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目次
#1 泣き虫マネージャー
「あ、の……っ。タオル、置かせて……いただきます……っ」
震える声でそう言いながら、#フルネーム#はカゴをベンチに置いた。
顔の半分を覆うような、サイズの合っていないブカブカの黒いパーカー。
フードを深く被り、裾からは指先が少し覗く程度。
その姿は、まるで大きな黒い布に包まれた小動物のよう。
「あ、#名前#ちゃん。ありがとね」
及川が爽やかな笑顔を向けると、#名前#の肩がビクッと跳ねた
「ひっ……! い、いえ! 失礼します……っ!」
脱兎のごとく走り去る彼女の目尻には、すでに大粒の涙がたまっている、
ただ挨拶されただけなのに、緊張と恐縮でパンクしてしまった。
「…及川。お前また#苗字#のこと泣かせたのか」
「ひどいよ岩ちゃん! 俺は普通にお礼言っただけなのに!」
岩泉にジロリと睨まれ、及川は心外そうに両手を上げた。
#名前#がマネージャーに入って数週間。彼女の「99%泣き虫」
な性格は、すでに部員全員の知るところとなっていた。
とにかく引っ込み思案で、自分を変えたくて入部したという決意とは裏腹に、
心はまだガラス細工のように繊細。
そんな彼女を見守る部員たちの視線は、意外にも温かいものだった。
「#苗字#、これ。使い終わったやつ」
「あ……国見くん……。あ、ありがと……う。あうっ……」
「……なんで泣くの。別に怒ってないし」
無気力なはずの国見が、#名前#が泣き出すと困ったように視線を泳がせ、金田一が慌てて
「おい国見! 言い方!」
とフォローに入る。それが最近の青城の日常だ。
練習が終わり、#名前#は体育館の隅で片付けをしていた。
相変わらず、季節外れの厚手の黒いパーカーを着たままだ。
「#名前#ちゃん、それ。暑くない?」
不意に、及川が横から声をかけた。ビクッと固まる#名前#。
でも、今日はすぐには逃げ出さなかった。
「……及川さん。あ、あの……」
「ん?」
「私…変わりたくて。ここに来れば、皆さんの強さをもらって、少しは……前を向ける気がして……」
パーカーの袖をぎゅっと握りしめ、下を向いたまま#名前#がつぶやく。
彼女がなぜ、頑なにそのパーカーを脱がないのか。
この暑い体育館で、なぜ自分を隠し続けるのか。
及川はあえてそこには踏み込まず、ただポンと彼女の頭(フードの上から)を叩いた。
「ま、コートに立つのも、自分を変えるのも、楽じゃないよ」
及川の瞳に、いつもの軽薄さはなく、エースセッターとしての鋭い光が宿る。
「でも、うちはコートの6人だけじゃないからさ。……マネージャーが泣いてばっかりだと、
俺たちが勝ったときに祝杯の代わりに涙の海になっちゃうでしょ?」
「……っ、ふぇ……。はい……っ。がんばり、ます……!」
また涙が溢れ、#名前#はパーカーの袖で目を拭った。彼女がその黒い服を脱いで、
本当の自分を見せてくれる日はまだ先かもしれない。
でも、青葉城西のメンバーたちは、彼女が
***「泣き虫なマネージャー」***
から一歩踏み出すのを、気長に、そして力強く待っているのだった。
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#2 ykdn事件
その日は、練習試合のあとのバタバタした片付け中だった。
「あ、あの……ボール、あと一個……探してきますっ……!」
#名前#はいつものように、ブカブカの黒いパーカーのフードを深く被ったまま、体育館の倉庫へと急いでいた。
視界が狭い上に、目に涙が溜まってて足元がよく見えてない。
曲がり角。そこに、ちょうどドリンクの空ボトルを運んできた国見がいた。
「わっ……!」「え、ちょっ――」
ドサッ、
と鈍い音がして、二人の体が重なるように床に倒れ込んだ。
……はずだったが、
#名前#がぎゅっと目を閉じて覚悟した衝撃は来なかった。
おそるおそる目を開けると、目の前には至近距離で、少し顔をしかめた国見の顔。
国見はとっさに手を突いて、#名前#を押しつぶさないように庇ってくれていた。いわゆる
「床ドン」の状態。
「…………#苗字#、危ないんだけど」
国見の低い声が、パーカー越しじゃなく、すぐ耳元で響く。
#名前#の心臓は、今までにないくらいバクバクと暴れ出した。
「ひっ……あ、あの、えっと……! ごめ、なさい……っ!」
