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6話「カンスト9999」
学園の最上階、重厚な生徒会室の空気が、パチパチと音を立てて爆発しそうだった。
「さあ、御堂綾くん。君の持つスコア『9242』、すべて僕のシステムに統合させてもらおう」
白一色のデスクに座る前生徒会長、神代景(かみしろ けい)が、ガラスのようなライトグレーの瞳をネオン色に明滅させて微笑む。彼が指を鳴らした瞬間、室内の全モニターに表示された全校生徒のバッジが、不気味に赤く明滅し始めた。
俺が負ければ、学園の全員が文字通りの奴隷(家畜)になる最悪のデスゲーム。
「綾くん……っ」
隣で神代玲奈が祈るように、俺の、色素の抜けきったプラチナホワイトの髪を見つめる。
「神代景。お前はAIの査定が『絶対』だと信じ込んでいる。でもな――」
俺は一歩前へ出た。第一ボタンまでキッチリ閉めた制服の胸元で、【9242】のバッジが狂ったように暴力を孕んで輝く。
前髪の隙間から覗く、俺のガラスのようなライトブルーの瞳が、決戦の歓喜でバイオレットの電子色にギラリと変色した。
「お前が作ったそのシステムそのものが、最初から『ウソツキ』なんだよ」
俺は手元のスマホの画面を強くタップした。
**バチバチバチバチッ!!!!**
室内の全モニターが、一瞬で真っ黒に暗転する。
「なっ……何をした!?」
初めて景の顔から余裕の笑みが消え、その瞳が驚愕に細くなった。
「一ノ瀬を倒したときに、彼のサーバーを伝って学園AIの基幹ログにウイルスを仕込んでおいた。さらに如月院先輩との尋問ゲームで、俺たちの脳波を同期させたシステムそのものの『査定基準』をハックしたんだ。……神代景、お前が半年前に神代玲奈を陥れたときの『音声改ざんのログ』、今、全校生徒のスマホに一斉送信したぞ」
暗転したモニターに、半年前に景が一ノ瀬に命じてデータを偽造させた、決定的な証拠映像が次々と浮かび上がる。
「AIは正直だ。お前という管理者が『最大の不正者』であると判定した瞬間、お前のスコアの根拠はすべて消滅する!」
『警告:管理者の不正を検知。スコアを――』
無機質なアナウンスが響き、景の胸元の【9999】が激しく点滅し、急降下を始める。
勝負はついた。そう確信した、次の瞬間だった。
「……ハハ、ハハハハ! さすがだね、綾くん。だけど、僕が何の手札も残さずに、ここで大人しく引き下がると思ったかい?」
景が血の気の引いた顔で狂おしく笑い、デスクの裏にある隠し物理レバーを強引に引き下げた。
**ガガガガガッ!!!**
『緊急事態(コード・レッド):基幹システムを強制ロック。学園スコアの全変動を3カ月間凍結します』
「なっ……システムを物理的に凍結したの!?」
神代玲奈が叫ぶ。
「この学園のAIは僕の所有物だ。判定は覆せなくても、時間を稼ぐことくらいはできる! 綾くん、玲奈、僕のスコアが完全にゼロになるカウントダウンは止まらない。だけど……それが完全に執行されるのは、3月の『卒業式』のあの日だ」
景の胸元の数値が【3521】という中途半端な数字でピタリと静止する。
「それまでの数ヶ月間、僕は学園の闇に潜伏し、総力を挙げて君たちのウイルスをパッチ(修復)させてもらうよ。……本当の決着は、3月まで持ち越しだ」
プツン、と室内の照明がすべて落ちる。
非常用電源に切り替わった淡い赤光の中、デスクの向こう側にいたはずの神代景の姿は、影のように完全に消え去っていた。
「逃げられたわ……。あいつ、どこへ……!」
玲奈が悔しそうに拳を握りしめる。
だが、俺は暗闇の中で、第一ボタンまで閉めた制服の襟を正し、静かに口角を釣り上げた。
ガラスの瞳が、これまでにないほどドロドロとした歓喜でバイオレットに明滅する。
「構いませんよ。システムのアカウント権限の半分は、すでに僕がハッキング(乗っ取り)しています。3月までの数ヶ月間……じっくりとあの『偽神』を追い詰める、最高に濃い鬼ごっこを始めましょう」
ここから、学園全体を巻き込んだ、神代景との泥沼の潜伏・追跡戦が幕を開ける。
——本日の観測を終了。戦闘を追跡戦に変更。
次回、「神代家の因縁」