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目次
1 手紙
「お嬢様、おはようございます」
「おはようネアス。今日も……」
「雪でございます」
寒い。
ただ、寒いだけの地域の領主、わたくし、没落令嬢のリュミリー=シェファルーダです。
いつも雪が降っているだけ、領民もいない。
貴族とは言えないようなひどい暮らしをしていた。
とはいえ、王国から派遣されたメイドと執事が一人ずつ、それに優しいお父様とお母様と暮らしている。
なぜ生きていけるかって?
そんなの、シェファルーダ家の執念たる畜産と家庭栽培だ。
家の中は一応邸宅なので、暖炉ぐらいはある。
私が生まれるよりも前に、一階の使われていなかった部屋を改造して、温室――家庭栽培園――としたらしい、母が。
そのおかげで我が家はどうにかこうにか生き延びている。
じゃがいも、にんじん、少しだけ、玉ねぎ。
たまに果物。
ごくたまに花。
領民がいないので税収もなく、金鉱もなく、特産品もない。
あるのは雪だけ。
本当に雪だけ。
私は十八年間、この領地で生きてきたが、未だにこの雪が何の役に立つのか理解していない。
「お嬢様、朝食の準備が整いました」
背後からネアスが声をかける。
王都から派遣されたメイドであり、今や家族同然の存在だ。
年齢は二十代半ばくらいだろうか。
私が物心ついたころからずっといる。
「今日の朝食は?」
「パンでございます」
「やった!」
「ただし昨日の残りでございます」
「……」
「それと温室のいちごジャムでございます」
「やった!」
私は単純だった。
食堂へ向かうと、お父様とお母様その後ろに執事のバルトがすでに席についていた。
「おはよう、リュミリー」
「おはようございます、お父様」
「よく眠れたかい?」
「……」
「寒いものね」
「……はい、寒かったです」
会話が終わった。
だって本当に寒かったのだから仕方がない。
お父様も反論できないらしい。
シェファルーダ領は王国最北端。
王都の人間からは、白の果て、などと呼ばれている。
なんだか神秘的な呼び名だが、住んでいる側からすれば、寒くて貧乏なだけの土地、である。
「そうだ、リュミリー」
パンをちぎりながらお父様が言った。
「……手紙が届いていてね」
私は手を止めた。
「……寄付のお願いですか?」
「違う」
「税金の催促ですか?」
「違う」
「領地放棄の勧告ですか?」
「なぜそんなものばかり思いつくんだ」
お父様が悲しそうな顔をした。
だって我が家に来る手紙なんて、大体ろくでもない内容なのだから。
すると父は一枚の封筒を取り出し、私の前に置いた。
「何ですか? これ、見ていいんですか?」
「ああ」
私が封蝋をべりっと剝がすと、「もう少し、丁寧に開けたら?」とお母様からお咎めを受けてしまった。
「ごめんなさい」
私がすっと手紙の中身を取り出すと、それは見たこともないほど上質な羊皮紙だった。
そして冒頭には、公爵家の紋章。
私はぱちりと瞬きをした。
「……公爵家?」
思わず声に出る。
シェファルーダ家よりも何十倍、いや何百倍も格上の家だ。
そんなところから我が家に手紙など届くことがあるのだろうか。
不審に思いながら読み進める。
そして。
「……えっ」
固まった。
もう一度読む。
「えっ?」
三度目を読む。
「ええっ!?」
私の叫び声が食堂に響いた。
「どうしたんだい、リュミリー」
お父様が苦笑する。
どうしたもこうしたもない。
手紙にははっきりと書かれていた。
――シェファルーダ家令嬢
リュミリー=シェファルーダ殿
貴殿をアルヴェルディア公爵家との婚姻対象として選定した。
婚約および今後の手続きについては、
来訪後に説明するものとする。
アルヴェルディア公爵家当主
クラウス=アルヴェルディア
「婚約!?」
私は椅子から立ち上がった。
「こんなの絶対に間違いです!」
「落ち着きなさい」
