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目次
第一話 「草薙野御神」
神様と、巫女の、お話。
ある雨の日。
巫女をしている私はいつもの神社へ訪れた。
ここには、草薙野御神(くさなぎののみかみ)が祀ってある。
彼は、荒れ果てた原野や植物の成長を司る神だ。
私は神社の中を掃除して、賽銭箱の中を確認した。
この聖泉神社は、この町ではかなり有名な神社だ。
聞いた話によると、草薙野御神様は、何百年も前、酷い水不足に襲われて食物や草木が全く成長しなくなってしまった時、この町を助けてくれたそうだ。
「どうせ、本当にいるわけないよね。」
私はそう言って、軽く掃除を終えた後、参拝者を待った。
雨の日はなかなか参拝者が来ない。
世間から見てそうそう大きな神社ではないため、雨の日にわざわざやってくる参拝者は少ないのだ。
私が賽銭箱の隣あたりで待っていると、頭に何者かの声が響いた。
「そんなところに立っていたら濡れるだろう。」
聞き覚えのない声。
私は相手が誰なのか全くわからなかった。
すると声はさらに、
「私は草薙野御神だ。ここで働いている巫女ならわかるだろう。」
と続けた。
私は意味がわからなかった。
草薙野御神という存在が、本当にいたのだという真実に。
すると彼は、
「お前がいつもこの神社で働いていることは知っている。いつも見ていた。」
と、ストーカーのようなセリフを言った。
私はなんとも言えず、一歩後退りした。
すると草薙野御神はこう続けた。
「お前は私の恩恵を受け、神の継ぎ子になる気はないか。」
私は少し迷ったが、草薙野御神は町を救ったと言われている存在。
恩恵も受けられるなら悪いことはないだろうと思い、了承した。
すると草薙野御神は言った。
「これから私のことは『草薙』と呼べ。」
と。
神をそんなふうに呼んでいいのかと迷ったが、本人からの指定なので従うことにした。
すると彼は私に名を聞いてきた。
私が『神木 真芽』と答えると草薙は
「これから私は、お前のことを真芽と呼ぶ。」
と言ってきた。
想像していたより、ずっと距離感の近い神だ。
私はこれからどうなるのだろうか。
第二話 「神の養女になりました」
「はぁ……。」
私は、どうしたものか。とでも言いたそうなようにため息をついた。
なぜなら、草薙にやたらと気に入られてしまったらしいのだ。
私は平凡な日常を送りたかった。が、今の状況は平凡には程遠い。
すると草薙が近づいてきた。
そして、
「真芽。私の養女にならないか?」
とめちゃくちゃなことを言ったのだ。
私は一瞬頭が混乱で真っ白になった。だが、しばらくすると冷静に考えられるようになった。
私はそもそも親がいない。捨てられて、施設に引き取られたのだ。
そして施設から逃げ出し、ここの宮司である加田(かだ)さんに頼み込んで巫女として働かせてもらえることになったのだ。
私はしばらく考えた末、それを了承した。
そして草薙に、
「苗字はこれからどうすれば良いのか。」
と聞くと、草薙は、
「決まっているだろう。これからお前は草薙真芽だ。」
ときっぱりと言い放った。
私はこれからの自分の人生がどうなるのか頭の中で想像し、仕事や家はどうなるのだろうかと考えた。
草薙はまるで私の思考を読み取ったかのように、
「お前の仕事は巫女。そして家は、この神社に変わる。当たり前だろう、この神社が私の家なのだから。」
と答えた。
……この神社でこれから生活することになるのを、神が実際に見えない加田さんにどう説明しようか。
当たり前なんだろうが、神の養女としてやっていくのはなかなか大変なことなんだと実感した。
どうやら、草薙が私の借りているアパートの部屋から荷物を神社に移動させてくれるらしいので引越し業者に頼む必要はないみたいだ。
草薙は家事ができる……のかな?
