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ファサード・クエスチョン
私の名前はフェイ。
クイズが大好きな、普通の高校生だ。
私がクイズ好きになった理由は一つ。
あこがれの存在がいるからだ。私の夢は、その人の隣に並ぶこと。
私は、ありったけの知識を蓄え、友達に助けられながら、次期クイズ王になるんじゃ⁉とうわさされるほどにまで成長した。
そんな私に、ある友達が、クイズ番組のチラシをくれた。
「幼稚園から成人手前の17歳までのキッズを集めて、クイズ大会を開催します!詳しくは、番組ホームページまで!」
私は、家に帰って、ホームページを開いた。
「今回、このボーカテレビは、あのクイズ王、ライさんを招待し、クイズ大会を開催することにしました!対象は幼稚園から成人手前の17歳まで!トーナメントを勝ち進み、クイズ王と対戦するのは、どのキッズだ⁉**急げ、未来のクイズ王。エントリーはボーカテレビまで。**〇〇〇ー✕△✕」
そのキャッチコピーだけで、私は即エントリーをした。
楽しみだ。トーナメントを勝ち進めば、憧れたあの人との対戦が待っている…!
「さあ、始まりました! 泣いても笑ってもこれが最後、最強クイズ王決定戦! 本日のお題は、誰もが愛する『ポケットモンスター』です!」
きらびやかな照明がスタジオを照らし、司会者のハイテンションな声が響き渡る。
「数多の猛者たちが集った過酷なトーナメント。全国の天才クイズキッズ(高校生以下)という精鋭たちの中から、厳選な抽選によって見事この決勝の舞台へと勝ち上がってきたのは――クイズ界隈でもその名を知らない者はいない超有名キッズ、フェイさんだー!」
カメラが捉えたのは、水色の髪をポニーテール結った少女、フェイ。
「よろしくお願いしまーす!」
ギャルさながらの抜群のコミュニケーション能力と、高校生とは思えない圧倒的なオーラで、一瞬にしてスタジオの観客を味方につけてしまう。
「探せ、等身大の麗句を! そして、その挑戦者を迎え撃つのは、この座を誰にも譲らない絶対王者、現クイズ王――ライ!!」
赤髪の女性、ライは、完璧なクイズ王の|笑み《ファザード》を浮かべてカメラに手を振った。
ストレートヘアーがきれいになびく。
この日のために、寝る間も惜しんでありとあらゆる地方のポケモン、特性、歴史のすべてを脳内に叩き込んできた。
王座の防衛。私を突き動かすのは、その一念だけだった。
しかし―—。
「問題! カントー地方のタマムシシティにあるジムのジムリーダーであり、くさタイプの使い手といえば――」
ピンポーン!と、スタジオに軽快な電子音が鳴り響く。
私がボタンに手をかけようとしたその瞬間、コンマ数秒の差で、フェイのランプが鮮やかに点灯した。
「フェイさん、早い!さぁ、回答をどうぞ!」
「エリカさんです!」
「正解!」
ピンポンピンポン!と、正解の音が鳴る。
……余裕だな、と心の中で呟く。まだ一問目だ。
けれど、ここから潮目が一気に変わり始めた。
「問題! シンオウ地方の神話に登場する、時間を司る伝説のポケモンは――」
ピンポーン!
「ディアルガ!」
「正解!」
「問題! 特性『ばけのかわ』を持つ、ピカチュウに似た姿の――」
ピンポーン!
「ミミッキュ!」
「正解!」
出題されるたびに、私の指がボタンに触れるよりも早く、フェイが回答権を奪い去ってゆく。しかも、ジャンルを問わず全問正解。
「フフッ」
フェイは、自信満々の笑みをこちらに向け、小さく鼻で笑った。
(……っ、このキッズ、私を挑発しているの⁉)
完全に頭に血が上った。現クイズ王としてのプライドが、若き天才の不敵な態度に過剰に反応する。挑発に乗ったことで、私の集中力は極限まで高まり、ボタンを押し込むスピードがわずかに跳ね上がった。
「問題! 特製『ウルトラビースト』を持つウツロイドのタイプは――」
ピンポーン!
