もしこーんさんのアイスで異変が起きた場合、もう一度メニューを開き、商品を選んで買ってね♪さすがにかわいそうだから、私欲で買うこと以外、つまり、緊急時の時だけ、特別に、一本無料にしちゃうよ♪」というものだった。私はスマホをいじり、前と同じようにアイスを買った。
今度は、女の人は飛び出さず、画面からひょっこり出てはアイスを手渡しし、画面の奥に消えた。
私は、そのソフトクリームを完食すると、また元気が湧いてきた。あんなに痛かった頭も、おなかも、元通りになっていた。
みさきは、それからというもの、頭が痛くなる日を推測しては、自分のお金でアイスを買った。簡単に言って、そう、依存してしまったのだ。
みさきは、アイスのことになると、気が気じゃなかった。あんな苦しみはもうごめんだと言っていた。アイスは500円と、少し値があったが、痛みを我慢するのと比べたら何ともなかった。
そんなこんなでアイスを買ったりしていると、とうとう財布の底が尽きてしまった。不安だったけれど、今日食べたばっかりだったので、次は二カ月後くらいに食べればいいだろうと軽く思っていた。
第三話 END
おまけ スタッフの裏側で~その1~
こーん「おーい。それこっちに運んでくれる―?あーそれはあっちにおねがーい。」
今日もメルト・アイスは大忙し。こーんさんが指示を出すところに、あっちへこっちへと、荷物を運ぶスタッフの姿が見える。
すてぃっく「こーんさ~ん。とりあえず、小峰ちゃんと小林君のぶんのアイスができたよ~。あと、みさきちゃんのも!」
こーん「了解。とりあえずアレと接続して。あ!”アレ”入れた?”アレ”。」
すてぃっく「もちろん入れたよ!”アレ”でしょ?」
こーん「それがないと私たちのアイスクリームを売る意味がなくなるからね。そっちはちゃんとお願いね。」
すてぃっく「りょーかいでーす!」
指示出しはこーんさんの仕事のようですが、どうやら、現場を指導するのは、すてぃっくさんの仕事のようです。あま~い魅力にひかれたお客さんが、今日もホイホイのようにやってきます。甘いアイスにも、”アイス”があることをお忘れなく♪
おまけ END
第四話 幻覚
僕は、最近父がおとなしくなったことに、少し安心感を抱いていた。これもあのアイスのおかげだろうか。僕はあれ以来、アイスを食べていなかった。食べたくてもお金がないからだ。でも、僕はまたあの甘い誘惑に乗ることになった。
それは、ほんの一瞬の出来事だった。僕が部屋に足を踏み入れた瞬間、頭が割れそうなぐらいの激痛が走った。しゃがみこもうとしたときに、いきなり痛みが消えたのだ。
「いっつー…気のせいか?」
不思議に思いながらも、頭を撫でてみた。異常はなかった。そしてベットに寝転ぶと、今度はお母さんが川に流されていったあのころの景色が、目に映った。急いで飛び起きるが、そこにはさっきまで僕がいた自分の部屋だった。
僕は、病院に行こうとしたが、病院に行ってもお金がかかる。お父さんに行っても多分絶対連れて行ってくれる状態じゃないだろうし。僕は、気づかないうちに、スマホにメールが届いていることに気付いた。送り主はあの匿名の人物だった。
さっそく内容を見てみた。だが、リンクを押そうとしたら、スマホがぐにゃぐにゃにつぶれたのだ。だが実体はある。ぼくは、混乱してスマホを落としてしまった。その時だった。いつもお父さんとお母さんが遊んでくれた公園の景色が目の前に広がったのだ。すると、目の前に、僕が昔好きだった女の子がたっていた。「帰ってきたらね、笑顔で告白するよ。『おかえりなさい』!」そう笑顔で消える女の子を僕は眺めた。瞬きをすると、ここは僕の部屋だった。いけない。あれは幻覚なのか?まあいい。とりあえずこの手紙の内容が気になる。そしてリンクを押すと、説明書のようなものが入っていた。「もしすてぃっくさんのアイスで変なことが起きたら、特別サービスとして、アイスをさらにもう一本!無料であげちゃうよ!」とのことだった。
ぼくは、無料ということなら、と、前食べたアイスと同じものを買った。すると、画面の中から女の人がひょっこり出てきたと思ったら、笑顔で渡してくれた。僕はそれを受け取ると、一口一口、大事に味わった。そして、そのあとから、夜の寝る時間になるまで幻覚のようなものを一切見なかった。
僕は、それからも、幻覚が見えるたびにアイスを食べるようになってしまった。これが依存だということを、僕はわかっている。だけど、幻覚を見ている間、僕は謎のだるさに襲われるのだ。だから幻覚を放置していると、きっと普通の生活ができなうなってしまう。僕は、今日もアイスを食べる。普通になれるなら。
第四話 END
おまけ スタッフの裏側で~その2~
こーん「うんうん。初めての客としてはよくやるねみさきちゃん。」
すてぃっく「こーんさ~ん。他の子もスタッフたちが探してくれるから、売り上げがぐんぐん伸びているよ!」
こーん「うん。順調だ。おや。みさきはお金払ってまで危機を乗り越えてるのに、まことだけは異常が起きたときにしかかわないのか。なんかこう、みさきと似た境遇の子だったら買うんじゃなかったっけ?」
すてぃっく「”アレ”増やしとく?余ってるの。」
こーん「いいよ。『子供のような脳細胞へ、合理化一杯だけ』♪ね?」
すてぃっく「了解で~す!」
今日のメルトアイスも大忙し。さあ、果たして欲望に勝てる者はいるのか!って、いるわけないか。
おまけ END
第五話 合理化
最近とてつもなくだるい。アイスだって食べてるのに、気分がすぐれない。
自分がおかしいのかと思うほどに、体がかゆくなった。アイスをこっそり食べてるなんて、お母さんに話せないので秘密にしているが、さすがにお母さんに心配されてしまった。
なので、メールに起こってる症状を伝えた。すると、「申し訳ありませんが、それはアイスの食べ過ぎによるだるさと、体質的にアイスが駄目だったのではないでしょうか?しっかりと検査したうえでまたもう一度お送りください。」と帰ってきた。
私は、どうしようか、悩んでしまった。そこで、天才的な考えをひらめいた。アイスを溶かして、ミルクで割り、チェリーソフトクリームシェイクを作った。どうにもできないなら創意工夫で乗り越える。なんだ。これがよかったんだ。その特製シェイクを飲み干すと、体がいつもみたいに、痛くもかゆくもなくなった。
私は、そのシェイクが効かなくなっても、また工夫すればいいだろうと、検索をしながら、そのソフトクリームをアレンジしていった。
さあ、今日はどんなアレンジをしようかな?