お母様が紅茶を口に運ぶ。
いや、落ち着いていられるわけがない。
相手は公爵家だ。
王国でも五本の指に入る名門。
対するこちらは雪しかない貧乏領地の没落貴族である。
比べることすらおこがましい。
「だってお母様! 公爵家ですよ!?」
「そうね」
「我が家ですよ!?」
「そうね」
「雪しかありませんよ!?」
「それもそうね」
お母様は妙に冷静だった。
私は助けを求めてお父様を見る。
しかしお父様は視線を逸らした。
嫌な予感がした。
とても嫌な予感である。
「……お父様?」
「実はね」
「はい」
「この手紙だけじゃないんだ」
さらにもう一通、封筒が差し出された。
私は震える手で受け取る。
恐る恐る中を見る。
そこに書かれていたのは。
――婚約の件について了承を得られる場合は、
来週中に迎えの馬車を送る。
私はゆっくり顔を上げた。
「了承を得られる場合は、ですね」
「ああ」
「つまりまだ断れるんですね」
「……ああ」
少し安心した。
本当に少しだけ。
だが次の瞬間。
「もっとも」
お父様が気まずそうに咳払いをする。
「既に我が家は了承の返事を送ってしまった」
静寂。
暖炉がぱちりと鳴った。
私は数秒間、お父様を見つめた。
そして口を開く。
「お父様」
「なんだい」
「私、今なら雪だるまを作る要領で人を埋められる気がします」
「やめなさい」
お母様に止められた。
前も何かの小説で手紙って題名のやつ作った気がする(作ってません。)
まあ、どうせ復讐の月夜で父様って題名のやつ2つあるしいっkk((殴
2 朝食
《前回のあらすじ》
豪雪地帯に住む没落令嬢の私、リュミリーが、なんと!!
かの有名な五大公爵のクラウス様に婚約の申し込み(を手紙で)されてしまった!!!
どうなるの、私!?!?
「私、今なら雪だるまを作る要領で人を埋められる気がします」
「やめなさい」
お母様に止められた。
「あの、お母様、お父様? もう、百歩譲ってわかりました、わかりましたから、聞きたいのですが、クラウス様? のところへはネアスは連れていけますか!」
「ダメです」「ダメだ」
即答プラス声を揃えて却下された。
私は思わず机を叩いた。
「なぜですか!?」
「公爵家に派遣メイドを連れていけると思うかい?」
お父様が真顔で言う。
「思います!」
「思うのか……」
「だってネアスがいないと私、王都の生活とかわかりませんし!」
「リュミリー様」
ネアスがお茶を注ぎながら微笑んだ。
「わたくしを何だと思っていらっしゃるのですか」
「万能メイドです」
「そうでございますね」
否定しなかった。
認めるんだ。
「ほら! ネアスもそう言ってます!」
「ネアス」
お母様がため息をつく。
「甘やかしすぎです」
「申し訳ございません」
まったく申し訳なさそうではなかった。
私はネアスに救いを求める視線を向ける。
すると彼女は少しだけ考えてから言った。
「お嬢様」
「はい」
「公爵家にもメイドはおります」
「そんな……」
「しかも優秀です」
「そんな……!」
追い打ちだった。
「それに」
ネアスは続ける。
「お嬢様も十八歳になられました」
「なりました」
「そろそろお一人でできることを増やすべきかと」
ネアスににっこりと威圧感のある笑顔で微笑みかけられさっと収縮する。
「ネアス、少し態度が悪いですよ」
「申し訳ございません、奥様」
本当に申し訳なく思ってなさそうだ。
ネアスにまで諭されてしまった私は、ぐったりと椅子にもたれかかった。
味方がいない。
味方がひとりもいない。
「というか、私、本当に行くんですね……」
今さらながら確認するようにそう言うと、お父様は苦笑した。
「その予定だよ」
「まだ信じられないんですが」
「私たちもだ」
それはそうだろう。
突然、公爵家から婚約話が来たのだ。
しかも相手は五大公爵の一人。
どう考えても釣り合っていない。
「でも、どうして私なんでしょう」
誰に聞くでもなく呟いた。
