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#7 緊急合宿編②
合宿所の静かな夜を切り裂くように、正面玄関から激しい怒鳴り声が響いた。
「おい!#名前#を出せ!親に無断でこんな所に隠れやがって!」
#名前#の父親と、兄。二人はコーチや監督達のの静止を振り切り、狂ったように叫んでいる。
その声を聞いた瞬間、食堂で翌日の打ち合わせをしていた#名前#は、持っていた湯呑みを床に落とした。
「……っ、いや、……お父さん、たちが……っ」
ガタガタと全身が震え、過呼吸気味になる#名前#。
彼女の脳裏に、あの地獄のような日々の記憶がフラッシュバックする。
しかし、その震える肩を、大きな手がガシッと掴んだ。
「大丈夫だ。……行かせねぇよ」
岩泉だった。その横には、無言で殺気を放つ京谷と、冷徹な目で玄関を見据える国見がいる。
「#名前#ちゃん、奥の部屋で耳を塞いでて。……あとの|掃除《しまつ》は、おいかーさんたちに任せてね」
及川がいつもの軽薄さを完全に消し、氷のような微笑みを浮かべて玄関へと歩き出す。
その後ろには、騒ぎを聞きつけた他校の主将たち
――澤村、黒尾、北、木兎たちが、壁のように立ちふさがった。
玄関先では、#名前#の父親がさらに暴れていた。
「ガキどもがしゃしゃり出てんじゃねぇ!あれは俺たちの所有物なんだよ!金になるんだからよぉ!」
その言葉が終わる前に、
ドォォォォン!!
と、凄まじい衝撃音が響いた。
「所有物、ねぇ……。うちのマネージャーをそんな風に呼ぶ口、二度と開けないようにしてやろうか?」
二口を筆頭にした伊達工業の「鉄壁」が、物理的に玄関を封鎖する。
そして、その中央から悠然と現れたのは、スマートフォンを耳に当てた及川だった。
「……あ、もしもし?警察ですか?はい、合宿所に不審者が押し入ってきて暴力を振るっています
それと……先日相談していた『児童虐待および強制わいせつ』の証拠一式、
今ここで本人が自白したので、録音データも送りますね」
「なっ……テメェ!!」
殴りかかろうとした父親の腕を、岩泉が鋼のような力でねじ伏せる。
「……#苗字#の腕、見たぞ。あれだけの傷、全部お前らがつけたんだな」
岩泉の瞳に宿る、静かな、でも底知れない怒り。
その背後には、稲荷崎の北が冷ややかな声で付け加えた。
「あんたらの家の周り、もう息がかかった大人が固めてるで。逃げ場なんてどこにもあらへんよ」
数分後、赤色灯の光が合宿所を照らし、#名前#の家族は
引きずられるようにパトカーへと押し込まれていった。
嵐が去った後の静寂。震えが止まらない#名前#のもとへ、
及川が歩み寄り、自分の大きなジャージを彼女の頭からふわりとかけた。
「……もう、大丈夫。明日からは、追いかけられる夢じゃなくて、バレーの夢だけ見なよ」
#名前#は及川のジャージの袖を握りしめ、初めて
「生きていていいんだ」
という涙を流した。