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5 いざ、公爵邸へ! 2
「よくおいでくださいました、シェファルーダ伯爵、伯爵夫人」
私たちがメイドに連れられて屋敷の中に入ると、ポッコリおなかのルーヴェン伯爵と思われる優しそうなおじさんが出てくる。
(……? あれ、このおじさん、私には挨拶しなかったぞ??)
「こんにちは、久しぶりですね、ルーヴェン伯爵」
「ごきげんよう、ルーヴェン伯爵」
私がむすっとしていると、お母様にとんとん、と背中を押される。
「食事の準備は整っています、シェファルーダ伯爵。では、こちらへどうぞ」
「ありがとうございます、伯爵」
お父様がそう言うと、ルーヴェン伯爵はにこにこと頷いた。
私たちはそのまま屋敷の奥へ案内される。
廊下には赤い絨毯が敷かれ、壁には絵画が飾られていた。
私は思わずきょろきょろする。
「リュミリー」
「はい」
「落ち着きなさい」
お母様に注意された。
おかしい。
だって見るもの全部珍しいのだから仕方がない。
「お金持ちですね……」
ぼそりと呟く。
「聞こえるわよ」
お母様が即座に返した。
「だってお金持ちです」
「ルーヴェン家も楽ではないのよ」
「本当ですか?」
「リュミリー、少し、静かにしてちょうだい」
お母様に怒られた。
そんなこんなで大きな扉の前で足が止まった。
使用人が両開きの扉を開く。
その瞬間。
私は固まった。
長いテーブル。
並ぶ料理。
焼きたてらしいパン。
スープ。
肉料理。
魚料理。
野菜料理。
果物。
(裕福じゃねえかぁあああ!!!!)
本当は叫びたかったけれど、我慢した。
でも、よく考えてみてほしい。
我が家は領民も何もなく、家しかない。なのに、この屋敷より大きくとも、舗装がない。
この金持ち加減よ。本当に。
そのうえ。
人までいる。
たくさんいる。
テーブルの向こう側には、私と同じくらいの年頃に見える男女が三人ほど座っていた。
全員、きちんとした服を着ている。
きちんとした姿勢で座っている。
しかも笑顔だ。
怖い。
何が怖いって、あまりにもちゃんとしすぎている。
私なんてさっきまで、帰りたいです、を三回は言っていたのに。
「紹介しよう」
ルーヴェン伯爵が穏やかな声で言った。
「妻のマリアだ」
「初めまして、リュミリーさん。遠いところをよくいらしたわね」
優しそうな伯爵夫人が微笑む。
「は、初めまして」
慌てて頭を下げた。
よかった。
普通に優しそうな人だ。
「そして長男のロイド」
「初めまして」
「初めまして」
「次男のエリオット」
「どうも」
「どうも」
「長女のミリア」
「お会いできてうれしいです」
「私もです」
私は順番に挨拶を返していく。
そして思った。
(まだ家族いたんですね……)
多い。
家族が多い。
我が家だけだったら半分も埋まらない。
そんなことを考えていると、ミリア嬢が不思議そうに首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「いえ」
私は首を横に振った。
「家族がたくさんいるなあ、と」
食堂が静かになった。
あれ。
おかしい。
私、何か変なこと言っただろうか。
するとルーヴェン伯爵が吹き出した。
「あははは!」
そして豪快に笑い始める。
「そうか。シェファルーダ家は一人娘だったね」
「あ、はい」
「なるほどなあ」
何がなるほどなのだろう。
よく分からない。
だが場の空気は和らいだらしい。
私は少しだけ安心した。
「では食事にしよう」
ルーヴェン伯爵の言葉で、使用人たちが料理を運び始める。
私はその様子を見て、再び固まった。
料理が増えた。
増えたのである。
さっき見えていた量でも十分多かったのに、さらに増えた。
「……」
「どうしたの、リュミリー」
お母様が小声で聞く。
私は真顔で答えた。
「まだ出てくるんですか?」
「出てくるわよ」
「お祭りですか?」
「違うわ」
信じられなかった。
ルーヴェン領では毎日がお祭りなのだろうか。
すると目の前に焼きたてらしいパンが置かれる。
いい匂いがした。
私は思わず目を輝かせる。
「焼きたてです」
「焼きたてだね」
お父様が頷く。
「焼きたてなんですよ」
私は感動した。
少なくとも、公爵邸に着くまでは、私は幸せでいられる。