雪しかない領地。
没落寸前の家。
社交界にも出ていない私。
そんな令嬢を選ぶ理由が思いつかない。
お母様も首を横に振った。
「それは向こうに聞いてみないと分からないわね」
「怖いこと言わないでください……」
私だって気になる。
気になるが、聞くのも怖い。
もし、適当に選んだ、などと言われたら泣く。
「クラウス様という方は、どんな方なんですか?」
すると、お父様は少しだけ考え込んだ。
「優秀だとは聞くね」
「はい」
「かなり」
「はい」
「とても」
「それ以外は?」
「知らない」
私は真顔になった。
「知らないんですか」
「知らない」
駄目だ、この人。
お父様は領地の管理以外驚くほど世間に疎い。
いや、そもそも管理する領民すらいないのだが。
「お嬢様」
ネアスがお茶を置きながら口を開いた。
「王都では氷の公爵、とも呼ばれているそうです」
「氷」
嫌な予感しかしない。
「冷酷だからですか?」
「冷静沈着だから、とも」
「つまりどっちなんですか」
「わかりません」
結局分からなかった。
「嫌です。私は長女として、お父様の後を継ぎます!」
「リュミリー、もう了承してしまったんだ。何を言っても、もう……」
「無駄な足掻きよ」
お母様の言葉は残酷だった。
「私の人生が勝手に決められていく……」
「貴族らしいじゃないか」
お父様が言った。
「我が家にそんな貴族らしさ要ります?」
「たしかに」
納得しないでほしい。
しばらく食堂に重い沈黙が流れる。
いや、重いのは私だけかもしれない。
お父様とお母様はいつも通り朝食を続けている。
ネアスは紅茶を注いでいる。
バルトは壁際に立っている。
私だけが人生最大の危機に直面していた。
「ちなみに」
私は顔を上げた。
「迎えっていつ来るんですか?」
お父様とお母様が顔を見合わせた。
嫌な予感がする。
非常に嫌な予感がする。
「明日だ」
「え?」
「明日」
私は瞬きをした。
理解が追いつかない。
明日?
今、お父様は明日と言ったのか?
明日?
その明日?
「明日ですか!?」
思わず立ち上がる。
椅子が派手な音を立てて倒れた。
「そうだ」
「準備期間は!?」
「今日だ」
「短すぎません!?」
お父様は少し申し訳なさそうな顔をした。
本当に少しだけ。
「返事を出してから少し経っていてね」
「返事を出したの、お父様ですよね?」
「そうだが?」
「埋めてもいいですか?」
「よくない」
当然のように却下された。
私は頭を抱える。
明日。
明日にはこの家を出る。
生まれてから十八年間暮らした領地を離れる。
雪しかないが、それでも故郷だ。
そこまで考えたところで、胸の奥が少しだけ苦しくなった。
そんな私の様子に気づいたのだろう。
お母様が優しい声で言う。
「そんな顔をしなくても大丈夫よ」
「お母様……」
「婚約が決まったわけじゃないもの」
私は顔を上げた。
そうだ。
よく考えれば、まだ婚約したわけではない。
会いに行くだけだ。
たぶん。
きっと。
おそらく。
「……本当にですか?」
「ええ」
お母様は微笑む。
「もし相手が気に入らなかったら帰ってきなさい」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
すると。
「ただし」
お母様が続けた。
嫌な予感がした。
「公爵様の前で失礼なことはしないように」
「当たり前です」
「初対面で雪に埋める発言は禁止です」
「当たり前です」
「氷みたいな顔ですね、も禁止です」
「言いません」
「冷たそうですね、も禁止です」
「言いませんってば」
「怖そうですね、も禁止です」
「私を何だと思ってるんですか!?」
食堂に笑い声が響いた。
でも、私だけが笑えなかった。
なぜなら明日には、その本人と会うことになるのだから。
よく考えたら復讐の月夜で朝食ってやった気がするんですけど!?!!?
わつぃがつける題名が簡素すぎてタヒぬwww