パニックになって逃げようとするけど、国見の腕の中に閉じ込められた形になっていて動けない。
#名前#の目からは、いつものようにポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「……また泣く。わざとぶつかったわけじゃないんだから、泣かなくていいでしょ」
国見は呆れたようにため息をついた。でも、その目はいつもより少しだけ優しくて。
ふと、国見の視線が、#名前#の乱れたパーカーの襟元に向いた。
「…………!」
何かを見つけたのか、国見の動きが止まる。
至近距離で見つめ合って(#名前#は泣きじゃくってるけど)、静まり返る体育館の隅。
「おい国見ー! 片付けサボって何して……って、うわあああ!?」
そこに運悪く(?)、空気の読めない|金田一《きんだいち》が登場。
**「な、ななな、何してんだお前ら! |破廉恥《はれんち》だぞ! |及川《おいかわ》さーん! |岩泉《いわいずみ》さーん!!」 **
「__ちょ、うるさい金田一……っ。__これには事情が……」
慌てて飛び起きる国見と、顔を真っ赤にしてパーカーの中に完全に潜り込んだ#名前#。
結局、パーカーの理由は聞けずじまいだったけど、
国見の頭の中には、さっき一瞬だけ見えた「何か」が焼き付いて離れなくなった。
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短くてごめんなさい🙇♀️
#3 空気の読めない主将
「なになに!? 何の騒ぎー!? ……って、ええっ!?」
金田一の呼び声に応えて、及川がキラキラした(ニヤニヤした)笑顔で登場。
そして、床で固まってる国見と#名前#を見た瞬間、その目が獲物を見つけた猛獣みたいに輝いた。
「わあ……国見ちゃん、やるねぇ。練習中にそんな『青春』しちゃう?
マネージャーちゃんを床ドンで泣かせちゃうとか、及川さんそんな子に育てた覚えはないよ!」
「……育てられた覚えもないです。及川さん、うるさい...です。__ていうかウザ__」
国見が慌てて立ち上がって、服のシワを払うけど、耳がちょっと赤いのは隠せてない。
一方の#名前#は、もうパニックの限界。
ブカブカのパーカーの中に顔を全部引っ込めて、床にうずくまってブルブル震えてる。
「あーあ、#名前#ちゃん完全に隠れちゃったじゃん。ほらほら、国見ちゃんがイジワルするから!」
及川はそう言いながら、#名前#の隣にしゃがみこんだ。
「#名前#ちゃーん、大丈夫? 怖かったねぇ。……ねぇ、それよりさ。
そんなに必死に隠されると、お兄さん余計に気になっちゃうな〜w
そのパーカーの下、実はめちゃくちゃ面白いメッセージTシャツとか着てたりする?」
及川さんの細長い指が、#名前#のフードに伸びる。
「ひっ……! い、言えません……! ダメです、見ないで……っ、うわあああん!」
ついに#名前#の泣き声が「えぐえぐ」から「わーん!」にレベルアップ。
「クソ川、お前は泣かせすぎなんだよ。……#苗字#、ほら。立てるか」
そこに、呆れ顔の岩泉が来て、#名前#にそっと手を差し伸べる。
#名前#は岩泉の手にすがりつくようにして立ち上がると、そのまま一目散に部室の方へ逃げ出してしまった。
「……追いかけなくていいんですか、及川さん」
金田一が心配そうに言うと、及川は人差し指を口に当てて、
さっきまでの茶化すような態度とは少し違う、鋭い目で詩の後ろ姿を見送った。
「んー。今はいいんじゃない? ……でも、あの子が何に怯えて、
何を隠してるのか。……ちょっとだけ、本気で興味湧いてきちゃったな」
及川のその言葉に、国見が少しだけ不機嫌そうに目を細めたのを、|彼《及川》は見逃してなかった。
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1日三回更新はがちで草
#4 事件の予兆
「チッ、うぜぇ……。俺は俺のやり方でやるって言ってんだろ!」
体育館に京谷の怒鳴り声が響く。戻ってくるなり、
チームの決め事を無視して突っ走る京谷に、岩泉の堪忍袋の緒が切れた。
「チームの和を乱す奴は、コートに立つ資格ねぇって言ってんだよ!」
一触即発。及川ですら割って入るタイミングを計るような、凄まじい威圧感。
その時、震える小さな影が、二人の間にトテトテと割り込んだ。
「あ、あのっ……! 喧嘩は……だめ、です……っ。京谷くんも、岩泉さんも……」
#名前#だった。涙で目を潤ませながらも、必死に手を広げて二人を止めようとする。