全部任されちゃうかもな……。
そう心の中で言いながら、草薙の転送によって内装が変わって行く神社の中を見つめた。
……ほんとに、加田さんにどう説明しよう。
第3話 「転校確定」
神の養女になってから一日が経った。
私は、明日から学校だということを思い出した。
でもこの神社は決して私の家から近いわけではなく、今は夏休み、学校の日は放課後に自転車でこれていたのだ。
だがこれからはこの神社が家になる。
この神社の場所が校区外から出てしまっているため、ここに住むなら転校が必要になってくる。
……待てよ。
新しい学校の先生方との顔合わせの際、保護者を連れて行かなければいけないが、草薙を連れて行って大丈夫なのだろうか。普通の人間には見えないだろう。
そこで私は思いついた。
なんとか加田さんに状況を説明し、加田さんに来てもらおう。
そして、行事などの日は草薙も一緒に連れてきてもらうのだ。
…加田さんに草薙は見えないだろうけど。
私が1人で長々と考え事をしていると、後ろから草薙が話しかけてきた。
どうやら、転校についての話らしい。
転校するのは、近くの霊楼学園。
よくあそこの生徒たちがこの神社に願い事をしに来るため、存在は知っていた。
だが、相変わらず派手というか、なんとも言えないオーラを放っていそうな学校だな……。
私のこれからの学校生活は一体どうなることやら。
すると加田さんがやってきて、私の手元にある資料を見て言った。
「そこ、俺の母校。」
………はぁ?
第4話 「新しいクラス」
あれから一日経った。
私は、加田さんの母校であり、私の新しい学校である霊楼学園に到着した。
まずは図書室で話をしようとのことだったので、図書室に行った。
そこには、この学校の校長と教頭、それから私の担任と思われる女性の先生がいた。
とりあえず自己紹介をしないと。
「こんにちは、聖泉学園から転校してきます、神木……いや、草薙真芽と言います!」
そういうと、先生たち三人は『元気が良くてよろしい』と言って笑顔を見せた。
悪くなさそうな学校だ。
私は教室に案内された。
教室にはまず担任教師が入り、転校生のお知らせを伝える。
クラスの中から聞こえてくる声からして、私の新しい担任は『宮原』というそうだ。
私は先生に呼ばれたため、教室の中に入った。
今日からのクラスメイトたちの視線が私に集まる。
私はたくさんの視線に圧倒されて押し潰されそうになりながら自己紹介をした。
ひとまず、最大の難関は超えられた……。
今日の授業は、あえて1、2時限目を転入生交流会にしているようだ。
ありがたいが、いろんな感情が頭に浮かんできた。
交流会……、か……。
第5話 「新入生交流会」
私は先生に案内され、席に座った。
隣に座っているのは、冷たそうな男子だ。
私は昔から視線が苦手なため、彼が睨んでくるとサッと目を逸らしてしまった。
そして、1限目開始のチャイムがなった。
私はクラスメイトと一緒に体育館に移動した。
これから交流会が始まるようだ。
私はこういうことがあまり好きではないのだが、先生に、『主役は真芽さんです!』と言われてしまったためもう逃げられない。
最初はドッジボールから。
私は運動神経が良い方なので、相手チームから投げられたボールをサッとキャッチした。
クラスメイトたちは、『運動神経が良い転校生が来た!』と笑顔で騒いでいる。
なぜか私は、視線や集団行動が苦手なのに、運動が得意なのだ。
しばらくドッジボールを続けていると、どうやら終わったようだ。
結果は私のチームの勝利。
まだ、クラスの人の名前を誰1人とて覚えられてはいないが、いい人たちなのだろう。
そして、他の授業もざっと受けた。
2限目は他のクラスメイトたちの自己紹介で、隣の男子は陽軽というらしい。
私は他の授業を受けてから、神社に帰った。
いろいろなことがありすぎて疲れていたので、私はいつの間にか眠っていた。
……まさか、目覚めた時に草薙が真横にいるとは思いもせずに。
第6話 「草薙の料理」
私が目を覚ますと、真横には草薙がいた。
ふと近くの机を見てみると、草薙が作ったであろう料理が並んでいた。
神って料理できるのか。と思いながらも台所をのぞいてみると、私が全く知らない食材ばかりだった。
神は人間の食材を使うことはないのかな。
私が一口食べると、一瞬頭が真っ白になった。
確かに美味しい。
美味しいのだが、食べたことのない味だった。
神の味覚がどんなものなのか気になるところだが、この味は一体なんなのだろう……。
でも、数百年前からいるとされている神だ。
昔の人たちが食べていた味だったりするのかな。
すると草薙は、数百年前、村人を助けた時にもらった食べ物の味だと教えてくれた。
完璧に再現できるところがすごかった。
植物関連の神だというし、農業や植林を助けたのだろうか?
