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2 朝食
《前回のあらすじ》
豪雪地帯に住む没落令嬢の私、リュミリーが、なんと!!
かの有名な五大公爵のクラウス様に婚約の申し込み(を手紙で)されてしまった!!!
どうなるの、私!?!?
「私、今なら雪だるまを作る要領で人を埋められる気がします」
「やめなさい」
お母様に止められた。
「あの、お母様、お父様? もう、百歩譲ってわかりました、わかりましたから、聞きたいのですが、クラウス様? のところへはネアスは連れていけますか!」
「ダメです」「ダメだ」
即答プラス声を揃えて却下された。
私は思わず机を叩いた。
「なぜですか!?」
「公爵家に派遣メイドを連れていけると思うかい?」
お父様が真顔で言う。
「思います!」
「思うのか……」
「だってネアスがいないと私、王都の生活とかわかりませんし!」
「リュミリー様」
ネアスがお茶を注ぎながら微笑んだ。
「わたくしを何だと思っていらっしゃるのですか」
「万能メイドです」
「そうでございますね」
否定しなかった。
認めるんだ。
「ほら! ネアスもそう言ってます!」
「ネアス」
お母様がため息をつく。
「甘やかしすぎです」
「申し訳ございません」
まったく申し訳なさそうではなかった。
私はネアスに救いを求める視線を向ける。
すると彼女は少しだけ考えてから言った。
「お嬢様」
「はい」
「公爵家にもメイドはおります」
「そんな……」
「しかも優秀です」
「そんな……!」
追い打ちだった。
「それに」
ネアスは続ける。
「お嬢様も十八歳になられました」
「なりました」
「そろそろお一人でできることを増やすべきかと」
ネアスににっこりと威圧感のある笑顔で微笑みかけられさっと収縮する。
「ネアス、少し態度が悪いですよ」
「申し訳ございません、奥様」
本当に申し訳なく思ってなさそうだ。
ネアスにまで諭されてしまった私は、ぐったりと椅子にもたれかかった。
味方がいない。
味方がひとりもいない。
「というか、私、本当に行くんですね……」
今さらながら確認するようにそう言うと、お父様は苦笑した。
「その予定だよ」
「まだ信じられないんですが」
「私たちもだ」
それはそうだろう。
突然、公爵家から婚約話が来たのだ。
しかも相手は五大公爵の一人。
どう考えても釣り合っていない。
「でも、どうして私なんでしょう」
誰に聞くでもなく呟いた。
雪しかない領地。
没落寸前の家。
社交界にも出ていない私。
そんな令嬢を選ぶ理由が思いつかない。
お母様も首を横に振った。
「それは向こうに聞いてみないと分からないわね」
「怖いこと言わないでください……」
私だって気になる。
気になるが、聞くのも怖い。
もし、適当に選んだ、などと言われたら泣く。
「クラウス様という方は、どんな方なんですか?」
すると、お父様は少しだけ考え込んだ。
「優秀だとは聞くね」
「はい」
「かなり」
「はい」
「とても」
「それ以外は?」
「知らない」
私は真顔になった。
「知らないんですか」
「知らない」
駄目だ、この人。
お父様は領地の管理以外驚くほど世間に疎い。
いや、そもそも管理する領民すらいないのだが。
「お嬢様」
ネアスがお茶を置きながら口を開いた。
「王都では氷の公爵、とも呼ばれているそうです」
「氷」
嫌な予感しかしない。
「冷酷だからですか?」
「冷静沈着だから、とも」
「つまりどっちなんですか」
「わかりません」
結局分からなかった。
「嫌です。私は長女として、お父様の後を継ぎます!」
「リュミリー、もう了承してしまったんだ。何を言っても、もう……」
「無駄な足掻きよ」
お母様の言葉は残酷だった。
「私の人生が勝手に決められていく……」
「貴族らしいじゃないか」
お父様が言った。
「我が家にそんな貴族らしさ要ります?」
「たしかに」
納得しないでほしい。
しばらく食堂に重い沈黙が流れる。
いや、重いのは私だけかもしれない。
お父様とお母様はいつも通り朝食を続けている。
ネアスは紅茶を注いでいる。
バルトは壁際に立っている。
私だけが人生最大の危機に直面していた。
「ちなみに」
私は顔を上げた。
「迎えっていつ来るんですか?」
お父様とお母様が顔を見合わせた。
嫌な予感がする。
非常に嫌な予感がする。
「明日だ」
「え?」
「明日」
私は瞬きをした。
理解が追いつかない。
明日?
今、お父様は明日と言ったのか?
明日?
その明日?
「明日ですか!?」
思わず立ち上がる。
椅子が派手な音を立てて倒れた。
「そうだ」
「準備期間は!?」
「今日だ」
「短すぎません!?」
お父様は少し申し訳なさそうな顔をした。
本当に少しだけ。
「返事を出してから少し経っていてね」
「返事を出したの、お父様ですよね?」
「そうだが?」
「埋めてもいいですか?」
「よくない」
当然のように却下された。
私は頭を抱える。
明日。
明日にはこの家を出る。
生まれてから十八年間暮らした領地を離れる。
雪しかないが、それでも故郷だ。
そこまで考えたところで、胸の奥が少しだけ苦しくなった。
そんな私の様子に気づいたのだろう。
お母様が優しい声で言う。
「そんな顔をしなくても大丈夫よ」
「お母様……」
「婚約が決まったわけじゃないもの」
私は顔を上げた。
そうだ。
よく考えれば、まだ婚約したわけではない。
会いに行くだけだ。
たぶん。
きっと。
おそらく。
「……本当にですか?」
「ええ」
お母様は微笑む。
「もし相手が気に入らなかったら帰ってきなさい」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
すると。
「ただし」
お母様が続けた。
嫌な予感がした。
「公爵様の前で失礼なことはしないように」
「当たり前です」
「初対面で雪に埋める発言は禁止です」
「当たり前です」
「氷みたいな顔ですね、も禁止です」
「言いません」
「冷たそうですね、も禁止です」
「言いませんってば」
「怖そうですね、も禁止です」
「私を何だと思ってるんですか!?」
食堂に笑い声が響いた。
でも、私だけが笑えなかった。
なぜなら明日には、その本人と会うことになるのだから。
よく考えたら復讐の月夜で朝食ってやった気がするんですけど!?!!?
わつぃがつける題名が簡素すぎてタヒぬwww