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#8 安堵
パトカーのサイレンが遠ざかり、合宿所に重苦しい、でもどこかホッとしたような静寂が戻った夜。
#名前#はマネージャーの部屋の前で、糸が切れたように廊下に座り込んでいた。
及川から借りたジャージに顔を埋めて、声を殺して泣きじゃくっている。
「……いつまでそこで泣いてるの。通行の邪魔なんだけど」
少し低くて、温度の低い声。顔を上げると。
そこにはお風呂上がりなのか、少し髪の濡れた国見が立っていた。
「く、国見……くん……。ごめ、んなさい……すぐ、どくから……っ」
慌てて立ち上がろうとする詩だけど、足に力が入らなくて、またへなへなと座り込んでしまう。
そんな#名前#を、国見は無表情のまま見下ろしていた。
「……。別に、どけって意味じゃないし」
国見はため息をつくと、#名前#の隣にすとんと腰を下ろした。
普段、無駄な動きを嫌う彼が、ただ
「座る」
ためだけにその場に留まるのは珍しいことだった。
「……怖かったよね。あんな奴らが来たら、誰だってああなるよ」
「……わたし、……また皆に迷惑、かけて……。
あんなに|素敵な《いい》人たちが、わたしのせいで……人殺しみたいな目をして……」
「それは違う」
国見が、#名前#の言葉を遮った。
「みんな、#苗字#が自分を責めるのが一番ムカつくんだよ。……俺も」
そう言って、国見は#名前#のパーカーの袖から覗く、傷だらけの細い手首をじっと見つめた。
そして、触れるか触れないかのような優しさで、その上から自分の手を重ねた
「……今日の及川さんたちの怒り、見たでしょ。
……あの人たちが、あんな顔してまで守ったものを、
アンタが『汚い』とか『迷惑』なんて言っちゃダメだよ」
国見の指先は意外なほど温かくて。#名前#の目から、
今度はさっきの恐怖の涙じゃない、温かい涙が溢れ出した。
「……うん、……っ、ごめんね……国見くん……。ありがとう……」
「……謝るのも禁止。あと、そのパーカー」
国見は少しだけ気まずそうに視線をそらしながら、#名前#のブカブカのフードをくいっと引っ張った。
「……明日は、もう少し顔が見えるように着たら。
……及川さんたちが、また構いたくてうるさくなると思うから」
ぶっきらぼうだけど、彼なりの精一杯の励まし。#名前#は泣き笑いのような顔で、小さく
「……うん」
と頷いた。
遠くの角で、その様子をニヤニヤしながら盗み見していた及川が、
岩泉に
***「他人の時間をコソコソと盗み見してんじゃねぇよクソ川!!!」***
と怒鳴られて後頭部を思いっきりブッ叩かれるまで、二人の静かな時間は続いた。