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5月ー太陽の下で④
喧嘩した二人。その後学校では、、、?
図書室での大喧嘩から、次の日。教室の空気は、五月の爽やかな青空とは裏腹に、凍りつくように冷え切っていた。「舞ちゃん、おはよう」「……おはよ」朝、席に着いたときの挨拶。いつもならそこから「今日の古文マジで寝そう」とか、他愛のないおしゃべりがノンストップで始まるはずだった。だけど今日は、それきり。葵はすぐに自分のスクールバッグから教科書を取り出すと、前を向いたまま、頑なに後ろを振り返ろうとしなかった。授業中も、休み時間も、うちらの間には会話の「か」の字もない。前の席の葵の背中が、いつもよりずっと遠く、分厚い壁のように感じられた。(……あーもう、なんなのよ。怒りたいのは私の方だってば)ノートにシャーペンを擦りつけながら、私は唇を噛みしめる。嫌なら嫌って言えばいいじゃん。勝手に溜め込んで、勝手に爆発して距離を置くなんて、やっぱり理不尽だ。だけど、そんなイライラの後ろ側で、胸の奥がキュッと萎んでいくような寂しさがあるのも事実だった。お昼休みになり、いつもなら2人で机をくっつけてお弁当を食べる時間。葵はチャイムが鳴ると同時に、お弁当箱を抱えて、すっと教室を出て行ってしまった。きっと、他の大人しい子たちのグループに混ぜてもらいに行ったのだろう。「……はぁ」私は一人、自分の机でお弁当のフタを開けた。4月の入学したての一人ぼっちだった頃に戻ったみたいだ。いや、あの時よりも、今のほうがずっとお弁当が砂みたいに味気ない。「ちょっと、そこの特攻隊長」上から降ってきたハキハキとした声に、私はハッと顔を上げた。そこに立っていたのは、ハーフアップにした髪を揺らし、腰に手を当てて私を見下ろしている女の子だった。同じクラスの、坂井凛(さかいりん)ちゃん。確か、体育祭の全員リレーでも一際大きな声で指示を出していた、ちょっと気が強めで目立つタイプの女の子だ。「坂井、さん……?」「凛でいいよ。っていうかさ、あんた何その死にそうな顔。体育祭で派手にすっ転んだときの方が、まだマシな顔してたわよ」凛はそうズバッと言うと、私の前の席――つまり、葵の空いている椅子をガタッと引いて、当然のように腰掛けた。「え、ちょ、そこ……っ」「あー、日向さん? 彼女ならあっちの席で別の子と食べてるわよ。あんたたち、分かりやすいくらい喧嘩中でしょ。教室の空気、地味にピリピリしてて迷惑なんだけど」「う……」痛いところを突かれて、私は言葉に詰まる。だけど凛は、私のお弁当の中身をジロジロと見て、「へえ、お肉いっぱいで美味しそうじゃん」と唐突に笑った。「あんたさ、思ったこと何でも言うし、強引だし、ガサツだけど……体育祭のとき、転んだ子のこと庇って自分がケガしたでしょ。私、そういう真っ直ぐなバカ、嫌いじゃないのよね」「……一言多くない? あとバカって言うな!」「事実でしょ? ほら、私の卵焼きあげるから、その神妙な顔やめなさいよ。似合わない」凛はそう言って、私のお弁当箱に黄色い卵焼きをポンと放り込んできた。あまりのテンポの良さと強引さに、私は唖然とする。でも、その卵焼きを口に放り込むと、甘くてめちゃくちゃ美味しかった。「なによそれ! じゃあ私の唐揚げもあげるわよ!」「もらう。あ、この唐揚げ、ちょっと味濃くて美味しい!」「でしょ!? うちのママの得意料理なんだから!」気づけば、私はさっきまでのドス黒いモヤモヤを忘れて、凛と大笑いしていた。「あ、そうだ。凛、ちょっとこれ見てよ」私は机の横にかけてあった、あの白紙の学級日誌を凛に見せた。「これ、高橋先生に『今週中に反省欄を綺麗にまとめて出せ』って言われてんだけどさ。何書けばいいか全然分かんなくて。なんか良いアイデアない?」すると凛は、日誌をチラッと一瞥して、鼻で笑った。「は? そんなの『みんなガサツなアンカーに巻き込まれて大変でした』って書けば一発じゃん」「ちょっと!! それ私のことでしょ!?」「冗談よ。……うーん、だったら『ハプニングはあったけど、一致団結して全力で駆け抜けた、凸凹だけど最強の体育祭でした!』って書けば? あんたたちの学級目標、これだし」「……え」凛がサラッと言い放った言葉は、驚くほど的確で、しかも格好良かった。「何それ、天才じゃん……。凛って意外と頭いいのね」「『意外と』は余計。あんたが単純すぎるだけ。ほら、分かったなら早く書きなさいよ。シャーペン貸してあげるから」「あ、ありがと。じゃあ、凛の言う通りに書くわ!」本音を隠さず、ズバズバと言い合える凛との時間は、新しくて、すごく楽だった。「それは違う」と思ったらその場で怒ってくるし、私も我慢せずに言い返せる。たまにガチで小競り合いにもなるけれど、次の瞬間には「ねえ、購買行こ」って笑い合える。葵に拒絶されて傷ついていた私の心が、凛のカラッとした強引さに、どんどん救われていくのが分かった。◇それから、5月の終わりまでの数日間。私は凛と一緒に過ごすことが多くなった。クラスのみんなも、うちらの新しいコンビにすっかり馴染んでいく。だけど、授業が始まるチャイムが鳴って、葵が自分の席に戻ってくるたび。私の視線は、どうしても彼女の細い背中へと向かってしまう。一度、移動教室のすれ違いざまに、葵と一瞬だけ目が合った。葵は私と凛が日誌を挟んで大笑いしている姿を見て、ほんの少しだけ寂しそうに視線を落とした――ような気がしたけれど、すぐに前を向いて通り過ぎていった。声をかけるきっかけも、かける言葉も、もう見つからない。4月の桜の季節に、凸凹だけど最強の相棒になれたはずのうちら。だけど、もう、今までのような関係には戻れない。お互いに背中を向けたまま、うちらの5月は終わりを告げ、少しずつ雨の季節――6月へと、時だけが進んでいくのだった。
読んでいただきありがとうございます!どうでしたか?
ちなみに6月編に入る前に舞と別れた(?)葵目線の番外編を書きたいと思ってるのでお楽しみに〜!
(まとめて投稿してしまいすみません、、ためてました)