「おっと、ここでライ選手、回答権を奪い返した!」
「いわ・どく!」
「正解!」
よし、と心の中で拳を握る。フェイの方を見ると、彼女の目が、「いいじゃん!」とでもいうように|爛々《らんらん》と輝いた。
そこからのフェイのギアシフトは異常だった。
こちらの速度に合わせるように、さっきよりもさらに早く、目にも留まらぬ速さでボタンを押し始める。
「ここで前半戦終了ーっ! 中間結果が出ました! なんと、現クイズ王のライ選手を大きく引き離し、期待の天才クイズキッズ、フェイ選手が余裕のリードです!」
「ライ選手、大丈夫そうですか? かなり押されていますが!」
司会者からマイクを向けられ、私は完璧なクイズ王の|笑み《ファサード》を崩さないよう、必死に口角を上げた。
「あっはは。とても強いですね! さすが次期クイズ王と噂されるだけあります。私も負けていられませんね!」
テレビ用のコメントを笑顔で返しながらも、私の背中には冷や汗がびっしょりと伝っていた。
(マジでヤバい……。何なのあのキッズ。速度も知識も、完全に私の上を行ってる……!)
「はいカット。ここで一度、休憩をはさみまーす。休憩時間が終わったら、また収録を始めまーす。」
ディレクターや監督たちが、次の後半戦に向けて、準備を始める。
スタジオの照明が落とされ、私はふらつく足取りで楽屋へと戻った。
重い扉を閉めた瞬間、張り付いていた笑顔が消える。どっと押し寄せる疲労感と絶望感に、私はその場に膝をつきそうになった。
「はは……もう、終わりなのかな……」
大きなため息が口から漏れる。
31歳。寝る間も惜しんで勉強してきた。それでも、16歳の圧倒的な才能の前には無力だった。もう、この座を降りなければならないのか。肩を落とし、暗い床を見つめていると――。
ツン、と。
冷たくて固い何かが、私の右ほほに押し当てられた。
「ひゃうんっ⁉」
情けない変な声があがり、慌てて顔を跳ね上げる。
「あはは! ナイスリアクション!」
そこには、水色髪のポニーテールを揺らし、ケラケラと笑うフェイが立っていた。
「はいこれ、差し入れです!」
手渡されたのは、キンキンに冷えたラムネのガラス瓶だった。
私は動揺を隠すように、大人の余裕を取り繕って、力なく笑ってみせた。
「はは……ありがと。でも、君には負けたよ。私が負けた後、クイズ王になっても、次の挑戦者に簡単に負けるんじゃないぞ」
せめて最後くらい、先輩らしく格好をつけたかった。
しかし、私のその言葉を聞いた瞬間。
フェイの明るい笑顔が、まるで嘘のように、真顔でかき消された。
「……ライさんは、そんな人じゃないはずです」
「え……?」
あまりに真剣な声に、私の思考が止まる。フェイは私の目を真っ直ぐに見据え、一歩、足を踏み出した。
「ライさんはそんな人じゃないはずです!! 私がなんで、今までクイズを続けてきたと思いますか!? それは、ライ――あなたの隣に並ぶためですよ!!」
静かな楽屋に、彼女の叫びが響き渡る。
「こんなところで諦める人じゃないはずです! ライさんの本気を、私にぶつけてくださいよ! いまのライさんは、私のあこがれたライさんじゃないです! 本気で勝負するからこそ……『王』じゃないんですか⁉」
ガツン、と。
頭を殴られたような衝撃が走った。
(……そうだよな。私は一体、何を縮こまっていたんだ)
こんなキッズに、そんな熱い言葉で渇を入れられるようじゃ、クイズ王を名乗る資格なんて最初からおこがましい。
私は手元のラムネ瓶を一気に傾け、シュワシュワと弾ける炭酸ごと、弱気な自分を飲み干した。
「……わかった。よし、本気でぶつかれ! そして、私を倒してみせろ!その代わり、私も負ける気はないからな!」
「えへへ、それでこそライさんですよ!」
フェイは満足そうに微笑むと、「ちょっとトイレ行ってきますね!」と言って、軽い足取りで楽屋を出て行った。
残された私は、もう一度自分の顔を両手で叩く。私の目に、現クイズ王としての、本物の『|真実《ライト》』の輝きが戻っていた。
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「さあ、後半戦が始まります! 現クイズ王がこのまま王座を明け渡すのか、あるいはここから奇跡の巻き返しを見せるのか⁉ 期待の天才クイズキッズが歴史を塗り替える瞬間を、我々は目撃することになるのかーっ⁉」
スタジオに鳴り響く司会者の絶叫と、地を震わせるような大歓声。
回答席に立つ私の胸の奥では、さっきまであった冷たい焦燥感は消え失せ、代わりに心地よい熱がパチパチと火花を散らしていた。