第五話 END
第六話 現実逃避
なんだか最近、自分がおかしくなっている気がする。僕は、普通になるためにアイスを食べている。でも、なんだか最近、幻覚を見る頻度が多かったり、聞こえもしないものが聞こえてしまったり、扉の開く音や、僕の目の前で認識している物以外の音に反応するようになってしまった。僕は、そのたびにアイスを食べるが、食べるたびに、気が付かないうちにどこかへ立っていたりしていた。前なんて、学校の屋上たっていた。友達によると、死んだような目をしながら屋上へ行ったと。
僕は、普通になるために食べ始めたアイスを、やめようとしたが、ふとした瞬間に注文されていて、気が付けば幻覚が見えていた。そのせいで、僕はアイスをやめることができなくなっていた。でも、今までは行ったことがある、思い入れのある場所やみたことのある場所の幻覚だったが、最近は言ったことのない幻覚も見え始めた。この前なんか、知らない人の牧場に立っていて、気が付けば牛に囲まれていた幻覚を見た。頭がおかしくなっているのだろうか、最近学校で習ったことを、次の日には一ミリも頭に入っていないのだ。
僕は、また家に引きこもるようになってしまった。家の外に出ると何が起こるかわかったもんじゃない。前は学校の屋上に立っていたが、最近は危ないところにいることが増えた。外に出歩くことが不安になってしまったのだ。一番最悪だった場所は、赤信号の横断歩道に突っ立っていたのだ。幸いにも、運転手がクラクションを鳴らしてくれたおかげでなんとかその場はやり過ごした。次はどこへ行くかわからない。僕は、僕が僕じゃないことをしているのが分かる。だけど、自分にはどうしようもできない。前にあの匿名人物へメールを送ったが、丁寧に誤って、証拠提供をお願いという内容だった。僕は、自分で何とかしろという意味に思えた。
でも、悪いことだらけではなかった。お父さんが正気に戻ってくれたのだ。僕がひきこもり始めて一カ月が経過したころ、お父さんは自分のしたことを考えて、酒をやめていたようだった。お父さんは前の優しいお父さんに戻ってくれて、僕とも話してくれるようになった。
僕は、思い切ってお父さんに相談してみた。「お父さん。僕ね、最近変なものを聞いたり見たりするようになったんだ。前までは何とかなってたけど、最近悪化してて。僕、どうなっちゃうのかな。」お父さんにはアイスのことは話さなかった。お父さんは、一瞬考えて、はっとした表情を見せた。「明日、病院行くぞ。」お父さんは、深刻そうな表情をして僕に告げた。
次の日、僕はお父さんに連れられて、病院に行った。なんで行くのかわからなかったけど、とりあえずついていくことにした。
そして、病院での待合室で僕は言った。「お父さん。どうしたの?顔が少しこわばってるけど。」するとお父さんは「え?あ、ううん。何でもないよ。」そんなこんなで僕の順番がやってきた。
診察されると、「えーまこと君。最近変わったことはないかい?」と聞いてきました。「最近変なものを見るんです。後…」と話を続けようとしたら、お父さんがさえぎって、お医者さんに何かを耳打ちしました。
「分かりました。失礼ですが、ここからのお話はまこと君だけにするので、お父様は待合室でお待ちください。」と、お医者さんが言うと、お父さんは静かにうなずき、診療室を出ていった。「まこと君。まこと君は、”アイス”を食べているかい?」そういうので、「なんでわかったんですか⁉」と言った。「まこと君。もしこれから先、幻覚を見るようであれば、”アイス”に頼るんじゃなくて、お父さんに頼りなさい。いいね?」僕はうなずき、診療室をあとにした。
僕は、心のどこかに蓄積していたモヤモヤが、一気に消えていくのを感じた。やっぱりあのアイスはよくなかったんだろう。僕は、お父さんがなんて言ったのか、知る由もなかった。
第六話 END
おまけ 父の立場
俺は龍一郎(りゅういちろう)。まことの父親だ。まことが小さかった時に、俺の妻、まことの母を失った。そこからなんだろう。俺のせいで、まことは楽しい学校生活を送れず、酒に溺れた俺のそばにいた。俺は、引きこもり始めたまことの姿を見て、ふと思った。俺は、まことのために何をしたんだろうと。千佳子が死んでから、俺はずっとまことを非難し続けた。そんな俺に父親でいていい価値はあるのだろうか。俺は、そう思うと、罪悪感で胸がいっぱいになった。俺は、匿名のまことの部屋に置いてあった買ったアイスを一口食べてみた。まことは部屋から出ていなかったのに、どこからこれを買ったんだろうと気になってしまったからだ。そんな時だ。俺の舌が、とてつもない激痛に襲われた。俺はすぐ病院に行って検査をした。すると、「これ、覚醒剤ですね。それも高度な。」その一言で、俺は固まってしまった。まさかまことがこんなものを食べていただなんて。俺はまことの口から聞けることを信じて、放っておいた。だが、俺も一応父親だ。心配して、まことに聞こうとしたとき、「お父さん、実はね、」と、あのことを話してくれた。
俺はすぐにあのアイスのことだと気が付き、病院へ行くように言った。次の日、俺はまことの異変に気が付いた。昨日言ったばかりなのに、俺が病院へ行くと言ったのを、今日初めて聞いたと言わんばかりに、急いで準備したのだ。俺はスマホで検索してみた。すると、記憶を少しだけ失う可能性がある覚醒剤を見つけた。その名も、〈アイス〉だった。どうやら、これのせいでまことはおかしくなっているんだろうと思った。そのせいか、まことには心配される始末。俺は診察室でまことの今起きていることを、知っている限り医者に話した。俺は診察室を出てからも、落ち着けなかった。まことは一体どうなってしまうのかの不安で埋め尽くされた。でも俺はまことの父親だ。しっかりしないと。俺は、これから、千佳子の分まで、まことを大事にしようと、心に誓った。
おまけ END
第七話 とろける罠
私は、今までのアイスで十分だった。十分だったはずなのに、私の中にある欲が、アイスを買った。 ある日、いつものようにあのメニューを開くと、新商品が追加されていた。「とろけるもっちり触感!当店オリジナルアイス!」だ。私は、いつもみたいに財布から五百円玉を出したが、よく見ると、その新商品は、な、な、なんと、1,000円もするのだ!高い!五百円だけでも十分に高いのに。
私は、悩んで悩んで、まだ決まってもいないのに、財布の中の千円札に手を伸ばしていることが分かった。私は、自分がこれを食べたいのであろう。と感じ、欲に負けて買ってしまった。
私は、そのアイスを恐る恐る口へ運ぶと、 パクッ! 甘くっておいしい!私はそれを平らげた。私は、もう理性が完全に欲に支配されていることを、後悔するほど後に知った。
私は、満足した後、そこから数カ月は大丈夫だった。私は、値段が高い分、効き目が長続きするのだと思った。そう甘く見たのがいけなかった。
第七話 END
最終話1(みさき) すぐに崩れるワンダーランド
私は、そろそろアイスを買っといたほうがいいのかな。と思うようになった。だって、あれから一年が経過して、私は中学三年生になった。その間、私は一度もアイスを口にしてないのだ。痛みが来るときには前兆があった。痛みが来る一時間前は、視界がぼやけるのだ。
頭の中にはてなを思い浮かべ、頭を搔いた。すると、髪の毛がごっそり抜けたのだ。え?頬を触ると、ほっぺたが溶け出した。信じられない気持ちのまま、ベットから起き上がると、そこは私の部屋だった。ごっそり抜けたはずの髪も、溶け出した頬も、全部元通りになっていた。
私は、ここが現実であることを確認すると、急いで洗面台の鏡へ向かった。やっぱり変なところはない。おかしいなと思いつつ、また頭を掻くと、髪が抜けた。これは夢じゃない。現実だ。悲鳴を上げようをすると、自分の体にも異変が起きていた。ちゃんと立っていられず、へたり込んでしまった。「え?なに?どういうこと?」私はその時思った。この原因が、あのアイスによるものだったとしたら。私は後悔した。でも、後悔しても遅い。私の体が、徐々に溶け出しているのだ。おかあさん。おかあさん。どこ?私は、溶けた体を見て、何もできなくなった。