けれど、頭に血が上っていた京谷には、その存在が目に入っていなかった。
「どけっ……!」
京谷が岩泉を振り切ろうと、思い切り右肘を引いた瞬間。
**――ゴッ**
鈍い音がして、#名前#の小さな体が床に弾き飛ばされた。
「……あ、……っ」
あまりの衝撃に、声も出ない。#名前#は口元を押さえてへたり込む。
指の間からは、真っ赤な血がポタポタと床にこぼれ落ちる
「おい、#苗字#!?」「#名前#ちゃん!」
全員が凍りつく中、岩泉が真っ先に駆け寄る。京谷も自分が何をしたか気づき、目を見開いて固まった。
「あ、うぅ……っ。ごめんな、さい……ごめんな……」
泣きながら謝り続ける詩を、岩泉が支えようと肩を抱き寄せた、
その時。
激しい動きに耐えきれず、ずっと彼女を守っていたブカブカの黒いパーカーの袖が、
肩からずるりと大きく捲れ落ちた。
「…………っ!!」
それを見た及川が、息を呑む。国見は目を見開き、金田一は絶句して一歩後退りした。
白すぎるほど白い詩の腕。そこには、新しいものから古くなって変色したものまで、
無数の「傷跡」が刻まれていた。
切り傷、痣、何かが擦れたような痕――。とても、ただの不注意でつくような量じゃない。
「……#苗字#。お前、これ……」
岩泉の声が震える。#名前#はハッとして、
血のついた手で慌ててパーカーを手繰り寄せ、傷を隠そうとした。
「ち、ちがうんです……! これは、その、わたしが……っ!」
ガタガタと震えながら、詩は誰の目も見れずにただ俯く。
練習中の活気は消え失せ、体育館は重苦しい沈黙に包まれた。
及川は、いつもの余裕のある笑みを完全に消していた。
国見は、さっき床ドンの時に見た「違和感」の正体がこれだったのかと、拳をぎゅっと握りしめる。
彼女がなぜ、自分を隠し続けていたのか。なぜ、泣き虫なほどに怯えていたのか。
その片鱗が見えた瞬間だった。
#5 地獄
及川の問いかけに、体育館の空気が凍りつく。
「……#名前#ちゃん。その傷、誰にやられたの?」
いつもの甘い声じゃない。
低く、地を這うような、逃げ場のない声。
#名前#はガタガタと震えながら、パーカーの袖を必死に掴んだ。
(言えない。言ったら、みんなに気味悪がられる。嫌われる。居場所がなくなる)
絶望が渦巻く中、ふと、部室の壁に貼られた言葉が脳裏をよぎった。
――『コートに、上を向かなくていい理由なんてない』
(……わたし、**変わりたい**から……。だから、言わなきゃいけないんだ……)
#名前#は意を決して、血の混じった唾を飲み込み、震える唇を開いた。
そこから溢れ出したのは、青城のメンバーが想像もしなかった「地獄」だった。
「これ、お母さんが……。機嫌が悪いと、いつも殴って、蹴って……。
『あんたなんて、産まなきゃよかった』『生きてるだけで汚らわしい』って、毎日……」
「……っ」
金田一が顔を背け、京谷が信じられないものを見るように目を見開く。
「それだけじゃなくて……。お金、足りなくなると……
『あんたの体くらいしか価値がないでしょ』
って、知らない大人の人のところに……『そういう仕事』に、無理やり……」
#名前#の声は、もう感情が枯れ果てたように平坦だった。
「お父さんと、お兄ちゃんも……。お母さんがいない時、
夜中に部屋に来て……気持ち悪いこと、いっぱい……。逃げたくても、
どこにも、私の味方なんて、いなくて……っ」
パーカーの下で、#名前#の指が自分の腕の傷を抉るように強く握られた。
「だから、ここに来れば……強くて、真っ直ぐな皆さんの隣にいれば、
私も少しは『普通』になれるかもって……。
でも、やっぱり、汚いですよね……。私、生きてちゃ、だめなんだ……」
言い終えると同時に、#名前#は糸が切れたように床に崩れ落ち、嗚咽を漏らした。
及川は絶句し、握りしめた拳から血が滲むほど強く爪を立てていた。
岩泉は、京谷がつけた口元の傷を拭うことすら忘れて、呆然と#名前#を見つめている。
国見は、呼吸すら忘れたような顔で、ただ#名前#の傷だらけの腕を凝視していた。
誰も、言葉が出なかった。高校生の彼らが知るはずもなかった、あまりにも残酷で救いのない現実。
「……誰が」
沈黙を破ったのは、及川だった。
「**誰が、生きてちゃだめなんて**言ったの。……そんなゴミみたいな連中、俺が絶対に許さない」
その瞳には、今までに見たこともないような、激しく、冷たい怒りの炎が宿っていた