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6月番外編その1
6月に入った途端、学校の窓の外は、毎日どんよりとした灰色に着替えて、容赦のない雨を降らせ始めた。衣替えで新しくなった夏服の半袖セーラーは、雨の湿気のせいでなんだか少し肌寒い。だけど、私の心をそれ以上に冷たく冷え切らせていたのは、教室の中の空気だった。「――はい、じゃあテスト返すぞー」担任の高橋先生ののんきな声とともに、初めての定期テストが返却された。教室内は一瞬にして、歓声と悲鳴がごちゃ混ぜになったお祭り騒ぎに変わる。私は自分の、ほぼ満点に近い高得点の答案を抱えながら、そっと、斜め後ろの席へと視線を向けた。いつもなら。4月の頃の舞ちゃんだったら、テストが返ってきた瞬間に「葵〜! 助けて!」って私の背中を突っついてきてくれたはずだった。私が作った対策ノートを一緒に見ながら、他愛のないおしゃべりで笑い合えていたはずだった。だけど、今の舞ちゃんの隣の席には、ハーフアップの髪を揺らした坂井凛さんが、当然のような顔で座っていた。「よっしゃあーーー!! 見たか凛! 私が本気を出したらこんなもんよ!」「はぁ!? あんたあんなに古文呪文って言ってたじゃん! 意味分かんないんだけど!」二人がバチンとハイタッチをして、大爆笑している声が聞こえる。舞ちゃんの手にある答案を見れば、私のノートなんてなくても、自力で泥臭く猛勉強して、驚くほど良い点数を取っていた。(……私がいなくても、舞ちゃんは大丈夫なんだ)胸の奥に、冷たい雨水がじわりと染み込んでいくような感覚がした。あの図書室での大喧嘩以来、うちらの間には会話の「か」の字もない。舞ちゃんにとっては「そういえば最近話してないな」くらいの些細なことかもしれないけれど、私にとっては、自分の世界の半分が失われたような、そんな重い沈黙だった。「ま、喧嘩なんて放っとけばそのうち治るでしょ。それより舞、次の時間は席替えよ!」凛さんのカラッとした声が響く。席替え――その言葉に、私の心臓が小さく跳ね上がった。神様がいるなら、もう一度、舞ちゃんを私の後ろの席にしてください。そうすれば、私、今度こそ無理をしないで、ちゃんと言いたいことを言えるから。だけど、現実はどこまでも甘くなかった。ガラガラと三角くじを引いた結果、窓際の一番後ろの席で「よっしゃあああーーーっ!!」と大はしゃぎする舞ちゃんの声が響いた。舞ちゃんが引いたのは、凛さんのすぐ隣の席。そして私が引いたのは、教卓側の、舞ちゃんからは一番遠い、教室の反対側の席だった。「やったじゃん凛! これで授業中いつでも喋り放題じゃん!」「バカ、授業中は大人しくしなさい」楽しそうに机をガタガタと移動させて、当然のように並んで座る二人。今まで私の特等席だった、舞ちゃんの真っ直ぐな背中を見つめられる場所は、もう別の誰かのものになってしまった。物理的にも、私と舞ちゃんの距離は、完全に離れてしまったのだ。新しい席に着いた瞬間から、舞ちゃんは隣の凛さんと楽しそうにマシンガントークを炸裂させている。「ねえ舞、せっかく隣になったんだからさ、ペンケースお揃いにしない?」「いいねそれ! じゃあ購買のパンを食ったあとにそのまま行こ!」本音を隠さず、ズバズバと言い合える二人の時間は、遠くから見ていても分かるくらい、新しくて、すごく楽しそうだった。気を遣うこともなく、何を言っても笑い飛ばせる凛さんの存在が、舞ちゃんをさらに輝かせている。机の上にポツンと置かれた、私のペンケースを見つめる。私がどれだけ夜遅くまで本を読んで特訓メニューを作っても、どれだけ荷物を持っても、舞ちゃんにあんな風に「遠慮のない、本当の笑顔」をさせてあげることはできなかった。私じゃ、舞ちゃんの本当の相棒にはなれなかったんだ。夕空がどんどん暗くなり、窓ガラスをザーザーと激しい雨が叩き始める。進んでいく、舞ちゃんと凛さんの新しい毎日。私は、新しくなった自分の席から動けないまま、クシャリと自分の答案用紙を強く握りしめた。胸の奥に芽生えた、消えないトゲのような羨ましさと嫉妬が、痛いくらいに疼いていた。(つづく)
新シリーズは架空日記系を作りたいなと思っています。
ただ面白みがなさそうなやつができそうなので悩み中です。ファンタジー書くのは苦手だし大人の世界仕事とかがどんな感じかわからないのであんまり書けないというのが現実です。
それか私の中学受験の経験踏まえつつ書くかー小学校時代のこt、、、嫌なことしかないな迷いますね。