最終話 BUTTEND
最終話2(まこと) 家族
僕は、アイスを食べることをやめた。久しぶりに会話したお父さんの言うことを、僕自身が聞きたいからだ。でも、そのおかげで、少しの間はまだ幻覚が見えたが、それから先、僕はもう二度と幻覚を見ることがなくなった。僕は、アイスをやめた今でも、お父さんに感謝している。僕は、お父さんのおかげで、やっと本当の「普通」を手に入れることができた。
---それから数年が経過し、僕は大人になった。大人になった今でも、あのアイスのことをたびたび思い出す。そんなある日、気になるニュースを目にした。
「では、本日のニュースをお伝えいたします。最近、若い子供を狙った殺人が多発しています。その被害者であるM氏の母親から話を伺いました。」というものだった。僕は、そのニュースに目が釘付けになった。
「私の娘は、昔いじめられていて、引きこもるようになってしまったんです。ある日突然部屋を出てきたと思ったら、学校に行って帰ってくるたび、部屋に行っては何かをしていました。それを放って置いたのがいけなかったんです。ある日、あの子が部屋にいたと思うと、いきなり部屋を飛び出したんです。様子を見ていると、頭を抱えながら嗚咽し始めたの。私がすぐに止めに入ったけれど、私のことが見えていないみたいで、『お母さん』って言いながら涙を流して…。」そこでインタビューは終わった。僕は、僕とは違う形で苦しむ子もいたんだな、と思うと、心が苦しかった。
「このM氏以外にも、同じ最期を迎えた家庭も多くあるそうで、その数100人を超えています。」アナウンサーは淡々と告げる。「さらに、どの親御さんも、『引きこもっていた』『心が弱かった』などと証言しています。どのお子さんのスマホにも、謎の匿名の人物からのメールが届いていたということが分かっています。現在、警察は、この匿名の人物の捜索にあたっています。どのメールの内容も似ている文書ということから、同組織の犯行だと思われています。」ここでこのニュースは終わった。僕と同じだ…。
他のニュース番組を見ると、「子供のゴミ箱には、アイスの箱が大量に捨てられていた。」などと言われていた。僕がもらったアイスの箱と同じものだ。
僕は、静かにテレビを消し、亡くなった大勢の子供たちのために黙祷をした。
最終話 HAPPYEND?
このお話はいかがだっただろうか。みさきは残念だが、助からなかったうちの一人です。いまだ現在、匿名の人物は捕まっていません。メルトは、溶けるという意味。みさきは、とろけるアイスの誘惑に勝てなかった。匿名人物は、弱い心に溶け込んで、じわじわと溶かしていく。そういうやつらだ。本作に出て来る「覚醒剤」という危ないワード。裏のものが言った”アレ”。読者のみんなはそれが何か気になるだろう。例えば、「麻薬」の中に、「チョコ」という隠語があるそうだ。それと同じく、スタッフたちは、”アイス”という隠語を使用し、連続殺人を犯したのだ。僕には、それをやる意味が解らない。僕は、これからも、こうして悩み続けるのだろうか。
END(ナレーター:狼崎まこと)
(追伸:ちなみに、このお話のナレーターは二人います!わかった方はコメントよろしくお願いします!)
ハリボテ裁判
オレンジ色の夕日が、旧校舎の廊下を長く引き伸ばしていた。
埃っぽくて、どこか甘ったるい放課後の空気。そんな中で、吉沢有芽は鼻息荒く、視聴覚室の扉を勢いよく開けた。
「見つけたわ!ここを今日の『作戦会議室』にするわよ!」
有芽の元気な声が、誰もいない部屋に反響する。彼女の趣味はアウトドア。と言っても、山に登るわけではなく、常に外を歩き回って「誰かが悪いことをしていないか」をパトロールすることだ。そして何か見つければ、すぐさま先生や親に報告する。その徹底ぶりから、ついたあだ名は「チク子」。本人はそれを「正義の代名詞」だと信じて疑わない。
「……ふわぁ。有芽ちゃん、元気だねぇ。私はここでお昼寝でもいいよ?」
後ろからトボトボとついてきたのは、白川音無。インドア派で、常に自分の世界の中にいるような女の子だ。有芽とは正反対の性格だが、なぜかいつも一緒にいる。音無は、たとえ自分が有芽に「昨日、宿題忘れてたよね」とチクられて怒られても、「あっちゃー、よく見てるねぇ」と笑って済ませてしまうような、底抜けにマイペースな性質だった。
「お昼寝なんてダメ!今日は特別なものがあるんだから」
有芽が指差した先。部屋の隅にある機材テーブルの上に、場違いなものが置かれていた。
T字の形をした、木製のような、でも少し安っぽい質感の小さなハンマー。
「あ、それ私の。さっきゴミ捨て場で拾った」
いつの間にか部屋の真ん中の椅子に座り、スマホをいじっていたのは氷川有無だ。彼女はアウトドアでもインドアでもない。「どっちでもいい派」を自称し、常にネットの海を漂っている。
有無はスマホから目を離さず、片手でそのハンマー……「ガベル」を手に取った。
「これ、裁判官が使うやつでしょ? テレビで見たことある。悪い子を指差して、カンカンって叩くやつ」
「裁判……?」
有芽の目がキラキラと輝き出した。彼女にとって、それはまさに理想のシステムに思えた。悪いことをした人を、公の場で、堂々と、合法的にチクることができる場所。
「それよ、それ!私たちで『裁判』をやりましょう!私が悪い子を見つけて、有無がそれをカンカンって裁くの!」
「いいよ。面白そう。これ、叩くといい音しそうだし」
有無は興味なさげに言いながら、机を軽く叩いた。コン。 軽いプラスチックのような音が響く。
「じゃあ、私はなにすればいいの?」
音無が首を傾げると、有芽が不敵な笑みを浮かべて彼女を指差した。
「音無は、裁かれる人!……えーっと、ヒコクニン、よ!」
「ひこくにん? よくわかんないけど、座ってればいいなら楽そうでいいね」
音無は「まぁいっか」と、用意されたパイプ椅子にちょこんと腰掛けた。
法も、秩序も、倫理も知らない三人の。
ただ「言葉」と「リズム」だけをなぞる、ハリボテの裁判が幕を開けようとしていた。
主な登場人物
・吉沢 有芽(よしざわ ゆめ):ハリボテ裁判出廷者である。アウトドア派の明るく元気な女の子。人が悪いことをしたときに、よくチクることから、「チク子」とあだ名がついてしまった。
・白川 音無(しらかわ ねむ):ハリボテ裁判出廷者である。インドア派で、おっとりしたマイペースな女の子。人に騙されても、「あっちゃー」や、「まぁそういうときもあるよね」と、軽く考える癖がある。
・氷川 有無(ひかわ うむ):ハリボテ裁判出廷者である。ニセ裁判官でもある。アウトドアとインドアの中間の、スマホ大好きな女の子。(本人いわくどっちでもいい)裁判とかみじんも興味なく、ただあのカンカンするハンマーみたいなやつで机をたたくだけだと本人は思っている。
・全員の共通点:「裁判」と言うことを、言葉しか知らない。
第一話 開廷!ハリボテ裁判
「えー、これより、第一回……えーっと、なんだっけ。とにかく裁判を始めまーす」
有無が、教卓の上にどっかりと座りながら、だるそうに宣言した。
手にはゴミ捨て場で拾ったプラスチック製のガベル。彼女はそれをマイクのように口元に近づけて、スマホを操作する。スピーカーから流れてきたのは、彼女がネットで見つけてきた、どこか不穏で、でも踊りたくなるようなアップテンポな電子音だ。
「ちょっと有無! もっと威厳を持ってよ。裁判官なんだから!」
有芽がビシッと音無を指差しながら抗議する。有芽は今日、この日のために「検察官」という役割をネットで調べてきた。といっても、彼女の理解ではそれは「公式にチクる権利を持つ人」でしかない。
「威厳とか、どっちでもよくない? 私、このカンカンってやつやりたいだけだし」
有無はそう言うと、勢いよくガベルを振り下ろした。
コン!