そんなことを思いながら食べていると、いつの間にか食べ終わっていた。
私はお風呂に入ったあと、用意されていた敷布団に入って眠りについた。
さっきまで寝ていたはずなのに、自然と眠気が込み上げてきて眠ることができた。
神の養女ってこんな感じなんだなぁ……。
第7話 「神の母親できました」
私は二日目の学校から帰ってきた。
神社に入り、自室の扉を開ける。
すると、草薙が真剣な顔で私を待っていた。
どうしたのかと聞くと、草薙が、
「いいか真芽。私は結婚することにした。」
と言い出した。
神同士で結婚するのかな?
そう考えていると、草薙が結婚の真相を語ってくれた。
理由は二つあり、一つ目は純粋に相手の神様に惹かれたこと。
二つ目は、私のことを考えて、血は繋がっていなくとも母親を用意したほうが良いのではと思ったから。
らしい。
私はそれを聞いて少し嬉しくなった。
だが、相手の神様はどんな人なんだろうと気になってきた。
どうやら、1時間後に顔合わせらしい。
私は急いで制服から私服へ着替え、身なりも綺麗にした。
私はただの人間だが、神の養女。
しかもこの辺りで有名な神の。
だから、せめて格好くらいはちゃんとしておかないとダメだと思った。
草薙は、『別にどんな格好でもいい』と言っていた。
だが私としては、なるべく綺麗な格好で草薙の結婚相手の方と会いたかったのだ。
……神って結婚式とか挙げたりするのかな…?
でも、神は籍を入れる必要ないだろうし楽だよね。
そしてあっという間に時間になった。
私と草薙は、少しの間だけ神社をお休みにして、隣町の神社へ訪れた。
そこには、ものすごく綺麗で優しそうな女性の神様がいた。
彼女はどうやら、この町の綺麗な水を保ち、生命を見守る神様だそうだ。
草薙の役目である、植物の成長を見守ること。
それと、この神様の生命を見守ることは確かに共通点があり、もしかしたら、あの水不足で食物が育たなくなってしまった時も協力したのだろうか。
……あれ、水不足……。
当時、この方に何かあったのだろうか。
といろいろな考えを張り巡らせていると、その神様が、
「初にお目にかかります、私は水歌命(スイカノミコト)と申します。これからは気軽に『水歌』とでもお呼びください。」
と丁寧にお辞儀をしていった。
また家族が1人増えたなぁ……。
それに、家族が全員神様の人って、私以外いないんじゃないかな……。
第8話 「幸せな生活」
私に母親ができてからしばらくが経った。
いつものように学校に行き、帰ってきた。
私は畳の上に座って宿題を始めた。
今日の宿題は難しかったが、案外すぐに終わった。
普通の学校なら今日は休みなのだろう。
でも私は今日も学校だ。
この霊楼学園は少し特殊だった。
土曜に学校に来なければいけない代わり、日曜と月曜が休みなのだ。
なぜ1日ずれているのかはわからない。
クラスメイトたちに聞いても、わからないようだった。
そしてできた宿題をランドセルに入れて、リビングへ移動した。
するとそこには、もう水歌がいた。
水歌は自分の神社から離れてしまって大丈夫なのだろうか。
それを水歌に伝えると、どうやら、神は神社に直接いなくとも、身代わりの札を残しておけば自由に移動して大丈夫なんだそう。
私はそれを聞いて驚いた。
だって神は、自分の神社から動けないと思っていたから。
だから、水歌が母親になると知った時も、あの神社から動かず、たまに会う感じなんだろうなと思っていた。
今日はせっかくなので、水歌の料理らしい。
草薙のとはまた少し違う味や見た目をしていて、新鮮味があった。
一般人だった頃の生活にはもう戻りたくないなと思った。
まぁ、一応人間のままだし戻らなくて良いのだが。
第9話 「草薙の失踪」
私はいつも通り学校から帰ってきた。
そして、リビングの扉を開けた。
するとそこには、普段いるはずの草薙がいない。
いるのは、私の母である水歌だけ。
水歌に、草薙はどうしたのかと聞いてみた。
どうやら、外に出て行ったきり帰ってこないらしい。
マジか、嫁置いて遠出した挙句どっか行くのか。
まぁ、草薙の性格上あり得る。