視線を正面に向ける。
対面の回答席には、先ほどと変わらぬ水色髪のポニーテール――フェイが立っている。
「……行くぞ、フェイ。君の憧れた、本気の私を見せてやる」
私が心の中でそう呟いた瞬間、後半戦の第一問目が読み上げられた。
「問題! ポケモン『ウソッキー』が、バトル中にみずタイプの技を受けると、通常の岩タイプとは異なり――」
--- ピンポーン! ---
凄まじい電子音がスタジオに響く。
ボタンを押したのは、私だ。フェイのボタンが光るより、コンマ数秒早かった。
「……っ、ライ選手、一歩早い! 回答をどうぞ!」
「特性『みずがため』ではなく、本来のいわタイプであるため、効果は抜群になります! ただし、その擬態に惑わされ、くさタイプと誤認してほのおタイプの技を撃つのは悪手です!」
「正解――!!見事に解説まで!」
わっと湧き上がる歓声。
私は流れるように次の問題へも手を伸ばした。
ここからは、現クイズ王としてのプライドを賭けた独壇場だった。
ポケモンたちの生態、特性、歴史、数値にいたるまで、脳内に叩き込んだ知識の濁流が、そのまま私の指先へと直結していく。
ピンポーン!「正解!」
ピンポーン!「これまた正解! クイズ王ライ、怒涛の連続正解だーっ⁉」
フェイのポイントを、私のメーターが猛烈な勢いで追い上げていく。
ちらりとフェイの方を見た。彼女は、楽しそうに、けれどどこか生気のない無機質な笑顔を浮かべたまま、ただじっと私を見つめている。
(……待っててね、フェイ。君が本気でぶつかってきてくれたから、私は今、ここに立てている)
そう。休憩室で、冷たいラムネ瓶を私の頬に押し当てて、真剣な目で怒ってくれた彼女がいたから。
『私のあこがれたライさんじゃないです!』
あの言葉が、私の張り付いた|笑み《ファサード》を打ち砕き、本物のクイズ王の魂を呼び覚ましてくれたのだ。
「さあ、泣いても笑ってもこれが最終問題! 現在、両者完全に同点! この一問を制した者が、栄光のクイズ王となります!」
静まり返るスタジオ。
勝負の瞬間が訪れる。
「問題。その姿はまるで別のポケモン。しかし、正体を見破ろうと中身を見ようとした者は、謎の病に苦しむと恐れられ――」
問題の途中で、私はすべての思考を爆発させてボタンを叩きつけた。
――ピンポーン!!
赤白の縞模様のスーツの袖が、きれいに宙を舞う。
私の席のランプが、激しく明滅していた。
「ライ選手、ボタンを押した! 回答を!」
「……ミミッキュ!!」
一瞬の静寂。
そして――。
「正解ーーーーーーっ!!!二回目のミミッキュが答えの引っかけに乗らず! 勝者、クイズ王、ライ!! 王座死守です!!」
紙吹雪が天井から舞い散り、鼓膜が破れんばかりの拍手がスタジオを包み込む。
私は大きく息を吐き出し、天を仰いだ。勝った。ボロボロになりながらも、私は「本物の王」として、彼女の憧れのままでいられたのだ。
胸の中に、フェイへの深い感謝が溢れてくる。
ありがとう、フェイ。君のおかげで、私はまだ戦えるよ。
私は最高の笑顔を浮かべ、感謝を伝えるために、隣の回答席へと振り返った。
「フェイ、最高の勝負をありがと――え?」
私の言葉が、途中で凍り付いた。
フェイのいた回答席。
そこには、パーカーを着た、しかし**全身がドロドロの紫色の粘状に溶けかけた、不気味な生き物**が立っていた。
「モン、モモン……」
点のような丸い目が、頼りなく私を見上げる。
それはフェイではない。フェイの姿に化けていた、一匹の『メタモン』だった。メタモンは、私の圧倒的な気迫と正解の連発に気圧され、維持していた変身のエネルギーを保てなくなってしまったのだ。
「え……? あ、あれ……?」
私がパニックに陥っていると、スタジオの重い防音扉がバタンと勢いよく開いた。
「ライさーん! トイレ混みすぎてて今戻りましたーっ! って、えええええ!? 私の席にいるの、何ですかそれーっ!?」
廊下から息を切らせて走ってきたのは、水色のポニーテールを揺らした、本物のフェイだった。
「……じゃあ、後半戦の、あの圧倒的な強さは?」
「モンモン?(ドロドロ)」
「……じゃあ、私が本気で戦い、勝ち倒した、この『ライバル』の正体は?」
きらびやかな照明の下、私と、本物のフェイと、力なく溶けていくメタモンだけが、騙し絵のようなステージの上で、ただ呆然と立ち尽くしていた。
ファサード・クエスチョン 完
中途半端な終わり方かな?
とにかく、最後まで見てくれてありがとう!
じゃあね。