乾いた、安っぽい音が響く。
「はい、静粛にー。じゃあ、まずは検察官のチクり……じゃなくて、起訴状? どうぞ」
「待ってました! 被告人、白川音無! あなたは昨日、学校の裏庭で、掃除の時間に『アリの行列にお菓子のかけらをあげて、掃除をサボった罪』があるわね!」
有芽が意気揚々と、昨日目撃した決定的なシーンを告発する。有芽にとって、この場所は日頃のパトロールの成果を発表する最高のステージだった。
「あっちゃー。見られてたんだ」
音無はパイプ椅子に座って、ふにゃふにゃと笑っていた。少しも反省している様子はない。
「でもね有芽ちゃん。あの子たち、すっごくお腹空かせてるみたいだったんだもん。あれはお菓子を捨てたんじゃなくて、アリさんたちとの交流会だったんだよ? だからセーフじゃないかなぁ」
「セーフなわけないでしょ! 掃除当番は義務なの! 義務を怠るのは立派なギザン……ギザイ……とにかく罪なのよ!」
有芽の鼻息が荒くなる。しかし、裁判官である有無は、二人の言い合いなどこれっぽっちも聞いていなかった。
「……ねえ、今の『セーフじゃないかなぁ』って台詞、このリズムに乗せると結構いい感じじゃない?」
有無はスマホの画面をタップし、曲のテンポを少し上げる。
ドク、ドク、ドク、ドク……
「ちょっと、有無! ちゃんと裁いてよ!」
「わかってるって。……えー、被告人の言い訳がふわふわしてて面白かったので、今の発言は『半分くらい正解』と認めまーす」
「ええっ!? 何よそれ!」
有芽がひっくり返りそうになるが、有無は楽しそうにガベルを机に打ち付ける。
コン、コン、カカコン!
「今の、いい音! ね、裁判って意外とリズムゲーだね」
有無が笑い、音無がそれに合わせて手拍子を始める。
有芽は一人で「裁判はもっと厳粛なものなのよ!」と叫び続けるが、その声も有無が流す派手なBGMにかき消されていく。
第一話 END
第二話 くじ引き
翌日の放課後。視聴覚室には、またあの奇妙なBGMが鳴り響いていた。
有無は今日も教卓に陣取り、ガベルをペン回しのように弄んでいる。有芽は昨日の不完全燃焼を取り戻すべく、ノート一冊分にも及ぶ「音無の罪状リスト」を抱えていた。
「第二回、ハリボテ裁判を始めまーす。カンカン」
有無がやる気なさそうにガベルを叩く。それが開廷の合図だ。
「さあ音無、覚悟しなさい! 今日の私は容赦しないわよ」
「あはは、有芽ちゃん、今日も元気だねぇ。何が出てくるのかな?」
音無は相変わらず、自分が裁かれる立場だという自覚がゼロだ。有芽は鼻息荒く、ノートを開いた。
「まず一つ目! 今日の昼休み、音無は購買のパンを袋から出すときに、ちょっとだけ粉を床にこぼしました! それを彼女は、足でこっそり机の下に隠したのです! これは『隠滅の罪』よ!」
「あっちゃー、見てたんだ。でもね、あれはパンの粉が『帰りたくない』って言ってる気がして……」
「そんなわけないでしょ! 次! 昨日の帰り道、音無は赤信号が点滅しているのに、あと三歩だからって小走りで渡りました! これは『暴走の罪』!」
有芽の「チクり」は止まらない。もはや罪というより、ただの行動記録だ。有芽は「悪いことを指摘する自分」に酔いしれ、どんどんヒートアップしていく。
しかし、裁判官の有無は、途中から完全に話を聞くのをやめていた。
彼女はスマホのメモ帳を開き、何かを書き込んでいる。
「ねえ有芽、長い。もっとこう、サクッと決めようよ」
「サクッとって何よ! 裁判は証拠と論理で決めるものでしょ!」
「面倒くさい。……あ、いいこと思いついた」
有無はどこからか空き箱を取り出し、そこに二枚の紙切れを放り込んだ。
「はい、ここに『有罪』と『無罪』を書いた紙を入れました。どっちが出るかで判決を決めまーす。はいはい問います、どちらが正解?」
「ええええっ!? くじ引き!?」
有芽の絶叫を無視して、有無は音無に箱を差し出した。
「さあ音無、自分で引いて。どっちが出るかなー?」
「えー、いいの? 自分で決めちゃって。じゃあ……これ!」
音無がひょいっと引いた紙には、大きく『無罪』と書かれていた。
「あ、無罪だって。よかったぁ」
「よし、判決! 音無は無罪! はいはい挙げます、どちらも正解! ……あ、でも有芽が頑張ってチクったから、やっぱり有罪もセットにしとくね」
有無はそう言うと、もう一枚の『有罪』の紙も箱から取り出して机に並べた。
「えっ、どういうこと!?」
「つまり、どっちも正解ってこと。音無は無罪だけど、有芽のチクりも正しいから有罪。両方採用!」
コン、コン、カカコン!
有無がリズムよくガベルを叩く。BGMのテンポが上がり、有無と音無はそれに合わせて首を振り始めた。
「判決! 音無は『有罪で無罪』! 罰として、有芽と一緒に校庭を一周走ってきなさーい」
「わぁ、有芽ちゃんと駆けっこだ。楽しそう!」
「納得いかないわよーーー!!」
有芽の叫びは、有無が鳴らすガベルの音にかき消されていった。
第2話 END
第三話チク子、敗北?
「被告人・音無! あなたには、重大な『偽善』の疑いがあります!」
有芽の声が、放課後の教室に響き渡る。
今日の有芽はいつも以上に必死だった。第2回裁判で、有無にくじ引きというデタラメな方法で判決を決められたことが、彼女のプライドを酷く傷つけていたのだ。
「いい? 音無。あなたは昨日、雨上がりの道で、わざわざ遠回りをして水たまりを避けていたわね! それだけならいいわ。でも、その時に隣を歩いていた私に、『水はね、大丈夫?』って聞いた! あれは、自分が優しい人間だと思わせるための、計算高いパフォーマンスだったんじゃないの!?」
有芽の指が、ビシッと音無の鼻先を指す。
あまりに言いがかりすぎる告発。しかし、音無は驚くこともなく、ほわほわとした笑みを浮かべていた。
「あっちゃー……。パフォーマンスだったのかなぁ? でもね有芽ちゃん。あの時、水たまりの中の雲がすっごく綺麗だったから、有芽ちゃんにも見てほしかっただけなんだよ。まぁ、汚れなくてよかったよねぇ」
「そういう『いい話風』にするのがズルいのよ! 自分の非を認めなさい!」
有芽がどんなに怒鳴っても、音無の周囲には、物理的に時間がゆっくり流れているかのような、独特の「無風地帯」ができていた。
裁判官席の有無(うむ)は、今日も今日とてスマホに夢中だ。
「……ねえ、音無。有芽がこんなに必死にキレてるのに、よくそんな顔してられるね」
「うーん。だって、有芽ちゃんが一生懸命なのは、私と仲良くしたいからだと思ってるし。怒られても、『あぁ、今日も私のこと見てくれてるんだなぁ』って思っちゃう。まぁ、そういう時もあるよね」
「……っ!!」
有芽は顔を真っ赤にして絶句した。
「チクり」という名の攻撃を、全て「愛の裏返し」として受け取られてしまう。これは正義を信じる有芽にとって、敗北に近い感覚だった。
「……はは、音無って最強だね」
有無がクスクスと笑いながら、ガベルを手に取った。
「ねえ、音無。今、ネットで『どんな悪口もポジティブに変換するBOT』が流行ってるんだけど。今の音無、まさにそれじゃん。……じゃあ、今日の判決はこれね」
有無はガベルを大きく振りかぶり、思い切り振り下ろした。
コン!