草薙はめちゃくちゃ中身がアレだ。
見た目だけは美しく、どこかのアイドル事務所にいそうな雰囲気を放っている。
だが、プライベートだと非常に自由奔放な性格であり、気づけばどこかへ消えている。
だがこのままだと水歌が可哀想なので探しに出ることにした。
私なら大丈夫だろうと思ってしばらく歩き回って居たら、謎の男に声をかけられた。
一緒に道案内をしてくれと言ってくる。
私は大体わかった。
誘拐しようとしてる。
そのくらいなら簡単にわかる。
だが、私が「今急いでいるので」と伝えると、男の雰囲気が一変した。
無理やり車に乗せてくる。
助けを呼ぼうとあたりを見渡したが、こんな時に限って誰も居ない。
私は謎のガスを吸わされ、意識が遠のいてきた。
草薙め、次、会ったら、一発殴って____。
あ。
第10話 「閉じ込められた」
「ん、んぅ……。」
目が覚めた。
あたりを見渡したが、特に何もない。
足枷などもついておらず、いわゆる軟禁状態である。
部屋から出ようとしたが、当たり前に鍵がかかっている。
すると、次第に足に痛みが出てきた。
どうやら、あの時吸わせられた謎の薬品か何かのせいで感覚が麻痺していたようだ。
血が出ていて腫れている。
大切に育てられた常人よりかは痛みには慣れているが、このままだと大変なことになると言うことはわかる。
すると、暗くて見えていなかったが、部屋の隅に布が落ちていた。
これを使って止血しよう。
私は手際良く止血をした。
この布は持っておくことにした。血がついているが気にしないでおこう。
第11話 「騙」
閉じ込められてからしばらく経った。
……とにかく、このままだと埒があかないので、扉に体当たりしてみた。
神社にたまにやってきていた、警察が来るまでの迷惑客との対戦の成果が出ていたのか、扉はあっけなく開いた。
廊下をしばらく歩いていると、目の前に見覚えのある奴がいた。
草薙だ。
草薙はこう言った
「最初からこうするつもりだった。全て計画した上で、お前や水歌に接していたのだ。」
嘘だ。と思い草薙の首元をよく見てみる。
……なんと、神なら普通ついているはずの札がなかった。
巫女をやっていたのにどうして気がつけなかったのだろうか。
とにかく、草薙は危険だ。
早く対処しないと。
このままでは、水歌も被害に遭うのは時間の問題だ。
絶対に草薙…いや、神聖な神に扮した**悪霊**をこの建物から出しちゃダメだ。
私はお札を取り出す。
この規模の悪霊なら、数枚は必要だ。
だが、あまり長く対峙していると、私の体に悪影響が出てくるから早くしなければ。
意を決して私は悪霊に走って近づく。
このレベルなら、首、額、背、右足首、左手首に貼れば大体無力化できるだろう。
私は姿勢を低くして悪霊の右足首に素早く札を巻く。
この時点で動きが少し鈍った。
いきなり立ち上がると上半身を落とされるかもしれない。
まずは、持っていた血のついた布を投げて悪霊の気を引く。
その隙に背後に回り込み、背中にも札を貼った。
残りは3枚。
悪霊は、腕で鋭い攻撃を繰り返してくる。
私の頬にそれが掠り、血が出た。
でも、このくらいなら大したことはない。
首。
悪霊の動きがかなり遅くなった。
この隙に左手首にも貼る。
腕での攻撃をしなくなった。
最後は額。
これで終わり。
悪霊はその場に倒れ、札に吸い込まれて消滅した。
だがまだだ。
ここから出ないと……。
第12話 「外へ」 最終回
私はしばらく建物の中を歩き回った。
壁を叩きながら歩いていると、音が違う箇所を見つけた。
思いっきり押してみると、そこが開いて、外が見えた。
外に出て辺りを見渡す。
そこは、水歌が待つ、草薙がいた、神社だった。
私は一目散に水歌のところに行って、今まであったことを全て話した。
水歌は悲しそうだったが、同時に、安堵の表情を浮かべていた。
水歌は、最初から草薙が悪霊だということを知っており、倒して私を助けるため結婚したらしい。
改めて思うと、草薙の正体に気がつけなかった私は、巫女としての大失態を…。
すると水歌は、笑って、夕飯にしましょうと言ってきた。
今度こそ、本当の終わりだ。