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カリスマわん太
わん太
その最上階のラウンジで、わん太は静かにコーヒーを飲んでいた。
犬のような名前だが、人間だ。
二十代 細身。ぼさぼさの黒髪。
そして何より――異様に人を惹きつけるカリスマを持っていた。
ネットではこう呼ばれている。
「レミリアの継承者」
本人は否定もしない。
むしろ利用していた。
「つまり、“地下格闘トーナメント”をやるってこと?」
向かい側に座る男、すてとは眉をひそめた。
IT企業
ステトホールディングス
の若き社長すてと
動画配信、AI広告、ゲーム事業で急成長した成金だった。
「そう」
わん太は薄く笑う。
「配信込みでやる。違法じゃないギリギリを攻める」
「ギリギリって言い方怖いな……」
「スポンサーになってくれれば、世界が変わる」
「世界?」
「熱狂が金になる時代だよ、社長」
三か月後。
湾岸倉庫を改造した巨大会場。
観客一万人。
違法でも合法でもない曖昧な空気。
そのイベント名は――
ステトBEAST nakitomea
格闘家、配信者、元傭兵、インフルエンサー。
なんでもありの大会だった。
スポンサー欄には大きく表示される。
『SUPPORTED BY STETO』
配信は世界中でバズった。
コメント欄は狂乱。
「演出エグい」
「これ地上波無理だろ」
「スポンサー正気か?」
だが、数字は出た。
投げ銭。広告。会員課金。
数億円規模。
すてとは笑いが止まらなかった。
「成功だ……! 上場も夢じゃない!」
しかし、その裏で。
わん太は別の人物と接触していた。
薄暗い廃ビル。
ノートPCの光だけが部屋を照らす。
「準備は?」
わん太が尋ねる。
椅子に座る女が答えた。
「いつでも」
そのハンドルネームは
Lemonade。
ネット上で暗躍する謎の集団だった。
「本当にやるの?」
「もちろん」
「死ぬ人が出るかもよ」
わん太は無表情で窓の外を見た。
「炎上には、火薬が必要だ」
大会決勝戦当日。
会場は異様な熱気に包まれていた。
その時だった。
突然、全スクリーンが切り替わる。
ノイズ。
赤い画面。
意味不明な映像。
そして大音量。
観客が悲鳴を上げる。
大きな爆発が起こる。
同時に、都内各地の通信障害。
銀行システムダウン。
株価暴落。
SNSには一斉投稿。
『STETOは世界を支配しようとしている』
『証拠を公開する』
偽造データが拡散される。
会場はパニックになった。
三日後。
ニュースは
ステトホールディングス
の話題一色だった。
「危険企業」
「反社会的イベント」
「テロへの関与疑惑」
スポンサーは撤退。
株価は暴落。
社員は逃げ出した。
すてとは記者に囲まれる。
「違う! 俺じゃない!」
「大会に関与してましたよね?」
「スポンサーしただけだ!」
「ではなぜシステム権限を持っていたんですか?」
「知らない! そんなの……!」
だが世間は信じない。
炎上は止まらなかった。
一方その頃。
海外の高級ホテル。
わん太は夜景を眺めながらワインを回していた。
モニターには送金完了の通知。
総額、47億円。
隣でLemonadeの女が笑う。
「全部あいつのせいにしたわけだ」
「人は“悪そうなやつ”を信じる」
「怖い男」
「違う」
わん太は静かに言った。
「これはビジネスだ」