「判決! 音無は、どれだけチクられても『まぁいっか』と言い続ける罪! 罰として、有芽が泣き止むまで、隣でニコニコしていなさい!」
「わぁ、素敵な罰だねぇ。有芽ちゃん、こっちおいで?」
音無が両手を広げる。有芽は「なによそれー!」と叫びながらも、結局その空気感に抗えず、ガクッと肩を落としてその場に座り込んでしまった。
「……もう、バカバカしいわよ。何が裁判よ、ハリボテじゃない」
「そうだよ。ハリボテなんだから、楽しんだもん勝ちでしょ」
有無が流したBGMに合わせて、音無がゆらゆらと体を揺らす。
有芽は憤慨しながらも、自分もそのリズムに足で拍子を刻み始めていることに、まだ気づいていなかった。
第三話 END
第四話 裁判中止
「……ねえ、もう喋るのやめない?」
有無が突然、検察官席の有芽と被告人席の音無の言葉を遮った。
有芽は「えっ、まだ音無の『給食の牛乳の蓋を飛ばした罪』について話してる途中よ!」と抗議したが、有無はそれを無視して、ガベルをじっと見つめた。
「裁判って、言葉ばっかりで疲れる。それより、この部屋の響き、最高だと思わない?」
有無がスマホを操作すると、重低音の効いた、心臓に響くようなベースラインが流れ出した。ミクテトのあの曲を彷彿とさせる、中毒性のあるリズムだ。
「有無? 裁判はどうするのよ」
「やってるよ。今から『音』で裁くの」
有無はそう言うと、手にしたプラスチックのガベルを教卓に叩きつけた。
コン。
次に、ガベルの柄の部分で、教卓の横の鉄パイプを叩く。
キン。
「コン、キン、コンコンキン……。ね、いい感じ」
有無の目が、スマホを見ている時よりも少しだけ輝いている。彼女は立ち上がり、教卓をドラムセットのようにしてリズムを刻み始めた。
コン、カカコン、キン、コン!
「あはは! 有無ちゃん、すごい! 楽器みたいだねぇ」
音無が楽しそうに立ち上がり、リズムに合わせてステップを踏み始める。
「ちょっと! 二人とも真面目にやって! 裁判官が机を叩いて遊ぶなんて、そんなの法廷じゃないわ!」
有芽は必死に止めようとするが、有無は不敵に笑ってガベルを有芽に向けた。
「有芽も、文句があるならリズムで言いなよ。ほら、今のチクり、四拍子に乗せてみて?」
「な、なによそれ……。えーっと……音無が、牛乳の、蓋を、飛ばした……?」
有芽が戸惑いながらも言葉を乗せると、有無がそれに合わせて激しくガベルを打ち鳴らす。
コン!コン!コン!コン!
「そう、それ! 最高にハリボテな正義! もっとちょうだい!」
有無の叩くリズムはどんどん速くなっていく。音無は「おっとー?楽しくなってきちゃった!」と、カーテンをマントのように翻して踊り出した。
裁判所(ごっこ)の体裁は、完全に崩壊した。
そこにあるのは、権威を模したプラスチックのハンマーが、空っぽの教室に響かせる虚しい、けれど心地よいビートだけ。
有芽は最初こそ怒っていたが、次第にそのリズムの熱に浮かされ、「もう、どうにでもなれ!」と、自分のノートをパーカッションのように叩き始めた。
「判決なんて、もうどうでもいい派!」
有無が叫び、ガベルを頭上に放り投げてキャッチする。
「今日は全員、リズムに乗れたから『執行猶予』! カンカンカンカン!」
三人の笑い声と、デタラメな打楽器の音が、夕暮れの校舎に不協和音となって溶けていった。
第四話 END
第五話 音無猫誕生⁉
放課後の視聴覚室は、異様な熱気に包まれていた。
事の発端は、昼休みのちょっとした事件だった。有芽が大切に机の奥に隠していた「ご褒美用チョコ」が、箱ごと消えていたのだ。現場に残されていたのは、音無の筆跡によく似た「おいしかったよぉ」という脱力感あふれるメモ。
「今日こそは逃がさないわ。物証も、動機も、目撃証言(私の勘)も揃ってるんだから!」
有芽は鼻息荒く、裁判の席についた。一方、被告人席の音無は、なぜか耳の横で髪をピンで留め、少しだけ「耳」っぽく尖らせた奇妙な髪型で現れた。
「音無、その頭はどうしたのよ」
「あっちゃー、バレちゃった? 今日はね、なんだか人間でいるのが疲れちゃって。猫さんなら、チョコを食べても怒られないかなぁって」
「怒るわよ! むしろ『横領罪』に『偽装罪』も追加よ!」
有無は二人のやり取りを見ながら、スマホで「猫の鳴き声サンプリング音源」を弄んでいた。
「……いいよ、その設定。面白いじゃん。じゃあ、有芽。その『決定的な証拠』とやらを出してよ」
促されて、有芽が震える手で机の上に置いたのが、あの古びた空き箱だった。
「これよ! 音無の机の横のゴミ箱に捨ててあった、私のチョコの空き箱! しかもこれ、ただの箱じゃないわ。開けてみなさい!」
有芽が意気揚々と箱を開けると、そこにはチョコの代わりに、音無が授業中に暇つぶしで書いたと思われる怪文書が丸めて入っていた。
そこには丸っこい文字で、『うるたらじゃらっぷのーむのーむ』と呪文のように書かれていたのだ。
「……なにこれ」
有無がそのメモを覗き込む。
「音無、これ自分で書いたの?」
「うん。昨日の夜、寝ぼけながら書いてたみたい。気づいたら箱の中に入ってて……それを見たら、なんだか頭がぐるってして。」
「そんなバカな話があるわけ――」
有芽が言いかけたその時、有無がニヤリと笑い、スマホの「再生ボタン」を叩いた。
ドク、ドク、ドク、ドク……ニャーン!
