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5月ー太陽の下で 特別編②(葵目線)
特別編第二弾です!これで一旦葵目線は終わりです。
次は6月編に入ります。
「私は、舞ちゃんの便利屋じゃない!!」あんなに大きな声を、人生で初めて出した。自分のものとは思えない鋭い言葉が図書室の壁に跳ね返るのを聞きながら、私は震える手でスクールバッグを掴んだ。引き留めようとする舞ちゃんの声を振り切って、逃げるように部屋を飛び出す。夕暮れの廊下を、涙で視界を滲ませながら全力で走った。校門を抜けて、誰もいない住宅街の路地裏まで来て、ようやく壁に背中を預けてへたり込む。「……ひっ、う、うあぁ……っ」バッグを抱きしめたまま、声を上げてボロ泣きしてしまった。怒りで頭がどうにかなりそうだった。だけど、涙と一緒に怒りが引いていくと、今度はものすごい後悔と恐怖が押し寄せてくる。(言っちゃった……。あんなに酷いこと、言っちゃった……)便利屋だなんて、本当は一度も思ったことはなかった。舞ちゃんが私を心の底から信頼して、大好きな「相棒」として頼ってくれているのは誰よりも分かっていたはずなのに。それなのに、自分の臆病さのせいで溜め込んできた不満を、全部舞ちゃんのせいにしてぶつけてしまった。『舞ちゃんは、思ったことを何でも言えて、強引に人を引っ張っていけて、いいよね』頭の中で、さっき自分が吐き出したトゲだらけの言葉が何度も何度もリフレッシュされて、自分の心を突き刺す。あんなの、ただの八つ当たりだ。舞ちゃんのあの明るさと強さに、私は何度も救われてきたのに。私はなんて最低なことを言ってしまったんだろう。思ったことを何でも言える舞ちゃんなら、きっと私のことなんて、もう大嫌いになったに違いない。「もう顔も見たくない」って言われたら、私はどうしたらいいんだろう。せっかくできた、世界で一番大切な友達を、私は自分の手で完全に壊してしまった。上を向くと、五月の終わりの夕空が、まるで私の心を見透かすように冷たい紫色へ着替えていくところだった。◇翌朝、教室の空気は最悪だった。重い足取りで席に着き、恐る恐る声をかける。「舞ちゃん、おはよう」「……おはよ」舞ちゃんの声は、今まで聞いたことがないくらい低くて、素っ気なかった。やっぱり、怒っているんだ。昨日の私の言葉に、傷ついて、呆れているんだ。私はそれ以上何も言えなくなって、すぐに前を向いた。おろしたての教科書を机に広げるけれど、文字なんて一文字も頭に入ってこない。授業中も、休み時間も、うちらの間に会話は一切なかった。いつもなら、授業が終わるたびに後ろから「葵ー!」と肩を叩かれていたのに。今は、背中に刺さるような沈滅がただただ苦しくて、私は頑なに後ろを振り返ることができなかった。お昼休みのチャイムが鳴った瞬間、私は逃げるようにお弁当箱を掴んで席を立った。一人で机に向かっている舞ちゃんの顔を見るのが、怖かったから。他の大人しい子たちのグループの隅っこに混ぜてもらい、味のしない卵焼きを静かに口に運ぶ。(もう、今までみたいな関係には戻れないんだ……)胸の奥に冷たい石を詰め込まれたような感覚のまま、何気なく自分の席の方を振り返った、その時だった。「ちょっと、そこの特攻隊長」ハキハキとした大きな声が、教室の向こうから聞こえた。見ると、ハーフアップにした髪を揺らした坂井凛さんが、私の空いている席にガタッと腰掛けているところだった。凛さんは気が強くて、体育祭でもクラスを大声で引っ張っていた、私とは正反対の目立つ女の子。凛さんは私のお弁当箱があった場所に自分の肘を乗せると、舞ちゃんに向かってズバズバと何かを言い始めた。舞ちゃんは一瞬、気まずそうに私の方を見たけれど、すぐに凛さんの言葉に「バカって言うな!」と言い返し始めた。そこからの二人のやり取りは、遠くから見ていても分かるくらい、テンポが良くて、真っ直ぐだった。凛さんが舞ちゃんのお弁当箱に何かを放り込む。舞ちゃんが怒ったように唐突に笑う。二人が、お互いに一歩も引かないまま、本音をぶつけ合って大爆笑している。(……羨ましいな……)遠くからその光景を見つめながら、胸の奥がチリチリと焼けるように痛んだ。凛さんは、私みたいに「嫌われたくない」からって変に気を遣ったり、言いたいことを我慢して溜め込んだりしない。思ったことをその場でハキハキと言える、舞ちゃんと同じ強さを持っている。私は舞ちゃんに嫌われるのが怖くて、ずっと『物分かりの良い良い子』の仮面を被って、無理をして、勝手に限界になって爆発してしまった。だけど凛さんは、最初から全力でぶつかって、喧嘩になりそうな距離感なのに、舞ちゃんをあんなに笑顔にさせている。私がどれだけ夜遅くまで本を読んで特訓メニューを作っても、どれだけ荷物を持っても、舞ちゃんにあんな風に「遠慮のない、本当の笑顔」をさせてあげることはできなかった。私じゃ、舞ちゃんの本当の相棒にはなれなかったんだ。舞ちゃんの隣にいるべきなのは、私みたいな中途半端な臆病者じゃなくて、凛さんみたいな強い子だったんだ。そう思うと、悔しくて、羨ましくて、自分が情けなくて、また涙が零れそうになった。移動教室のすれ違いざま、一瞬だけ舞ちゃんと目が合った。舞ちゃんと凛さんは、あの白紙の学級日誌を挟んで、楽しそうに笑い合っていた。私には一度も見せたことがないような、お互いに背中を預け合える、本当の「相棒」の姿がそこにはあった。私は、たまらなくなってすぐに視線を落とした。声をかける勇気も、隣に戻る資格も、今の私にはもう、どこを探しても見つからない。凸凹だけど最強の相棒になれたはずの、うちらの5月。私は自分のスクールバッグの紐をぎゅっと握りしめ、前だけを見て歩く。梅雨の気配を孕んだ冷たい風が、私の頬を通り過ぎていく中、うちらの距離は二度と交わらないまま、雨の季節――6月へと、時だけが進んでいくのだった。
読んでくださりありがとうございます!
葵目線はこれからもちょこちょこ作っていくかもです。
これからはまた舞目線に戻り新しいストーリーがやってきます。舞と凛の関係もお楽しみに!
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