公開中
幼馴染の王子様は、今日も素直になれない
放課後の薄暗い帰り道、アスファルトに伸びる二人の影を、夕暮れのオレンジ色が染めていた。
「……でさ、マジで瑠姫のおかげなんだよ。本当にありがと!」
隣を歩くもかが、満面の笑みでそう告げる。その晴れやかな笑顔を見た瞬間、白岩瑠姫は心の底で小さく自嘲した。――全部、自分のせいで掴み取らせた幸せなのに、どうしてこんなにも胸が痛むんだろう。
「……じゃあ、相談になんて乗らなきゃよかった」
不意に口をついて出た低く冷たい声に、もかは「え……?」と足を止めて、きょとんと瞬きをした。
瑠姫は歩みを止め、まっすぐに、隠し続けてきた感情をその瞳に宿して、もかを見据えた。
「俺のほうが、ずっともかのこと好きだったんだよ。気づいてなかったんだ、俺、もか以外の女子と話してないのに」
「えっ……? それは、瑠姫くんがモテすぎて女の子苦手だから、幼馴染の私と一緒なら話せるって……そう言ったじゃん……!」
戸惑い、混乱の色を浮かべるもかに、瑠姫はふっと息を吐き出して言った。
「それは、もかしか見てないから」
「……」
言葉を失うもかに構わず、瑠姫は胸の内に溜まっていた澱(おど)るような独占欲を吐き出していく。
「なんで今日、拓実の前で一緒に帰ろうなんて言ったの?」
もかが出し抜けに問い返すと、瑠姫は微塵も悪びれず、むしろ挑発的な笑みを浮かべた。
「んー。宣戦布告? あとは普通に、もかと帰りたかったから」
「ちょっと、拓実くんニコニコしてたけど、絶対怒ってたからね!?」
慌てふためくもかに対し、瑠姫はどこ吹いた風とばかりに言い放つ。
「いいじゃん。俺はもかと帰れなくて、ずーっと怒ってるよ。それに、拓実の家とは反対じゃん。俺と帰りなよ」
ツッコみきれずに言葉に詰まるもかは、ふと今日の昼間の光景を思い出し、少し呆れたように口をとがらせた。
「……そういえば、瑠姫くん今日、また下足箱のところで女の子に告白されてたよね」
「……見てたの?」
「だって、女の子泣いてたじゃん。また断ったの?」
少し怒ったような、でもどこか気まずそうなもかの問いに、瑠姫は当たり前だろ、と一蹴した。
「あたりまえじゃん」
「あんなにかわいい子なのに……」
「別に、どうでもいい」
「どうでも良くない! 告白って、めっちゃ勇気いるんだよ?」
もかのまっすぐな怒りに、瑠姫はほんの少しだけ視線を逸らし、小さく「……悪かったよ」と呟いた。
「……本当にわかってない。瑠姫くんが女の子の告白OKしてるところなんて、一度も見たことないもん」
ぽつりと零したもかの言葉に、瑠姫はもう、これ以上隠し通すのをやめた。
「――ずっと、もかが好きだったから」
「……え?」
夜の帳が下りる前の夕暮れ時、幼馴染の仮面を完全に脱ぎ捨てた瑠姫のまっすぐな声が、静かな空気に溶けた。
動揺で目を見開くもかを見つめながら、瑠姫は冷たく、そして切なく言い放つ。
「いつになったら、拓実と別れてくれるの?」
恋の相談から始まった、こじらせた幼馴染の片想いは、まだ終わらない。
むしろ、本当の戦いはここから始まるのだから――。