スピーカーから、心臓を叩くような重低音と、加工された猫の声が混ざり合う。
「いいじゃん。証拠品がそう言ってるんだから、それがこの法廷の『真実』だよ。……ほら、音無。判決の結果、無罪!」
その気真っ先に口を開けたのは有芽。
「え⁉なんでよ!証拠はそろってるんだから、有罪じゃないの!」
「まあまあ最後まで聞きなって。えー、無罪!よって、無罪の刑で猫化に処す!」
「「え?」」
「ほら。せっかく猫の格好してんだから、やっちゃいなよ!それに、有芽ちゃんの希望なんだから!」
思ってもないことを言われた有芽は思わず「はぁ⁉」と言った。
まあ今まで小さな罪をいくつも犯していたので、これぐらいはいいか?と思った。
「……なーお。なーお。……なーお。」
音無は、鳴きまねだけでもやった。そして、手を丸めて、さらに猫っぽくやって見せた。
「どぉ?もう満足?」
「うーん。何か足りないけど、まあいいか。動画もとれたし。」
その日は、それで解散した。
第五話 END
最終話 ハリボテ裁判終結
音無が教室を駆け回り、有芽がそれを追いかけ、有無がリズムを刻み続ける。そんな狂乱の法廷も、終わりの時は突然やってきた。
「……ねえ、もういいんじゃない?」
有無がピタリと手を止めた。BGMが止まり、静寂が教室を支配する。
音無はふにゃふにゃと、体をわざとらしく揺らし、ふふっと笑った。
「有芽、あんたが必死に守ろうとしてた『正義』も。私が叩いてたこの『ハンマー』も。……結局、全部ただのプラスチックで、ただの遊びだったんだよ」
有無がガベルを高く掲げ、最後のリズムを刻むように机に叩きつけた。
――パキンッ!
乾いた音と共に、ガベルの頭が真っ二つに割れ、転がった。中身は空っぽだった。
「あ……」
有芽が声を漏らす。
「壊れちゃった。……私たちの、裁判官」
「いいよ、どっちでも。どうせ最初から、ハリボテだったんだから」
有無は割れたガベルを見つめ、どこか晴れやかな、でも少し寂しそうな顔をした。
「最後の判決を下すね。……被告人、音無。検察官、有芽。そして裁判官、私」
有無はスマホのカメラを自分たちに向け、3人が映るようにした。
「判決。私たちは全員、『一生、このハリボテの中で遊び続けるの刑』! 異議、なし!」
有無がスマホのシャッターを切った。その瞬間、画面にはあの『ずんだもん』の加工も、60年後のフィルターもない、今のままの、少しだけ夕日に赤らんだ3人の姿が映っていた。
「わぁ、素敵な刑罰だねぇ。一生一緒なら、まぁいっか」
音無が微笑み、有芽も毒気を抜かれたように「……それ、一生チクり放題ってことでしょ? 覚悟しなさいよ」と、小さく笑った。
数分後、チャイムが鳴り響き、3人は教室を後にした。
有無は割れたガベルをゴミ箱へ放り込み、有芽はチクりノートを鞄にしまった。
校門を出ると、街の巨大モニターに本物の裁判のニュースが流れていた。
難しい顔をした大人たちが、難しい言葉で「正義」を語っている。
「ねえ、本物の裁判って、あんなに楽しそうじゃないね」
音無が不思議そうに呟く。
「どうせ、あっちもハリボテよ。私たちがいないんだもの」
有芽が胸を張って言い放つ。
有無はスマホをいじりながら、歩き出した。
「……明日は、何ごっこする? 警察官? それとも……普通に、どっか遊びに行く?」
「どっちでもいいよ!」
「まぁ、そういう時もあるよねぇ」
3人の足音が、軽やかなリズムとなって夜の街に消えていく。
彼女たちの世界では、今日も「正義」はカラフルで、デタラメで、そして最高にハッピーなハリボテのまま。
(完)
メズマライザー
(このお話は、前作の「メルト・アイスクリーム」同様、交互にキャラクターが出てきます。今回の場合、ミラとテルが交互になります。)
◇目が覚めた。ここはどこだ?
そこは、緑でいっぱいの草原だった。あたりにはだれもいない。私はさっきまで…いや、考えるのはやめよう。頭が痛い。私は起き上がり、前に向かって歩きだした。
登場人物
・霧島 ミラ(きりしま みら):高校生ぐらいの女の子。最初はちょっと気の弱い子だったが、後からだんだんテルに心を開き、明るい子になる。でも、明るくなるにつれ、現実が見られなくなっていく。
・秋山 テル(あきやま てる):年齢不明(本人が隠してる)の性別がない、特殊な存在。でも、一応人間なので、喜怒哀楽はある。ミラにとって、テルはお姉さん的存在。でも、現実を受け入れなくなったミラが狂っていくのを見るのがつらくなってきて…
・??:このお話の黒幕的存在。今はまだ名前すらわからないが、お話の中で、いつか名前が明かされる。
第一話 ここはどこ?
私の名前は霧島ミラ。ついさっき、知らない場所で目が覚め、じっとしてても何も起きないから、とりあえず奥へ奥へと歩いているの。今歩いてずいぶん経ったと思うけど、ほんと、何もないところだなぁ。そう思いながら先へ進んでいると、奥に、赤い壁がたっていることに気付いた。
私はそこめがけて走り、到着した。じっくり観察したが、それはただの壁でしかなかった。右へ行くと、何もないが、透明な壁のようなもののせいで奥へ行けない。左へ行くと、右と同じで、透明な壁のようなもののせいで奥へは行けなかった。私は、ここに来るまで、ずっと歩きっぱなしなので、少し休むことにした。
はっとして目が覚めた。そこはさっきと変わらない、緑が続く、何もない草原だった。私は立ち上がり、周囲の確認をした。右左、前、そして後ろを向くとき、私の目に、あるものが映った。人だ。人がこっちへめがけて歩いてきている。私は、ここへ来て初めての人に出会えた。とりあえず、その人が来るまで、もう一休みした。
第1話 END
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第2話 はじめまして!
私の名前は秋山テル。ある日、突然ここで目を覚まして、今に至るまでずっとずっと歩き続けてた。この草しかない、まっさらな草原で。ある日、くたくたになりながらいつもの赤い壁へ歩いていると、なにかが見えた。あれは何だ?目を凝らし、少しずつ近づき、その時になってようやくわかった。人だ。人がいる。あの何もない空間に、人がいたのだ。私は、うれしさのあまり、歩くスピードが速くなっていく。
ようやく壁までたどり着き、息を整えながら、さっき見た人影を探した。いない。あれは幻覚だったのか…。その時、赤い壁の向こうから、黒い髪のようなものが見えた。やっぱりいた。
フゴッ!
今すごい音がした。その髪がいるところだ。耳を澄ませれば、かすかに寝息が聞こえる。寝ているのだろうか。私も、あの向こうにいる人が起きるまで、少し休むことにした。
後ろから何か物音がして起きた。いつの間にか眠っていたようだ。ふと振り向くと、私が見た髪と同じさらっとした髪が、目の前にさっと現れた。その人は、身長は大体高校生ぐらいで、性別は女…だな。見た感じ、ここへは初めて来たようだ。彼女はこちらに気付いていないようだったので、声をかけてみた。
テル「えっと、あのーー…」
彼女は驚いた様子で振り向いた。「いつからそこにいたの⁉」と言わんばかりの表情で。私は、
テル「ここに来たの、初めて?」
と、優しく聞いてみた。
ミラ「は、はい。あなたは…?」
テル「あ、私?私の名前は秋山テル。テルって呼んでね。あなたは?」
ミラ「私は、えっと、霧島ミラ。ミラで、いいよ。」
そんなこんなで自己紹介を済ませ、私たちは、見えない壁を間に、雑談することにした。
時は過ぎ、いつの間にか、ずいぶん時間がたっていた。私たちは、壁にもたれながら、眠りについた。
第二話 END
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第三話 ドレスアップ
私とテルさんは、結構仲良くなった。最近は、”歌う”という趣味が合致して、一緒に歌って踊るようになった。そんな時だった。あの何もない、物音ひとつしないこの空間に、突如としてBGMが流れ出した。私たちは混乱した。でも、だんだんリズムに乗って体が動き、隣にいるテルさんも、楽しそうに体を上下にゆらしていた。そして、気が付いた時には、私とテルさんは、リズムに合わせて踊っていた。まぁ、こういうのも、たまには悪くないかもしれない。
BGMもなりやみ、私たちは我に返って、動きを止めた。あれは何だったのだろうという疑問と、少し残念な気がする。私たちは、あれは何だったのか、少し話をした後、踊って疲れたのか、すぐに眠ってしまった。
--- パキン ---
物音がして目が覚めた。テルさんか?と、横を見るも、テルさんはスースー気持ちよさそうに眠っている。それに、なにかを踏むにしたって、ここには草と空以外、ほとんど石すらないからな。(地面はある)私は、不思議に思いながら、床に寝転んだ。
それから数時間もたたないうちに目が覚めてしまった。何もないところと言ってもさすがに太陽はあった。いや、あれはライト…なわけはない。変なことは考えないようにしよう。とにかく、まぶしすぎて眠ることができにくい。テルさんは私が影になっていたから眠れたのだろうか。いいなぁ。
そんなことを考えていると、またあのBGMが流れ出した。いつ聞いても飽きない、ポップで、早いリズムのあのBGMだ。テルさんはBGMに気付き、起き上がった。その時、私とテルさんは、お互いが見えないあの赤い壁の、ちょうど真ん中で体が止まった。なぜ?私は、戻ろうと必死に足を動かす。いや、動かそうとした。
ミラ(何これ⁉体が…!動か…ない!)
しゃべったつもりが、BGMのせいで何言ってるのか自分でもわからない。私は混乱し、何もすることができなかった。その時、目の中に激痛が走る。
ミラ(いいい⁉いっ、いっ、いっったぁぁぁぁぁ!なぁ、何これ、泣きたいのに涙も出ない!)
激痛が収まると、いまさらだが、真っ白なワンピースだった服が、だんだんと色づいていき、気づけば一つの立派な衣装になっていた。青と白のストライプのスカートと首を触れば何かがある。チョーカーなのか?なんだか、私から見える服の感じだと、レトロなウェイトレス風の服になっている。
気がする…。
ハッとして気が付く。体が動くではないか。急いでテルさんの様子を見るべく、テルさんが見える透明な壁のところへ向かい、テルさんを探した。テルさんも、私と同じように固まっている。
ピクリとも動かない…。その時、透明な壁に反射して映る自分の姿を見て驚愕した。
--- 誰? ---
この一言だけを残して、私は反射する自分をじっと見つめた。
自慢の茶色い髪は、水色に染められ、黒かった目は、水色に染まり、中には星が描かれていた。そして、私のお気に入りだったヘアゴムも、別のアクセサリーに置き換えられている。信じられない気持ちで、まさかとテルさんを見ると、テルさんのあの綺麗なロングヘア―が、ツインテールではない、よくわからない髪形になっていた。それに、上から、いや、全体から染みるように、髪が黒から赤へと変わっていった。さらに驚くべきことは、あの真っ白だった長袖長ズボンは、まず体中?に線が引かれ、それを塗りつぶすかのように白が、いろんな色へと着色されていった。結果、私とはちょっと違うが、似たような雰囲気の服が出来上がった。
解放されたのか、テルさんはその場に座り込むと、自分の体を見て、こちらに気付くと近寄って、お互いを見つめあった。
第三話 END
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第四話 強制プログラム
「ねえ、テルちゃん!見て見て、この衣装、動くとフリルがひらひらしてとっても可愛いの!」
見えない壁の向こうで、ミラが満面の笑みを浮かべてステップを踏んでいる。
あのドレスアップの日から、ここには定期的にあのポップなBGMが鳴り響くようになった。そして曲が流れるたび、私たちは自分の意思とは関係なく、操り人形のように完璧なダンスを踊らされるのだ。
最初はあれほど怯えていたミラが、今は嘘のように明るい。
水色に染まった彼女の瞳には、きらきらとした星のマークが浮かんでいる。だけど、その瞳は私の姿を映しているようで、どこか遠くの虚無を見つめているようでもあった。
「……うん、本当によく似合ってるよ、ミラ」
私は引きつりそうになる頬を必死に持ち上げ、いつもの「お姉さん」としての笑顔を作った。
胸の奥が、雑巾を絞られるように苦しい。
ミラは|現実《ここが異常な空間であること》を見るのをやめてしまったのだ。
そうしなければ、あのドレスアップの時に脳へ直接流し込まれた「激痛」と「恐怖」に耐えられなかったのだろう。心を防衛するために、彼女はこの狂ったステージを「楽しいもの」だと思い込むことにしたのだ。
(だけど、私は気づいている)
自分の真っ赤に染まった髪の毛を指先で弄りながら、私は周囲の「異変」に目を向けた。
ただの草原だと思っていたこの場所のあちこちに、最近、妙なノイズが混ざる。空が一瞬だけテレビの砂嵐のようになったり、地面の草がデジタル数字の羅列に見えたりするのだ。
何かがおかしい。私たちは誰かに監視され、操られている。
そう確信した瞬間、頭の奥でパチパチと電子音が弾けた。
『──定時プログラム、起動。対象、被検体ミラ、被検体テル──』
冷酷な、感情の籠もっていない「誰か」の声が脳内に直接響く。
名前すらわからない、姿も見えないその存在。この世界のシステムを裏で牛耳っている、絶対的な支配者──「それ」の気配を感じた瞬間、私の背中に冷たい汗が伝った。
テレレレレ、とあの軽快な前奏が鳴り響く。
「あ、また始まった!テルちゃん、一緒に踊ろう!」
ミラが嬉しそうに声をあげる。
(だめだ、踊っちゃだめだ、抗わなきゃ……!)
心の中でどれだけ叫んでも、私の体は裏切りのように軽やかに動き出す。
指先が勝手に動き、口元は自動的に完璧な笑顔の形に固定された。自分の意思が、上書きされていく。
見えない壁の向こうで、ミラが楽しそうに、本当に幸せそうにクルリと回った。
それを見るのが、たまらなくつらかった。私はニセモノの笑顔を貼り付けたまま、心の中で激しく涙を流した。
第四話 END
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第五話 まやかしのハッピー
「ハイ!ハイ!ワン・ツー・スリー!」
ポップで、早くて、最高にエキサイティングなBGMが頭の中に響き渡る。
私はリズムに合わせて、完璧なステップを踏んでいた。水色のフリルスカートがひらひらと舞って、まるで自分がどこかのアイドルのステージに立っているみたい!
ここに来たばかりの時は、何もない草原に怯えて、泣きそうになっていたっけ。
でも、そんなのもう忘れちゃった。だって、お姉さんみたいに優しいテルちゃんが隣にいてくれるし、こんなに可愛いお洋服を着て、毎日楽しく踊っていられるんだもん。ここがどこかなんて、もうどうでもいい。考えたって頭が痛くなるだけだし、楽しいことだけを見ていれば、ずーっとハッピーでいられるんだから!
「ねえ、テルちゃん!今日もすっごく楽しいね!」
見えない赤い壁の向こうにいるテルちゃんに向かって、私はとびきりの笑顔で手を振った。
テルちゃんも、赤色と黒色の可愛い衣装を着て、私と同じステップを踏んでいる。
……でも、なんだか不思議。テルちゃん、楽しそうなダンスをしているのに、なんだか顔がすごく強張っているように見える。私を見るその瞳が、今にも泣き出しそうに揺れているのは、どうしてなんだろう?
(……あれ?)
その時、頭の奥が、ちく、と刺すように痛んだ。
それと同時に、自分でも思いもよらない「感覚」が、指先から這い上がってくる。
(たす、けて)
「──え?」
今、誰の声が聞こえたの?自分の頭の中で、私の声によく似た、でも、私よりもずっと擦り切れたような小さな声が響いた気がした。
楽しすぎて、頭がフワフワして、現実なんてどうでもいいはずなのに。
なぜか私の左手は、ダンスの振付とはまったく違う、奇妙な動きを勝手に繰り返している。
親指を内側に折り込んで、残りの4本の指でそれを包み込むように、ギュッと握る。
パッと開いて、また、親指を隠すように握りしめる。
(たすけて。ここから出して。苦しい。頭が、おかしくなっちゃう──)
そんなわけないじゃん!私は今、こんなに幸せなのに!
早く楽しいダンスに戻らなきゃ。もっと笑顔を作らなきゃ!
でも、私の左手は私の意志を裏切って、何度も何度も、そのハンドサインを繰り返す。壁の向こうのテルちゃんに向けて、必死にメッセージを送るように。
「アハハ!見て見てテルちゃん、このステップ難しーい!」
私は声を張り上げて、頭の中の不協和音をかき消した。
水色の、星が描かれた瞳から、一滴の涙がポロリとこぼれ落ちる。
だけど私の口元は、まるで糊で貼り付けられたみたいに、綺麗な三日月の形のままビクとも動かなかった。
第五話 END
---
第六話 システムエラー
「アハハ!見て見てテルちゃん、このステップ難しーい!」
見えない壁の向こうで、ミラが声を張り上げて笑っている。
その水色の瞳からは、一滴の涙が頬を伝って流れ落ちていた。なのに、彼女の口元は歪なほどに綺麗な笑顔のまま固定されている。
その異常な光景に、私の心臓はドクドクと激しく脈打った。
そして、私は見てしまった。楽しげに激しく振られるミラの左手。その指先が、ダンスの振付とは明らかに違う、奇妙な動きを繰り返しているのを。
親指を内側に折り込み、他の指でそれを包み込むように強く握りしめる。そしてまた、パッと開く。
(──ハンドサイン。……SOSだ)
それは、誰にも気づかれないように助けを求めるための、決死のサインだった。
ミラは「楽しい」なんて思っていない。彼女の心は、もうとっくに限界を迎えていて、深層心理の彼女が必死に私へ「助けて」と叫んでいるのだ。
「ミラ……! 動くのをやめて! 聞こえる!? 耳を塞いで──」
叫ぼうとした瞬間、私の喉がガチリとロックされた。声が出ない。
それどころか、私の右手はミラのSOSを嘲笑うかのように、彼女の頭をピストルで撃ち抜くようなジェスチャーを勝手に取り始めた。
止めたい。なのに、体が言うことを聞かない。システムが、私にミラを絶望させるための|役《ロール》を強制している。
(お願い、やめて……! ミラを、私を、もう解放して……!)
心の中で血を吐くように叫んだその時、
ピリピリ、と世界が裂けるような強烈なノイズが響き、BGMがブツリと途切れた。
辺りが一瞬で暗転する。
緑の草原も、見えない赤い壁も消え、私たちは真っ黒な空間に放り出されていた。体が動く。私はすぐにミラの元へ駆け寄ろうとした。
「よく気づいたね、秋山テル」
頭上から、パチパチと拍手をするような音が聞こえた。
冷たくて、底意地が悪くて、私たちのことなんてただのオモチャとしか思っていないような、少女の声。
「……誰、だ」
私が声を絞り出すと、暗闇の奥から、ゆらりと一つの影が姿を現した。
その姿は、私たちとよく似た「衣装」を身にまとっていた。
だけど、彼女の瞳には星もハイライトもなく、ただ灰色に濁っている。この歪んだ世界を作り出し、私たちを閉じ込めて踊らせている
**張本人**。
「私の名前は、エル」
エルはクスクスと、壊れた機械のように不気味に笑った。
「現実なんて見たら、絶望して失明しちゃうよ? だから私は、あの子に最高にハッピーな夢を見せてあげてるの。それなのに、余計な気づきはバグの元なんだよねぇ」
エルの指先が、スッと私に向けられる。
「定時プログラム、再起動。バグの発生源(テル)の感情出力を──
強制シャットダウン」
「あ、が……っ!?」
脳を直接ハンマーで殴られたような、凄まじい衝撃が突き抜けた。
思考が真っ白に染まっていく。ミラのために泣くことも、絶望することも、すべての感情が冷たいデジタルデータに上書きされて消えていく。
「テル、ちゃん……?」
不安そうに私を呼ぶミラの声が、だんだんと遠くなっていくのを、私は止めることができなかった。
第六話 END
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第七話 メズマライザー(テル視点から)
……あぁ、何も感じない。悲しいとか、つらいとか、ミラを助けたいとか。さっきまで私の心を埋め尽くしていた感情が、すっかり消えてなくなってしまった。
私の口元は、完璧な笑顔の形に固定されている。
隣を見れば、黒幕であるエルが満足そうに微笑みながら、指をパチンと鳴らした。
「それじゃあ、最後の仕上げ。二人とも、仲良くおやすみ」
エルの声と共に、聞き慣れたあのポップなBGMが、今までで一番の大音量で鳴り響き出す。
私たちの足元に、再びあの鮮やかな緑の草原が広がっていく。
だけどそれは本物の自然なんかじゃない。ただの偽物の、デジタルで作られたステージだ。
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テーレッテレー!と、大好きなBGMが鳴り響く。
暗闇はいつの間にか消えて、また元の広い草原に戻っていた。
「あはは!やっぱりここが一番落ち着くね、テルちゃん!」
私は楽しそうにステップを踏む。
隣にいるテルちゃんを見ると、いつの間にか可愛い赤と黒の衣装に戻っていて、私に向かって完璧な笑顔を浮かべていた。さっきまで泣きそうな顔をしていた気がするけど……うん、気のせいだよね!
楽しいことだけ考えていよう!
現実なんて見すぎたら、眩しくて失明しちゃう。
だから、このままでいいの。ずーっと、ずーっと、こうして踊っていよう。
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操られるまま、私はミラの隣で激しく踊る。
もう心は何も感じていないはずなのに、私の脳裏に、なぜか全く知らないはずの記憶がチラついた。
それが何なのか、考えるだけの知性はもう残されていない。
エルの操り糸に引かれるまま、私たちは笑顔で踊り続ける。ミラの瞳の星が、チカチカと狂ったように点滅していた。
世界のノイズが、限界まで大きくなる。
視界がバグで真っ白に染まっていく。
私たちの限界を察したエルの、冷たい声が最後に聞こえた。
「──エラー蓄積を確認。世界システムを初期化(リセット)します──」
パチン、と大きな音がして、
私たちの意識は、今度こそ完全に、深い闇の底へとシャットダウンされた。
第七話 END
◇
最後まで読んでくれてありがとう!みんな、気づいたかなー。最終話の◇まで行ったら、前書きの◇まで行くんです。そしたらあら不思議。ループします!ぜひそこも見てください!